第4話 3日間の入院生活

 なんだかんだで診察を行ったが、結果はお決まりのわからないだった。


 記憶喪失を直すには今までの日常生活を送って呼び覚ますしかないと判断された。


 まぁ、日常生活を送っても記憶が戻ることはないんですけどね……


 入院生活も結局3日で終了となったのだが、中々に濃い3日間だった。


********


「さぁ、雪君! お風呂に入ってないから体をフキフキしましょうねー?」


 梓さんが俺のことをきれいにする為に濡れたタオルと水が入った洗面器を持ってやってきた。


「お風呂とかはないんですか?」


「イマコワレテルノー、アシタナオルヨー」


 梓さんの棒読みな発言に疑問を感じつつも、まぁいいかと判断した。


「タオル貸してもらえますか?」


「一人だと背中とか大変でしょ? 私に任せてー?」


「そうですね。お願いします」


「ハーイ!」


 梓さんに背中を向けて上着を脱いだ。


「本当はお風呂に入ってゆっくりしたいんですけどねー」


「……………………」


「梓さん?」


「はひぃ!」


「どうしたんですか?」


「な、なんでもないよー? 背中フキフキするねー」


 梓さんが背中を拭き始めるがどことなく様子がおかしく感じるのは気のせいだろうか?


「うへへ……男の人の背中だぁ……!」


「えぇ……? 他の男性患者さんとかで見たことあるんじゃないですか?」


「ないよぉ? 基本的に男の人がお風呂入るときは女性の付き添いは禁止だから」


「そうなんですか? じゃあ骨折とかした場合ってずっとお風呂に入れないんですか?」


「その場合は家族とお風呂に入るか、家族が許可した人物となら入れるよー」


「ずいぶんと厳しいんですね……」


「そりゃそうだよ、お風呂に男性と一緒に入った看護師が男性を襲ったなんて事件があったくらいなんだから」


「そうなんですね……」


「そうそう、だから体を拭くぐらいまでしか看護師も許されないんだよー」


 そのままスルスルと背中を拭いていたタオルが前にやってきた。


「あ、あの前は自分で拭けますけど……?」


「いいからーいいからー♪」


 そう言って前も拭き始める梓さん……俺に抱き着きながら……


「はわぁ……生の男の胸板……うへへ……」


 前を拭くのに背中に体をくっつけながらズリズリ動かす必要があるんですか……?


 正直言おう……俺の息子がソロキャンプ始めそう……


「あ、あの……もう前は十分ですので……」


「そうだねー、じゃあ次は下拭いていくねー?」


「下も!?」


 ま、まずい! ソロキャンがばれる……!?


 ガラガラガラ


「お兄ちゃんお見舞いにきたよー……何してるの?」


「お、おぉ、海いらっしゃい」


「うん、で、何してるの?」


「お風呂が壊れてるらしくて、体を拭いてもらってるんだ」


「そう、じゃあ続きは私が拭いてあげる」


「えぇ!? だ、大丈夫ですよ! 看護師である私が責任持って拭きますので!」


「発情した雌犬に任せる仕事なんてないから」


「発情した雌犬!?」


「さ、お兄ちゃん、かわいい妹が続きをしてあげるね?」


「待て待て、もう上半身は全部終わったからあとは一人でするよ」


「チッ……」


「海?」


「そう、じゃあ発情した雌犬連れて外に出てるね」


「えぇ!? そんな殺生なぁぁぁぁ!?」


 海に引きずられていく梓さんを見送り下半身を拭き始めた。


「ソロキャンバレずに済んだぜ……」


 後ほどわかったことだがお風呂は壊れておらず、梓さんが説教されたとかなんとか……


********


 また次の日には……


 部屋でのんびりしていると扉が開き、海と知らない人が入ってきた。


「久しぶり、思ったより大丈夫そうで安心した」


「だから言ったでしょ? お兄ちゃんは大丈夫だって」


「そうは言っても自分の目で確かめたいもの。私大事なことは、自分の目で確かめたい派だから」


「えっと? こんにちは、俺の知り合い……でいいんですかね?」


「本当に記憶喪失なのね……」


「そうなの……お兄ちゃん記憶喪失になって貞操観念も喪失してるっぽいの……」


「へぇ……」


「あの……」


 俺が戸惑っていると海と知らない女の人がこちらを向いて自己紹介を始めた。


「私は坂間 時雨(さかま しぐれ)、貴方の幼馴染で……恋人よ♪」


「恋人!?」


 この世界の俺は恋人がいたのか!


 時雨は肩甲骨まである赤髪のロングヘアで胸もそれなり……Dカップはあるんではなかろうか?


 こんなきれいでスタイルがいい幼馴染の恋人がいたとは……


 この世界の元の俺はどれだけ恵まれた環境にいたんだ……


 新事実に驚いていると、海はどこからか取り出したハリセンでスパーンと思いっきり時雨の頭を叩いた。


「何勝手に恋人になってるんですか? いくら時雨姉でも許しませんよ?」


「痛いじゃない! 本当に覚えてないか確かめただけよ……?」


「ふーん? とりあえずはそういうことにしておきます」


「えっと……? 時雨さんは恋人ではなく、ただの幼馴染ということでいいですか?」


「雪にさん付けで呼ばれるなんて新鮮……でもどうせなら時雨って呼び捨てで呼んでよ、敬語も禁止」


「……わかったよ、時雨」


「……本当にまるで別人ね」


 そりゃ中身は別人ですからね!


「それで時雨はただの幼馴染ってことでいいのか? というかどれぐらい前から幼馴染なんだ?」


「んー……幼稚園に入る前からずっと一緒らしいよ? 私も昔のことはそこまで覚えてる訳じゃないけど、家がお隣だからそんなもんじゃない?」


「へぇ、家は隣なのか」


「そうよ、一緒に遊んで、一緒にお風呂に入って、一緒に寝たことも覚えてない?」


「残念ながら……」


「そう……じゃあもう一ついいこと教えてあげる」


「何々?」


「私は将来結婚する約束をした許嫁よ!」


「まじで!?」


 スパーン!


「だから勝手に既成事実作ろうとしないで」


「……幼稚園の頃約束したもん……」


「勝手に時雨姉が言ってるだけでしょ?」


 スゥーと時雨が目線をそらす。


「そういえば、俺って今何歳なんだ?」


「お兄ちゃんは私の1つ上で15歳。もうすぐ高校に入学だよ」


「そうそう、私と同じ歳で一緒に同じ高校に行くんだよ」


「へぇ、そうなのか」


「うん、それで一緒に同棲するんだよ?」


 スパーン!


「そんなこと許される訳ないでしょ? 時雨姉」


「い、いずれ一緒に住むんだもん!」


「へぇ、そんな未来があればいいねー」


「あーるーもーんー!」


「ま、まぁ、幼馴染なんだろ? これからもよろしくな?」


「……もう記憶戻らなくていいんじゃない? 私こっちの雪のほうがいいんだけど?」


「……それには同意したいけど、貞操観念だけ復活してくれないと困る」


「そういえば、言ってたね。ねぇ、雪、私も貴方にハグしてもいい?」


「あぁいいよ、ほれ」


 俺が腕を広げて時雨の方に向き合うと時雨は俺に抱き着いてきた。


「こ、これが男の人……雪に抱きしめてもらう感覚……」


 時雨もすっごくいい匂いがする……!


 前世ではこんな風に女性に抱きしめられたことなかったのに、この世界に来てから

女性に抱き着かれまくっている……貞操観念逆転最高だな!!


「本当に抵抗感がなくなってのね……ふーん……カプッ」


「ふぁ!?」


 時雨はそのまま俺の耳をハムハムし始めた。


 スパーン!


「はい、時雨姉アウトー、お母さんに報告しまーす」


 時雨を引き剥がそうと髪を引っ張りながら海が死刑宣告を告げる。


「痛い痛い痛い! 髪引っ張るのはやめてぇぇぇ!」


「ごめんね、お兄ちゃん、時雨姉をお説教しなくちゃいけなくなったから、これで帰るね。また明日来るから」


「ま、またね、雪! 次は二人っきりでいいこと「寝言は寝て言いましょうねー」

いたぁぁぁぁぁい」


 そのまま海と時雨は部屋から出て行った。


 次の日、お母さんと海と時雨の三人でお見舞いに来たのだが、話をしている最中にチラチラとお母さんと海の様子を伺う時雨の姿があった。

 一体どんなお説教があったのだろうか……


********


 2人が去ってしばらくした頃……


 ガラガラガラ


「噂の男の子はここかぁぁぁ!」


「!?」


 数人の看護師がこちらにやってきた。


「貴方が三戸さんが言っていた雪君ね? 三戸さんにあーんなことや、こーんなことをしてあげたって本当?」


 やってきた看護師達は近づいてくるなり、まじまじとこちらを見ながら問いかけてきた。


「えぇーと……あーんなことや、こーんなことが何かわかりませんが、握手したり、ハグしたりはしましたね」


「「「!?」」」


「じゃ、じゃあ、私もハグしてもいいわよね?」

「私も!」

「私が先よ! 先輩に譲りなさい!」

「そういうのは後輩に譲るもんじゃないですか!?」

「大人の魅力を先に教えてあげるだけよ!」

「加齢臭がするババアなんて魅力ある訳ないでしょ?」

「「「あぁん!?」」」


 やんややんやと急に場がカオス……


 というかこの看護師達も見た目のLv高くないか?


 この世界の人は全体的にきれいな人、かわいい人が多いのであろうか?


「胸がないスレンダー体形の方が男の人にモテルのよ?そんな常識も知らない無駄肉をつけた人はさっさと仕事に戻りなさい!」

「なっ! ハグした時に顔を埋めることができる胸があったほうがいいに決まってるじゃないですか!? そんなまな板に男の人の顔を押し付けて怪我させるつもりですか!?」

「誰がまな板だっ! 戦争よ! 戦争!」

「いいでしょう! 巨乳達よ立ち上がれ! 今こそ聖戦の時!」

「胸に余分な脂肪をつけた雌牛達に制裁の時よ! 貧乳を舐めるな!」


 どうしよう、このカオスな状況を穏便に納める方法はあるのだろうか?


 そして廊下から誰かが走ってくる音が聞こえる。


「何してるんですかみなさん!? 雪君は私の担当ですよ!?」


 梓さんがぜぇぜぇと息をしながら肩を上下させている。


「入院患者は担当以外と会ってはいけないなんて規則はないわ」

「そうよそうよ! 貴方だけおいしい思いして悪いとは思わないの!?」

「思いませんねぇ? じゃんけんに勝ったのは私なんですから雪君の看病は私だけで十分です」


 俺の担当はじゃんけんで決められたようだ。


「くっ……ねぇ、大淀さん……いいえ、雪君、貴方もこんな無駄肉つけた女より、スレンダーなお姉さんとハグしたいわよね?」

「何勝手なこと言ってるんですか!? 三戸さんの胸より、私の胸に顔を埋めたいでしょ? ほーら雪君、こっちの大きな胸の方がやわらかいわよぉ?」

「勝手なことばかり言わないで下さい! 雪君にハグしていいのは担当である私の特権です!」

「「「私達にもハグさせろ!!」」」

「ダメです! ダメですぅ!」


 全員とハグしたら話が纏まりそうな気がしてきた。


「じゃあ、皆さんとハグを「ねぇ、雪君、貴方は胸が大きいのと小さいのはどちらが好きなの?」えっ」

「そうね、選んでもらいましょ」

「雪君は巨乳と貧乳、どちらにハグされたいの?」


 急に雲行きが怪しくなったんですが……


「えー……ハグに巨乳も貧乳も関係ないと思うのですが「そんな回答は求めてない。巨乳or貧乳で答えて」……」


 俺に話を纏める能力はなかったようだ……

 あきらめて素直に答えよう……


「きょ、巨乳の方が好きです……」


 巨乳の人達がハイタッチをし、貧乳の人達はOTLの姿勢で絶望していた。


「雪くーーーーん!」


 梓さんがこちらに抱き着いて俺の顔を梓さんの胸の中に埋めた。


「雪君は大きな胸の方がいいんだね! じゃあ雪君はここに住もう? 婚姻届けは明日持ってきてあげるから!」


「さすがにまだ結婚する気は「三戸さん! 変わりなさい! 私達にもハグさせなさい!」」


 俺にもしゃべらせてもらえないだろうか?


「もーしょうがないですね、1人1分ずつですよ?」


「「「イエーーーーイ!」」」


 俺の意思に関係なく、勝手に決まっていく……気持ちいいからいいんだけどね!


「なぜ貧乳が選ばれなかったの……普通の男性はスレンダー体形の方が選ぶのに……」


「普通の男性がどうかは知りませんが……まぁ、ほら、ハグしましょ?」


「いいの?」


「言ったじゃないですか、ハグに巨乳も貧乳も関係ないって」


「「「雪くーーーん!」」」


 そうしてやってきた看護師さん達とハグをして行き、満足そうに看護師さん達は部屋から去っていった。


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応援ありがとうございます。

引き続きがんばっていきますので、応援、星等よろしくお願いします。

ちなみに書き溜めしていないので毎日更新できるかはわかりません……(オニイサンユルシテ……

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