Welcome to 貞操観念逆転世界

第1話 そこは貞操観念が逆転した世界

 人生の終わりとは唐突なものだ。


 その日もいつもと変わらない会社の飲み会から帰宅途中、青信号の横断歩道を千鳥足で渡っていた。


 面倒な上司の話を聞きながら相槌を打ち、ペコペコとお酒を注ぎ周り、飲めと言われれば飲んだ結果だ。


「うぅ……今回はけっこう飲まされたな……さっさと帰ってベットで寝たい……」


 愚痴をぼやきながら、フラフラと家に向かって帰っていた。


 街の明かりがあるとはいえ、時刻は23時過ぎておりそれなりの暗さがあった。


 多少暗かろうが、いつも通る道なので迷うこともない。


 歩きながら考えるのは明日何をするか。


 今日は2月13日、明日はバレンタインなんてイベントが世の中にはあるが、俺の人生には関係のないものだ。


 いつも通り溜まったアニメを見るか、漫画か小説を読むか、映画を見るか、外出するという選択肢がなく、家でダラダラ過ごすことしか考えない。


 そんなどうでもいいことを考えていたが、唐突に横から光に照らされた。


 こちらを照らす光に驚き、クラクラする頭で光の方向を見た時にはトラックが目前まで迫っていた。


 これが人生の最後か……あっけないもんだなぁ……


 そんなことを考えながら自分の人生を振り返り思ってしまった。



 大淀雪(おおよど ゆき) 25歳 彼女いない歴=年齢 顔普通 学力普通


 趣味はオタク的なもの全般とバスケ


 灰色の高校生活を送り、何の面白みもない大学生活を終え、つまらない社会人生活を送っていた。


 女の子との絡みは、ほぼ最低限。そのうち、彼女とかできるだろうと楽観視した結果だ。


 こんなことならさっさと大人のお店で童貞捨てとけばよかったな……


 大人のお店に行ったら負けと考えていたのが馬鹿らしく思える……


 死ぬ寸前だと言うのに酔っているせいかどうでもいいことを思い、後悔した。


 次の人生があるのなら、もっと積極的に女の子と関わろう、そして……恋人を作って今度こそ童貞を捨てよう。


 そう決心した瞬間、強い衝撃が体全体を巡り、意識がシャットダウンした。



********



 目を覚まして目に入ったのは知らない天井。


 ベットから上半身を起こし、辺りを見回すと病室のようだった。


 窓があるのでそこから外を見ると暗いだけで、どこかわからず部屋を見渡すと個室のようだ。


 なんだ……助かったのか……


 そのまま助かったことに安堵しながらも残念に思いつつ、現状把握に自分の体を触りながら思考を巡らせた。


 頭に包帯が巻いてある……だけ……? トラックに轢かれるのにそれだけですむのか?


 そもそも轢いたのはトラック……車じゃなかった? 手足は問題……なさそうだし……ってあれ?


 なんかいつもより手小さくね……? って手だけじゃなくて体も少し小さいのか……?


 いつも見ていた自分の体の大きさに違和感を覚え、ベットから起き上がった。


 なんか身長も低い気がする……


 辺りを見渡すが鏡はないので、とりあえず廊下に出てみることにした。


 廊下に出て部屋の患者名を見ると「大淀雪」と書いてある。


 自分の病室で間違いないようだ。


 廊下を見渡すと上にトイレへの矢印があったので、鏡で自分を見るためにトイレへ向かった。


 トイレはすぐに見つかり、鏡で自分の姿を確認してようやくおかしな状況に気付いた。


 昔の自分が写ってるんだけど……? なにこれ? なんかのドッキリ?


 鏡をペタペタと触ってみるが、普通の鏡にしか見えない。


「えぇぇ……俺若返った……? 夢……? 頬抓っても痛いんだけど……?」


 自分の状況に頭を悩ませるが、どう考えてもわからず、おかしな状況に戸惑いつつも尿意が襲ってきたので一旦考えるのをあきらめトイレを済ませようと奥に進む。


「げ……ここ女子トイレか……まぁ夜だし、バレないだろうから、さっさと済ませて出よう……」


 小便器がないことに気づき、女子トイレだと判断したが面倒に思い、そのまま個室で用を済ませて外に出てまたひとつ気付いたことがあった。


「ここ女子トイレしかなくね……? 男はどこでするんだよ……?」


 トイレの入り口はひとつしかなく、違和感を覚えながらも部屋に戻ることにした。


 そして部屋に戻るにつれ、声が聞こえてくる。どうも自分の部屋の前で誰かが話しているようだ。


「セキュリティを確認する限り扉が開いたのはこの部屋のみのようね」


「トイレにもクローゼットにもベットの下にもいません」


「窓から出た可能性は?」


「ここ5階ですよ? 無理に決まってるじゃないですか」


「でもそこからしか脱出経路は……」


 よくわからない会話が聞こえるが立ち止まっている理由もないので、そのまま自分の部屋に向かい、会話している人達に話しかけてみた。


「すみません、そこ私の病室だと思うのですが、何かありましたか?」


「「大淀さん!?」」


 話し合っていた女性2人はすぐさまこちらに駆け寄ってきた。


「目が覚めたんですね!? 無事でよかったです!」

「何事もなさそうで安心したわ……! 歩いても平気なのね? どこへ行っていたの?」


「トイレに行きたかったので、トイレに行っていました」


「それなら部屋にトイレがあるからそこを使っていいのよ!」


「すみません、部屋にトイレがあると知らず……」


「!? い、いいのよ! 自分の部屋じゃないもの! そんなこと知らないわよね!?」


 普通に返答しただけだが、なぜか女性は驚きの表情をしていた。


 変な違和感を覚えつつも現状を把握する為、気にせず会話することにした。


「はい、さっき目を覚ましまして……とりあえず、現状の確認を行いたいのですが

夜のようですし、朝になってからお話したほうがいいですかね?」


「今からでもかまわないわよ。朝一にご家族に連絡もしたいし、少しお話しましょう?」


「ありがとうございます。ちなみに今何月何日の何時ですか?」


「今日は2月15日夜中2時ね」


「そうなんですね。夜遅くに申し訳ございません。」


「!? 全然かまわないわよ! とりあえず、お部屋へ戻りましょ? 貴方の体調も確認したいし」


「わかりました。」


「三戸さん、大淀さんの資料を取ってきてもらえるかしら?」


「はい! すぐ取ってきます!」


 パタパタと走っていく三戸と呼ばれた人を見送りながら、俺はもう一人の女性と一緒に部屋に戻った。


 部屋に戻りベットで上半身を起こした状態で、もう一人の女性は部屋にあった椅子に座った。


「まずは自己紹介しましょうね。私の名前は小鳥遊 巴(たかなし ともえ)。貴方の主治医よ」


「小鳥遊先生ですね。ご存じかと思いますが、大淀雪と言います。よろしくお願いします。」


「えぇ! これからよろしくね! それで、まずは体調の確認したいのだけど、痛みや違和感があったりしないかしら?」


「特に痛みや違和感はありませんが・・・なぜ私は頭だけ包帯が巻いてあるのでしょうか?」


「貴方が家の階段から落ちて頭を打ったからよ。打ちどころがよくなかったのか5日も気絶してたのよ? すぐに貴方のご家族が救急車を呼んで、この病院に運ばれて来たわ。怪我の具合を確認した結果、頭を打ったような跡があったから処置して包帯を巻いているのよ」


 自分の中で違和感が膨れ上がっていくのを感じる。


「5日も気絶していたんですか……? いえ、それより家の階段から落ちた? すぐに家族が救急車を呼んだ?」


 飲み会があった日は2月13日だったので1日ちょっとしか気絶したことにならないのに5日間気絶していたと言われ


 俺が暮らすマンションに階段はあるが、普段使うことはなく、部屋に階段なんてものはない。


 一人暮らしなので家族が救急車を呼ぶことなど不可能なことに状況が掴めず困惑していると


「そうよ、貴方が家の階段から落ちた状況を聞きたいのだけど……覚えてないかしら……?」


「そうですね……トラックか何かに轢かれた訳でなく、階段から落ちただけですか……?」


「トラック……? 念のため確認したいのだけど家族構成や普段何しているかとか思い出せることはある?」


「家族構成は母が一人だけですね。母の名前は「先生! 大淀さんの資料持ってきました!」」


 三戸と呼ばれていた人が扉を勢いよく開け放ち、パタパタとこちらへ走ってくる。


「ありがとう三戸さん。一応このフロアは大淀さんしかいないからいいけど、病院内では走らないようにね?」


「あはは、すみません……」


 小鳥遊先生は持ってきた資料を見て、眉を顰めた。


「妹さんのことは思い出せないかしら?」


「妹? いませんけど……」


「そんなはずは……まさか……」


「どういうことですか?」


「この資料には、貴方のご家族が男性保護省に報告した情報が載っているのだけど家族構成は貴方と母親と妹さんの3人で一軒家に住んでることになっているのよ」


「はい? すみません、色々と意味がわからないのですが……男性保護省ってなんですか?」


「男性保護省は日本の行政機関のひとつで日本の数少ない男性を守りつつ、子孫を残すために男性を管理する機関よ」


「えぇ……男性が少ないってどういうことですか?」


「世の中の男性と女性の比率は一般的に1:50と言われているわ、実際にはもっと少ないように感じるけど」


「1:50……」


「そうよ。その為世の中では、女性から男性を守る為に色々優遇されているんだから」


「女性から守る……」


「ええ。世の中男性が女性からの性被害にあう事件なんてよくあることよ」


「そうですか……」


「やはり記憶喪失……そのあたりの記憶もないのね……」


「そのようですね……なるほどなるほど……」


 自分の体がいつもと違うこと、男女比がおかしいこと、女性から男性を守ること、違和感がまとまり、雪はひとつの結論に達した。


 男女比が1:50の貞操観念が逆転した世界に転生したのか俺は……


 現状を理解し思わず天井を仰ぎ見た。


**************************************

初めまして、勢いで書いてます。

物書きの知識が全くありませんので、色々と至らない点があると思いますが、

ご理解頂いたうえでお読みいただければ幸いです。

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