【027】普通の一日
「はぁ……やっぱり静森くんと会うと癒やされる」
いいや、実際には癒やされるとは異なるのかも知れないが、砂月の中では心が満ちるというのは、そう表現されるようだ。昨日抱き合ったことを思い出しながら、砂月は本日は家にいる。久しぶりに一人でゆっくりしようかと考えて、先程まではキッチンでアップルパイを作っていた。
それを切り分け、アイスティーを手に、現在はリビングのソファに座っている。
テーブルの上のアップルパイは、我ながらよく出来た。
「でも結婚かぁ……俺だって静森くんともっと一緒にいたいけど、無理なものは無理だし。うん、無理!」
自分に正直な砂月であった。
それから食べたアップルパイは非常に美味だった。
そのようにしてダラダラした後、砂月はソロボスでもしようなかなと思い立った。装備を整えてから、砂月は【ギルド転移】で、ハウトバルン山へと向かった。夕暮れの風景の中にそびえ立つ山の坂を登っていき、砂月はここのボスである【虚竜】の前に立った。既に何度か倒したことがあるが、周回はまだしていない。
「ドロップ品が、生産に使えそうなんだけど、生産は……新しいレシピは実装されるのかな? 正確にはもう実装っていう言葉じゃないと思うけど」
ただ視線操作でそれらが表示出来るのは間違いない。なお蘇生スキルを付与できた武器などの効果は、消失しているようで、そのスキルを選択できなくなっている。
「……まだ、生死とか痛みを実感してないんだよなぁ、俺。ゲームの感覚も、画面からリアルに代わった、って、いうのはあるんだろうけど、抜けきってない気がする」
ブツブツと呟きつつ、砂月は暗殺者用の武器の中で、最も愛用している武器を構える。【煌星の双月蝕】という双剣だ。
銭湯フィールドに入ると、ボスが目の前に出現した。レーズン色の竜が、揺らめく影のような空気を纏って立っている。それを目視して、すぐに砂月は地を蹴った。双剣を構え、舞うように動く。一撃でボスは沈み、戦闘フィールドは解除された。
「ふぅ」
一呼吸置いてから、またボスに近づき、戦闘フィールドが発動するとボスを倒す。
砂月はそれを繰り返し――気づけば半日ほど熱中していた。
「そろそろ帰ろうかなぁ」
静森に貰った腕時計を見る限り、既に真夜中だが、天候や空の色はゲームのフィールドに準拠するとのことであり、ここは夕暮れの風景のままだった。
だが家に転移すれば、当然庭には星空が広がっていた。
夜空を見上げてから、家の中へと入る。
「こういう一日もなんだかいいなぁ。やっぱり俺、一人も好きなのかも」
そう呟いた砂月は、その後シャワーで体を流し、髪を洗った。
そしてベッドに沈む頃には、心地の良い疲労感に襲われていた。瞼を閉じるとすぐに睡魔に襲われてきて、砂月はそのまま眠りについた。
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