【025】話を通す


 砂月はその日考えた。本当に優雅が目をかけていたのなら、フレのフレをボコってしまったと言うことである。一応話を通しておこうと、優雅に連絡をしてみることにした。


「こんばんはー」


 チャットを送ってみる。普段チャ勢を自負しているのに、あまり自分からフレンドにチャットを送らない砂月は――単純にまだフレンドが少ないだけである。そしてカミサマを除くと数少ない二名の内の一人、優雅はすぐに応えた。


『砂月! 元気か? 連戦中かと思って声かけずらい』

「元気だよ。あのさ、ちょっと飲みに行かない? 話があって」

『話? いくいく。じゃあこの前の場所でいいか? あそこくらいなんだよ、俺がお忍びでいけるところ』


 そんなやりとりがあった。

 こうして砂月はその日、プリン評議会のギルドホームを出て、エトワールシティへと向かった。すると優雅が先に来ていた。


「よ」

「久しぶり、優雅くん」

「ビールでいいか?」

「うん!」


 二人はカウンター席に座る。店内は混雑していたが、視線は飛んでこない。


「そういえばお忍びってどういうこと?」

「今俺のギルドもそこそこ有名になってきたから、何かと目立つんだよ。俺は顔も知られてるしな」

「大変なんだね」


 本日は優雅の服装も、いつもと違いどこか初心者風だ。初心者風とはいっても、それは砂月の観点で、エトワールシティは全体的に見るとレベルが高い者しかいないから、そこに紛れる形である。


「乾杯」


 届いたジョッキを二人はあわせる。ゴクリと一口飲み込んだ砂月は、それからまじまじと優雅を見た。すると一気に三分の一ほど飲んだ優雅が視線を返した。


「それで、話? お前から話があるなんて初めてだな。ついに破局か?」

「違うよ、破局してないよ。自然消滅しそうでたまに怖いけど、会ってるときは俺と静森くんは仲良しだよ」

「じゃあ何かあったのか?」

「うん、あのね、【LEGEND】の【オズ】って人を知ってる?」


 単刀直入に砂月が切り出すと、優雅が派手に首を捻った。


「いいや? 聞いた事がない。そいつがどうかしたのか?」

「そ、そっかぁ。知らないんなら別にいいんだけど、優雅くんに目をかけてもらってるって話をちらっと聞いてさぁ」

「俺が? 俺のフレリスには少なくともいないぞ?」

「ふ、ふぅん」

「そいつがどうかしたのか?」

「あのね、この前ポラリスタウンでちょっと揉めちゃってさ」

「なんだって!?」


 砂月の言葉に優雅が目を見開いた。


「怪我はないのか?」

「うん。俺も一緒にいた人も大丈夫だった」

「馬鹿野郎あっちだ。お前に喧嘩を売って、生きてんのかそいつ!」

「……あ、うん。俺、そういう扱い?」

「ん?」

「え?」

「砂月に勝てる奴がいるわけがないだろ。可能性がゼロじゃないって意味では、それこそ静森ならお前より強い場合はあるかもしれねぇが。それは愛情とかそういう名前だろ?」

「俺は静森くんには、【土震大魔法】をぶっぱなしたりしないよ!」


 砂月が思わず叫ぶと、優雅が咽せた。


「【土震大魔法】だと? そ、そういえば――この前、『ポラリス大震災』とかいう……ま、まさか? まさかのまさかか!?」

「なにそれ」

「――……いや、いい。温厚な砂月を怒らせたんだから、相手が悪いだろ」

「なんの話?」

「砂月。お前の目から見て何があったのか、詳細に詳しく! 詳しく! 詳細に!」


 優雅に促されて、砂月はチョコとの出会いから先日までの記憶を語った。すると何度もビールで咽せながら、優雅が聴いてくれた。二度おかわりした優雅は、三杯目を飲み干すと深々と溜息をついた。


「砂月」

「うん。どう思う?」

「悪かったな。俺の名前を騙っていたとしても、それは俺にも責任がある」

「俺もそう思うよ。きちんとギルメンの管理ができないんなら、ギルマスなんて止めちまえよ!」


 笑顔だったが、砂月はどきっぱりとそう告げた。するとぎゅっと目を閉じてから、ジョッキを置いた優雅が、両手をカウンターにつき、その場で深々と頭を下げた。


「本当に悪かった」

「まぁ優雅くん個人が悪いとは思わないけどさ」

「全【LargeSTAR】の関係先ギルドに、以後俺の名を騙らないことと、ポラリスタウンで暴れないようにすることを、通達しておく。ただ奴らみんな血の気が多いから、今後もこういうことはあるかもしれねぇ。そういう時は遠慮なく言ってくれ」

「分かった、ありがとう」


 砂月は頷いたが、内心ではそこまでギルド関係が複雑だとは思っていなかったので驚いた夜だった。



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