【023】プリン評議会

「ただいまー! お客様連れてきたからみんなあいさーつ!」

「めずらしー!」

「こんにちはー!」

「何飲みますかー?」


 プリン評議会のギルドホームに入ると、一斉に声がかかった。砂月はその場を見渡しへラリと笑う。


「おすすめをくれ。はじめまして、俺はバジル。よろしく」


 プリン評議会は本当に和気藹々とした賑やかそうなギルドであった。

 別にコミュ障というわけではないが、ぼっち歴が長い砂月にとっては、このように大勢に温かく出迎えられるというのは、新鮮でたまらない。促されたテーブル席で、チョコと向かい合い、左右には他のギルメン達とともに座る。たちまちテーブルの上には多くの料理や酒が並んだ。どれも生産レベルで言うと低レベルで作成可能なものだが、手作り感が溢れていて、なんだか和んだ。


「マスター、そういえばギルドランクどうなったと思います?」

「あ、それそれ! 今バジルさんとも話してたんだけどどうなったの?」

「一位が聞いた事ないギルドだったんで、多分非公開の人のとこっす。【おどりゃんせ♪】ってところ!」


 砂月はそれを聞いて、盛大にジントニックを吹きそうになったが堪えた。

 それが事実だとすれば、非公開一位も自分かもしれないとふと思う。


「上には上がいるのね。ガチ勢って本当奥が深いって言うか」


 チョコの声に周囲が頷いている。


「ですね。【胡蝶の夢】と【LargeSTAR】は目立つけど、本当のガチすぎるガチが出てきてなかったって事ですね」

「やばぁ、どんな廃人なんだろ」

「んね。気になるなぁ。絶対怖い奴」

「ペットボトルをトイレにしてる人たちなのかな」


 周囲は爆笑したが、砂月は顔を背けて顔を引きつらせて笑った。そんな現実は存在しないが、気まずさが半端ない。


「でも今日俺、【胡蝶の夢】の権限持ちに説教されました。みんなで世界を解放しなきゃならないときに、浮ついた言動をするなって。あそこ本当に真面目すぎて、存在が厳しすぎる」

「わかるわかる。でも、【LargeSTAR】もやだよな。俺、【LargeSTAR】の同盟先の同盟先の同盟先とかいう下部ギルド名乗ってる【LEGEND】のギルメンに絡まれて、殴られそうになったし」


 プリン評議会のメンバーは皆、様々に愚痴っている。

 きっと事実なんだろうなぁと砂月は思ったが、何も言わずに酒を飲む。

 今の街の空気を初めて体感した気分だった。

 今度静森と顔を合わせたら、少し世情に強くなったと語ろうと決意する。

 しかしながら、一位の【おどりゃんせ♪】のマスターが自分だというのは、切実に気まずかった。なにせ、ぼっちソロギルドである。


「バジルさんは、ギルドはどこ入ってるんですか?」


 その時、隣に座っている青年に声をかけられた。先ほど、【大豆】という名前だと自己紹介をしてもらった。プリン評議会のサブマスらしい。


「俺は自分の生産用倉庫ギルドだよ」

「まず生産用倉庫ギルドを普通持たないんで、ガチ勢さんでしたか、すいません」

「ち、違うよ!」

「信憑性ゼロだけど突っ込まないでおくっす。他は? 三つは入れますよね」

「そこだけ」

「じゃ、うちきちゃいなよ!」

「い、いいけど……」

「お! 言ってみるもんだな。わーい。加入加入!」


 こうしてその場のノリで、砂月はプリン評議会のギルメンになった。二つ目のギルドである。砂月は、レベルなどを非公開設定しておいてよかったと思った。一覧で確認したところ、本当に見ながらレベル50以下だったからである。人はレベルではないが、高すぎたら、それこそペットボトルトイレを疑われそうで怖かった。みんなの役に立つためにとレベルを上げたはずだったが、ここに来て砂月は、自分が上げすぎだったという自覚をやっと持ち始めたのだったりする。


「二階のベッドは自由に使ってね。あと、食べるものに困ったらみんなに相談。ここは助け合いギルドだから! 家機能もってない無課金だった子が多いから雑魚寝だけど」


 チョコの声に、曖昧に砂月は頷く。


「とにかく今日はバジルンの加入のお祝いに飲むぞー!」


 早速あだ名がつけられている。なんだかこのノリ、懐かしいし嫌いじゃないと砂月は思った。


 この日を境に、砂月は主にバジルという名前で過ごすようになる。

 そして、プリン評議会のギルメンとして、主にチャット勢となった。

 ソロボスをおやすみし、皆と遊んでいる。



「――って感じ」


 砂月は、次の第三木曜日に、静森にその話を語った。待ち合わせをしたのは、ハウトシティの酒場の一つ、【福成亭】である。


「そうか」


 紋付き袴姿で現れた静森は、頷きながら、徳利を手にし、砂月のお猪口に清酒を注ぐ。ニコニコしながら、砂月は最近の出来事を語る。本日は砂月も和服だ。砂月の家で待ち合わせをしなくなった理由は簡単で、静森が指定してきたからである。一瞬砂月の頭には、いよいよセックスレスだという思いがよぎったが、それよりも今回に限っては語りたい話が沢山あったから拒否しなかった。


「プリン評議会は本当にさ、なんかアットホームな感じ」

「【チョコ】という方がマスターだったな?」

「そそ。チョコさん、いい人だよ」

「親しい相手ができるのはいいことだが、俺以外を見るのは許さないぞ?」

「唐突に甘い言葉言う? もー! それならもっと俺を大切にしてよ!」

「砂月と二人きりの世界に戻りたい程度には、俺はお前が大切だ」

「そうなの? 最近愛が見えにくいけどね?」

「お前と二人で平和に暮らす家を建てるために、世界を穏やかにすることに必死なんだ、今はまだ」

「ふぅん?」

「俺も早く、お前と二人で【おどりゃんせ♪】で過ごしたい。初心者支援でもしながら、まったりと、お前の料理を食べて日々を送りたい」


 静森の言葉に、砂月が小さく頷く。その口元は綻んでいる。会えるだけで、顔を見られるだけで、なんだかんだで幸せだからだ。


 この日も語り合いながら、二人は遅くまで飲み、そして解散した。


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