【018】バレバレだからな≪SIDE:静森&優雅≫

 砂月を寝室に残して、静森はキッチンへと立った。

 すると来訪した優雅が、どかりとテーブルの前の椅子に座った。


「今日はソロボスには行かないのか?」

「それ、暗に行けって行ってるのか? 静森って、俺を邪魔者扱いするタイプ?」

「ああ」

「おい。そこは否定しろよ。なにはともあれおめでとう!」

「なにが?」

「バレバレなんだよこのリア充。爆発しろ」


 優雅の声に、静森が楽しそうに笑った。


「ああ。お前の助言通り行動してみて良かった。恋愛に関しては、レベルではなかったな」

「低レベルで悪かったな。俺がログアウトしたら、お前らはどうせ二人っきりなんだから、もうちょっとは俺とも遊べよ本当!」

「そうだな」

「【真世界】で顔を合わせた時にお前らが破局してたら、俺は全力で砂月を慰めてやるから、お前は気にしなくていいからな」

「俺が砂月と別れるわけがないだろう」

「フラれないように気をつけろよ。お前、砂月意外には冷たいから、砂月だってその現実に気づいたら見方を変えるかもしれないだろ」

「……」

「というかお前、きちんと砂月には伝えたのか? 自分のギルドの話」

「……」

「もしかしてお前、【おどりゃんせ♪】に移籍するのか? それはないだろ?」

「……」

「なにせお前がいなくなったら――」

「今日の付け合わせの温野菜はブロッコリーに決まりだな」

「悪かった。ブロッコリーは抜きで頼む」


 優雅はブロッコリーが嫌いである。

 この話はそこで終わり、この日のオムライスの付け合わせの温野菜はコーンであり、ニンジンもブロッコリーもないため、真っ黄色の皿が三つ食卓に並ぶことになった。


 それから静森が砂月を起こしに行き、三人での食卓が始まる。

 静森を見る砂月の目が優しいし、静森は元々砂月を見る目が優しかった。

 優雅はそんな二人を、生温かい気持ちで眺めている。


「で? 砂月は、静森のどこが好きなんだ?」

「なっ!?」


 何気なく優雅が訪ねると、いつも上品に食べる砂月が、スプーンからポロリと卵を皿に落下させた。そしてみるみる真っ赤になっていく。


「な、なっ、へ、え、あ、あ、あの!?」


 砂月が静森を見て、唇をパクパクと動かす。声が出てこない様子だ。


「俺は話していない。だが、優雅に知られたら困るのか?」

「困らないけど、え!? なんで分かったんだ!?」


 砂月が今度は勢いよく優雅を見た。思わず優雅が苦笑する。


「おいおいおいおい、砂月の中で俺って鈍いキャラなのか?」

「うん」

「おい。そこは否定しろよ! それで? なに、顔か? 何処を好きになったんだ?」

「え……え? えっと……存在って言うか……」

「そこは素直に惚気るんだな!」


 俯いて真っ赤なまま小声で言う砂月に対して、優雅がつっこむ。

 静森は嬉しそうな顔をしたままだ。端から見ていると砂月は本当に愛らしい。それは恋愛的な好意は抱いていないが、優雅も同じ見解だった。


「静森は砂月のどこが好きなんだ? 知ってる。存在だろ」

「その通りだ」


 さらりと静森が述べると、ついに砂月が両手で顔を覆い沈黙した。

 二人の甘ったるい空気を眺めながら、優雅はオムライスを口に運ぶ。


「まぁ、仲良く頑張れ。応援してやる」


 優雅はそう述べてから、視界の端のデジタル時計を見た。

 あと一週間と三日で、優雅はログアウトする。その後は、当初の話だと皆の時間軸が一緒になり一斉スタートの様子だが、こちらの世界には、恋人同士の二人が二人でしばらく残る。さらにその後は、砂月が一人で残るのだという。そう考えて、ふと優雅は尋ねた。


「俺は制限があるからログアウトするとして、静森がログアウトする時に砂月もログアウトするのか? それとも予定通り砂月は残るのか?」


 その問いに、静森が思案するような顔をしてから、砂月を改めてみた。

 砂月は顔から手を離すと、そんな二人を交互に見る。


「俺は最後まで残ろうと思ってる」

「ふぅん。静森がいなくても砂月は耐えられるってことか」


 ちょっと意地の悪いことを優雅は述べてみた。すると静森があからさまに優雅を睨んだ。砂月はそれには気づいていない様子で微笑する。


「残り時間を有意義に使って、【真世界】でもっと静森くんの力になりたいし、それは優雅くんの力になりたいというのともおんなじだ」


 砂月は本当に根がいい人であった。

その様子を見ていると、静森も優雅も毒気を抜かれる。


 そんなこんなでこの日の朝食の時間は流れていき、この日は三人でギルドのみのクエストをこなしてから、ボスを周回した。


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