【012】三人での活動

 翌日三人で向かった先は、地下ダンジョンという設定だった【闇霜の虚ろ】であり、その場所には、【イグナンドル】という巨大なゴーレムが何体もいた。【ゾディアック戦記】において最新のレベル上げ用のmobの群れだった相手だ。


「俺のレベルでここに来るとは……」


 完全に遠い目をしている優雅をよそに、砂月は微笑しヘイトをとる壁役のスキルと回復及びバフの係を買って出る。


「やるか」


 静森が杖を構えた。

 それを見て唾液を嚥下した優雅が、緊張した面持ちで銃を構える。


 こうしてレベル上げが始まった。現在時刻は、朝の十時。

 砂月が敵を引きつけた直後、静森が土震大魔法を放った。範囲魔法であり、本来ここにいるようなHPの多いmobにはあまり適していないと、一体ずつ倒すのがセオリーだと、そう優雅が言う前に、砂月が引き寄せていた15体の敵が一撃で消滅した。一気に優雅のレベルが20ほど上がった。


「いい感じ」


 満面の笑みの砂月は、当然のような顔をして次の敵を引き寄せる。実際、砂月にとっては当然だった。頷いた静森も再び魔術を放つ準備に入る。今度こそはと優雅も銃を構えたが、スキル発動前に、静森の手により敵は全て再び消滅した。


「あ、うん。俺は確かに自分で頑張る気があるが、言い直す。悪い、本当に寄生になってるわ」

「気にしなくていいよ、ギルメンなんだし」

「とりあえず、今はそれでいい」


 砂月と静森の声に、優雅は引きつった顔で笑った。

 だがその後、いよいよ顔が引きつったのは、午後十時になった時のことである。


「な、なぁ? 寝ないのか?」

「ん? カンスト目指すんだよね?」

「二十四時間はいけるだろう」

「ごめん俺はお前らとは体のできが違うから」

「じゃあ休む?」

「休むのならば、俺はもう手伝わない」

「朝まで頑張りまぁす!」


 このようにして地獄のレベル上げは続いたのだった。翌日の朝、三人で帰宅した後、彼らは各々爆睡した。そんな日々が二週間も続けば、簡単に優雅のレベルもカンストしていた。しかしLv.500になった嬉しさよりも、このごろやっと戦闘に参加できるようになった己を優雅は誇っていたのだが、砂月も静森もそれには気づいていなかった。


 その日ギルドホームに帰宅すると、砂月がお祝いだとして、いつもより豪華な食事を用意してくれていた。またプレゼントだとして、弓術士の装備の一つを用意していた。


「さすがにこれは受け取れねぇ」

「もらっておけ」

「静森、で、でも、【大薺の万能属性弓】のSランクだぞ……? こんな、幻の生産品……」

「それを手にして、火力を上げて、砂月の力に少しでもなれ。それが支援に対する恩返しというものだ。それと、これを」


 静森はそう述べると、小箱を優雅の前に置いた。

 受け取り開封した優雅は目を丸くする。


「かっこいい足輪だな」

「……【千年竜】のドロップ品で、射程が伸びる」

「え!? まさか【アカシックの円環】か!? は、初めて見た……【ゾディアック戦記】ですら俺は持っていなかったぞ……」

「ギルメンだからな」

「お前も実はいい奴だったんだな。俺はそれが身に染みた」


 優雅の言葉に静森が小さく笑う。砂月はニコニコとそんな二人を見守っていた。

 このようにして優雅も無事にカンストした。


 この夜は祝杯をあげ、翌日の朝を三人は迎えた。


「ねぇ、あのさぁ」


 砂月は朝食の用意をしながら、首だけで振り返る。既に完成した品をテーブルに運ぶ手伝いを静森がしている。優雅は座っている。


「ギルド単位でしかいけないレイドがあったじゃん? 今もそれってあるのかな」


 砂月の声に、静森が動きを止める。直後、大きく優雅が頷いた。


「あるぞ。俺のギルドで試した。全滅したけどな」

「……ああ。あるようだな」

「え、強い? 俺行ってみたいんだけど」


 砂月の声に、静森が頷いた。


「砂月が望むのならばついて行く」

「もちろん俺も行く!」


 こうして三人は、ギルドレイドに行くことにした。朝食を食べ終えてから各々装備を整えて、現地へと向かう。そこには光り輝く泉があった。レイドはその水面に触れると開始という仕様だった。試しに砂月が触れると、三人は亜空間に飲み込まれた。


 目の前には【ゾディアック戦記】で目にしたことがある【牡羊座の使者の僕】がいた。


「やろう!」


 満面の笑みに変わった砂月が、本日も壁役とバフと回復役を務める。優雅が狙撃の構えをし、静森が【破壊大魔法】という単体攻撃スキルを放つ準備に入った。本来、ゲーム時でも三人で倒すというのは大変な存在だったが――彼らは二分で倒し終えた。


「やった、回せるじゃん!」


 クリア後砂月が、再入室の構えを見せた。静森が無言で従う。優雅はもう何も言うつもりがなかった。この日は朝の九時から開始し、夜の九時まで倒し続けた。レイドは、0時を境に討伐可能なボスが変化する仕様であり、1時にクリアギルド名が表示されるというのがゲームの仕様だった。しかしそんなことは忘れながら帰って、三人は食事をしていた。するとピロリロリンと音がして、不意に視界にラインが走った。


『クリアギルド・【おどりゃんせ♪】』


 それを見て、皆は現在が午前一時であると気がついた。


「ゲームとこの辺は近いんだなぁ」


 砂月が呟くと、二人が頷いた。

 これを契機に、彼らのレイド三昧の日々が幕を開けたのである。



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