【011】二人目のフレンドとギルドへの加入
青年は砂月を見ると、唇の右の端を持ち上げる。
「! ああ、メールをくれた奴だよな? 名前は?」
「俺は砂月です」
「俺は優雅。銃弓士だ」
頷いて砂月はパーティ申請をした。そしてレベルを確認すると、Lv.382と出た。なお静森と砂月はLv.500であるが、Lv.382は別に低レベルではない。ゲームの場合であれば、【葉竜】など一撃だ。
「なんで募集してるの? 自分で倒せるでしょ?」
「……まぁ、な。俺自身のシナリオは、残りは五体だ。あちらは俺には無理で諦めている。ここを募集しているのは、まだクリアしていない奴が万が一来た場合に備えてというのと、フレンド作りのためだ」
「なるほど? でもそれなら、残りの五体に行った方がよくない?」
砂月にとってはそれが当然だったのでそう尋ねると、優雅がしょっぱい顔をした。
「残ってるのは、【ゾディアック戦記】でも最近実装されていた【暗黒竜】から【銀竜】までだ。二人でいけるわけ……って、カンスト? お、お前Lv.500? は? 確かにお前を見たことはないし、砂月って初めて聞いたが、まさか最近ここに来たのか?」
「うん」
「……砂月、職は?」
「色々」
「メインは? 色々ってなんだよ?」
「支援は暗殺者でやるよ」
「は? 暗殺者みたいなマゾい職を、カンストしてんのか? お前なに? 廃人さんか何かか?」
「違うよ。普通だよ! ライトユーザーだった!」
「信憑性なさ過ぎるだろ……。まぁ、いい。実際、死なないこの世界の内に俺はクリアしたい。自信があるなら、支援してもらおうじゃねぇか。俺は過去、誰かに支援されたことは一度も無ぇ。いつもする側だった」
「ほうほう。じゃ、【暗黒竜】の前に集合で!」
と、こうして【葉竜】は倒さず、二人は各々、移動アイテムで別のボスへと向かった。なおゲーム時でも、【暗黒竜】の強さは評判だった。確かにあれはソロをするならば、Lv.500でギリギリの場合もある。Lv.382では辛いだろう。
「到着!」
砂月が現地でそう口にすると、直後優雅も現れた。
「スキルはどうする?」
「俺が倒すから、なるべく離れてて」
「へ? 本気で言ってんのか?」
「うん」
「……お、おう。一応蘇生スキルが付与してある武器をもってるから、お前が死んだら蘇生する」
「よろしく!」
そのまま砂月はボスへと向かった。慌てたように優雅もついてくる。
二人でボスとの戦闘フィールドに入ったのを確認したところで、砂月は暗殺者のスキルを放った。無論、一撃でボスは沈んだ。
「お疲れ様でした」
「お、おう。お、おう? え? 一撃?」
「うん? よし、次いこう!」
「あ、ああ……へ? なんなんだお前本当……」
優雅は信じられないものを見たように、呆然としていたが、その後すぐに気を取り直した様子で姿を消した。移動アイテムだと判断し、砂月も順番的に次のボスへと向かった。そしてそちらも一撃で倒す。この日二人は、優雅が未クリアだった五体を全て倒した。倒したのは砂月である。移動時間に一部徒歩が含まれていたため、その結果日が暮れた。
「これでシナリオは全部クリア?」
「ああ。助かった。なぁ、フレになってくれ」
「いーよー!」
砂月はニコニコしながら二人目のフレンド登録をした。
「名前がバジルになってるぞ」
「暗殺者はバジルなんだ」
「『は』って……」
「メインは砂月だから、フレには『砂月』って呼ばれてる」
「わかった。じゃあ、砂月って呼ぶけどな……お前さ、ギルドとかどこ?」
「最近一人ギルメン増えたけど、自分のソロギルド」
「俺のとこ来るか? 枠空いてるなら」
「ううん、いや、いい。大丈夫」
「じゃあそっちの枠が空いてるなら、俺を入れてくれないか?」
「いいよ」
即答しつつ、砂月は静森のことを思い出した。以前、誰かを入れるかもしれないと伝えたから構わないかと判断する。ただ念のためメールで報告することにした。
『一人ギルメン入れるね』
すると、すぐに返事が返ってきた。
『わかった。お前のギルドだ、好きにしていい』
それを確認してから、砂月は優雅をギルドに誘った。
その場で優雅がギルドに加わる。
「【おどりゃんせ♪】か。初めて聞いた。って……ギルドレベルが100だと? は? ガチギルドか?」
「違うよ、俺のソロギルド」
「ギルメンは……砂月とバジルがお前だとして、すごいな。全員カンストか」
「静森くん以外は全部俺」
「は!?」
「ん……」
「二つ突っ込んでいいか? 11体お前カンストさせたのか? そこまでいくといっそバカなのか? すごすぎだろ」
「それ褒めてる? ひいてる?」
「……ノーコメントで。それと、静森って、魔術師の静森か? あの、いっつもトレード希望だしてた、あいつ?」
「多分そうだね。知り合いなの?」
「俺はお前以外、アイツ以外のカンスト者に会ったことは一度も無い」
「じゃあログアウトまでに、優雅くんもカンストしないと」
「呼び捨てでいい」
「考えとく! ギルドホーム行こうか」
砂月は笑顔で、優雅を誘った。二人でギルドホームに移動すると、丁度倉庫から静森が出てきたところだった。
「うっわ、ほ、本物だ。静森……」
「優雅だったか?」
「おう。よろしく」
「――砂月が誘った相手だからな。ある程度よろしくはする」
「冷てぇな、おい!」
「砂月がいなかったら、この世界に俺とお前はしばらく二人きりだと思って絶望していたから、砂月が来てくれて俺は救われた」
「なんで絶望するんだよ!」
「【葉竜】の募集している暇があるならレベルを上げて、他をさっさと消化しろとずっと思っていたからだ」
「正論!」
冷ややかに聞こえるがいつもより饒舌な静森と、言い返してはいるが別に険悪には見えない優雅を眺め、砂月は一人頷いた。
「二人は知り合いで仲が良さそうでよかったよ」
すると二人が沈黙し、顔を見合わせた。
「静森くん。俺明日からは、カンストまで優雅くんのレベル上げ手伝おうと思ってる」
「そうか」
「よ、よろしくお願いします……絶対あれだよな。寄生とかじゃなくて寝る間を惜しんで俺もやれ的な感じだろ?」
「砂月は優しいが、つけ込んだら俺が許さないから、俺も行く」
「静森がレベル上げの手伝い!?」
「静森くんは支援が結構好きだよ?」
「砂月、お前と俺では、静森に対する見方が多分違う」
「そうなの?」
そんなこんなで【おどりゃんせ♪】のギルメンは三名になり、少しだけ賑やかになった。
「それじゃあ、夕食にしよう! 今日はロコモコ丼!」
砂月が仕切り直し、家に二人を招待する。
堂々といつも通り静森がソファに座った。
「優雅くんも座ってて」
「ああ……なにか手伝うか?」
「大丈夫」
その言葉に頷き、優雅は静森の前に座った。砂月が料理をしている間、二人は向かい合っていたが、静森はスキル書を読み始めたし、優雅は周囲をキョロキョロと見回していて、特に会話は無い。
料理が完成したので、砂月はそれをテーブルに並べた。
すると静森が立ち上がり、そちらへ向かう。慌てたように優雅もそれに習った。
「え、なんだこれ、美味そうだな……いただきます!」
優雅が手を合わせる。
「召し上がれ」
砂月が微笑しそう告げると、静森も手を合わせた。
「美味っ、は? なんだこれ、美味すぎるだろ……」
「クオリティが神がかっているだろう?」
感激した様子の優雅に対し、静森が顔を向けて、初めて笑顔を見せた。
褒められた砂月は嬉しくなる。
以後、三人で食卓を囲む日々が、しばしの間続くこととなる。
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