【007】初めてのフレンドとギルメン
その後砂月は、医薬品系のアイテムを作り続けた。するとあっさりと二ヶ月程度が経過した。時計があるせいで、露骨に期限を感じ、毎日が忙しない。また昼夜が生まれたせいか、食欲や睡眠欲が――……出てきたわけでは無いのだが、たまに寝てみようかなと言った気分になるようになった。
「あ、素材切れたわ。んと……ああ、【叡竜】の素材か。一ドロ品」
倉庫を確認した砂月は、久しぶりに【叡竜】のもとへと向かうことにした。そして思わず立ち止まった。そこには前回来た時と同じ青年がいて、ボスへと走って行ったからだ。
「……ま、俺もローブが最初に出るまでに結構かかったしな」
実際、【チュートリアル世界】にどれくらいいたのか、砂月には自覚は無かったが、二ヶ月以上はこもっていた自信があった。こうしてこの日もソロボスを始めた。たまにボスに向かうタイミングが被ったが、先方も何も言わない。そのまま昼食時まで砂月はソロボス周回をした。そして一息ついてから、昼過ぎに【おにぎり弁当】を食べることにした。本来はHP回復アイテムであるが、今回は気分でお昼ご飯だ。しばしそばの岩の上に座ってそれを食べていると、不意に青年が動きを止めた。そして顔を砂月に向けた。
「……今日も素材集めか?」
「う、うん? そうです! そっちは【大賢叡の闇ローブ】ですか?」
「ああ。というか、俺が【大賢叡の闇ローブ】を探しているのを知らないのか?」
「へ?」
「毎日、トレード募集もしている。俺が【大賢叡の闇ローブ】を探しているのを、今この【半チュートリアル世界】にいて知らない人間はいないと思ったが」
「そ、そうなんだ? ごめん、全然知らなかった。俺、来たばっかりで……」
「来たばかりだと? 俺よりも後にか? まさか……残り時間はいくつだ?」
怪訝そうな声に変わった青年を見て、砂月は曖昧に笑った。
「あと二年八ヶ月ぐらい」
「なっ……事実か? 本当に俺よりも後に? では、チュートリアルに、俺よりも長い間いたと言うことか……」
「あ、ええと……多分、はい」
不思議な声の主は己を最後の一人だと告げていたからと思い出しながら、砂月は頷いた。
「俺にはあと一年と二ヶ月しか時間が無い」
「なるほど」
「それまでにSが出るよう努力している」
「トレードとかあるといいですね」
砂月は、【大賢叡の闇ローブ】のSランクを実のところ、かなりの数所持している。しかし現在の相場が不明のため、それは口にしなかった。
「……無理だろうな」
「へ?」
「俺の前に来た一人、俺の次にログアウトまで時間があるのが、銃弓士で残り半年でログアウトだ。それ以外の者が今七人残っていて、二ヶ月以内に全員ログアウトする」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ。だから俺は、半年後からは自分一人だと思っていたが、お前がいると知って少し気が楽になった。一人きりは、【チュートリアル世界】でも思ったが、限界がある」
「……そ、そうですね!」
砂月は話を合わせたが、実際には全然一人で大丈夫なタイプであった。
「俺は出るまで、ずっとここにいる。もしよかったら、また話そう」
そういうと青年は、ソロボスの周回に戻っていった。
見送りつつ、砂月はお昼ご飯をまったり食べた。
それが契機となり、以後砂月は、『今日も【叡竜】やってるのかな』と、時々青年のことを思い出すようになった。そのため、倉庫に予定数分医薬品が満ちても、定期的に素材集めにかこつけて【叡竜】のもとへと向かった。すると十割の確立で、青年はいた。名前も知らないまま、無言で連戦を各自したが、ごくたまにボスの外にいるタイミングが合った時は話をしたりした。
「……」
その内に、砂月の中で、青年に対して勝手な親近感がわいた。
だからある日、砂月は声をかけた。それまでは先方に雑談を振られない限り邪魔にならないようこちらからは話しかけなかったが、勇気を出した。
「あ、あの!」
「――なんだ?」
すると青年が停止した。
「お、俺! 実は【大賢叡の闇ローブ】のSに予備があるので、よかったら……そ、その……」
「なっ」
結果、青年が目を見開いた。
「事実か?」
「は、はい!」
「いくらだ?」
「えっ……その相場分からないのもあるけど、ええと……頑張ってるの知ってるし、なんなら無料でいいです」
「!」
青年は息を呑むと、驚愕した顔をした。
この日砂月は、元々青年に会ったら、プレゼントするつもりだったので、トレード機能ではなくメールに添付する形で、その場で【大賢叡の闇ローブ】を送った。すると青年が硬直した。
「……いいのか?」
「う、うん!」
「返さないぞ?」
「いいよ! あげるよ!」
「……おい、いや、あの……その……――よかったら、フレ登録を頼めないか?」
「う、うん! 俺もフレになりたい! でも、気にしなくて全然いいからな?」
と、砂月が述べていると、その場でフレンド申請があった。反射的に砂月は許可した。
「遅くなったが、俺は『静森』という」
「セーシン……静森さん!」
「ああ。呼び捨てで構わない」
「じゃあ静森くん」
「ああ。魔術師だ」
「見れば分かるよ」
「お前は暗殺者か?」
「名乗り遅れたけど、フレリス見てもらえば分かると思うけど、俺は砂月。暗殺者のキャラ名はバジル。これキャラ分リストあるみたいだけど、そっち表示何になってる? もしかして見ても分からない?」
「バジルになっている。というか……暗殺者、『は』? 他の職もいるのか?」
「うん。俺のメイン砂月で魔術師だから、【大賢叡の闇ローブ】に予備があったんだ」
「……どちらもカンストか?」
「まぁね」
「……そうか。では、砂月と呼ぶ。俺は魔術師一筋で、フレリスもこれのみだ」
「ふむふむ」
「お前は、ギルドはどうしている?」
「俺? 俺は自分のギルドだよ」
「ギルマスか?」
「まぁね。でも俺のみしか入ってないけど」
「ギルドレベルは?」
「Lv.100」
もちろんギルドレベルだってカンストさせた砂月であった。
繰り返すが、ギルドレベルのカンストはLv.100である。
しかしその言葉に、静森が咽せた。
「さ、さすがだな……」
「まぁぼっちソロギルドは辛いよね」
ひかれたかなと思いつつ、砂月が笑い飛ばす。
「ギルドは、一人三つ入れるだろう?」
「へ、そうなの?」
「ああ。知らなかったのか?」
「うん。俺、静森くんと話した以外、まだ他の人にも会ったことない」
「――なるほど」
「初フレも静森くん!」
「そうか」
「静森くんは、ギルドに入ってるの?」
「……本当に何も知らないんだな。ああ、俺は一つだけ入っている。枠は二つ空いている」
「そうなんだ!」
「砂月のギルドは、お前だけなんだったな?」
「うん」
「事実ならば、俺は一枠空ける。入れてくれ。必ず、この【大賢叡の闇ローブ】の恩を返す。そのために、フレとしてもギルメンとしてもできることがしたい」
「えっ、そんな気にしなくていいのに。でも、来てくれるなら歓迎だよ? ただ本当に他に誰もいないけどな!?」
「いい。ギルドに招待してくれ」
その時初めて、静森が微笑した。あんまりにも惹き付けられるような笑みで見惚れつつも、頷き、砂月はギルドに彼を招待することにした。
【『静森』がギルドに参加しました】
そんな表示が出て、こうして『おどりゃんせ♪』に初めてギルメンが加わった。
「あ、あの! サブマスにしとくね。ギルド倉庫のものとかは好きに使っていいからね!」
「……本当にお前以外は俺だけなのか?」
「うん」
「カンストが11体? しかも全職?」
「うん」
「……そ、そうか。倉庫は……――は? 【大賢叡の闇ローブ】のSが、十着入ってるってどういうことだ?」
「え、う、うん……暇で」
「……」
「……」
「……っ、その、これからよろしく頼む」
「うん! あ、もし誰かギルドに入れたかったら、一応相談して。俺は俺が好きな人勝手に入れるけど、ここ一応俺のソロギルドだからさ!」
「ああ。承知した」
このようにして、砂月には初めてのフレとギルメン――サブマスができたのである。
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