【004】暗殺者の育成から全職業への就職



 一度目の育成で要領を得ていたこともあるのか、暗殺者バジルのレベル上げは、Lv.39までは順調だった。しかしながら、暗殺者への道は、非常に険しい。範囲スキルもない上、一発で倒さないと逆にやられがちな体力しかないからだ。しかし――それが逆に、砂月にとっては楽しくてたまらなくなった。一体ずつ頑張りながら、途中からはスローペースになったものの、砂月はレベル上げに勤しんだ。


 結果、無事に暗殺者に転職し、レベルも500になった。

 砂月にとってはあっという間の日々だったが……実際には、地球科学文明準拠の年数で換算するならば、七年の歳月が経過していた。魔術師になるまでには三年半であったから、既に砂月は一人で十年間と半年間過ごしている。その間、睡眠時間は娯楽でたまに横になったものを合計すると三日程度だ。砂月は、ひたすらマイペースにレベル上げを続け、クエストをこなし、転職し、カンストした。


「よし、ここからが本番だな」


 そもそもの目標は、魔術師の装備を集めるために、ソロでボスが倒せる暗殺者の育成だったので、砂月にとっては間違いなく、ここがスタート地点である。


「ボス、かぁ」


 そこで砂月はふと気がついた。スキルの習得のために、ボスを討伐する必要があったので、これまでは倒してきたが、本来ボスとはゲームのシナリオが進むたびに出現するものである、砂月はシナリオクエストはまだ一切行っていなかった。


「NPCが喋ってる台詞的にシナリオもそのままだよなぁ」


 この【ゾディアック戦記】のシナリオは、十二星座をモティーフにしたものだった。星座とドラゴンが関わるストーリーである。


「あとでやろ」


 一人そうごちてから、砂月は装備集めを開始した。

 魔術師の最強装備である【大賢叡の闇ローブ】は、『叡竜』というボスのドロップ品だ。必ず落とすわけではなく、ごく希にドロップする。そしてドロップ品には、種類がある。同じ装備でも、S・A・B・Cの四種類のランクがあり、普通はCかBがたまに落ちるだけだ。Aが落ちたらかなり凄い。Sにいたっては、ゲームにおいてもそれこそ〝廃神〟とよばれるような人々しか所持していなかった。


「狙うはS! 他の職業でも使えるし、いっぱい欲しいなぁ」


 こうして砂月のソロボスの日々が幕を開けた。

 以後――約十五年。

 この世界へ来て、二十五年が過ぎてから、砂月は初めてSの品を入手した。それまで、寝ずにソロボスをしていた砂月を止めるものは、物理的に誰もいなかった。


「次は杖も欲しいなぁ」


 砂月はその後、場所を移し、別のボスに挑んだ。そちらもSが出るまでやり尽くした。飽きるとまた別のボスに挑むなどしつつも、各種の装備を揃え続け、百年も経過する頃には、最強の魔術師装備――ゲーム時代に用いていたものと同じ装備をこの世界においても入手していた。


「人間やればできるもんだな。次は暗殺者装備だな」


 ニコニコしながら砂月は、続いて暗殺者装備も集め始めた。

 それも落ち着き、一段落してから砂月は空を見上げた。その場所の天候は、星空だった。


「そろそろ生産をするかぁ」


 範囲で素材を集められる魔術師と、ボス素材を集めやすい暗殺者は、生産をする上で最高の組み合わせである。翌日から砂月は錬金術師の職業を育成しつつ、生産に励んだ。錬金術師のレベルがLv.500になって二十年後、無事に六つの生産スキルもカンストした。もう砂月が作成できない生産アイテムは、この世に存在しない。


「あとは、これから他の人と会うとしたら、やっぱり昔みたいに舞詩者でバフかけたりしたいし、作っておこうかな」


 また砂月には、休憩という文字も存在しないようだった。

 こうして砂月は、そのまま舞詩者を極め、他の職業も全て育成した。例えば銃弓士であったり聖職者であったり、前衛も含め、十一の職業を全て極めた。名前は砂月とバジルのほかは適当につけた。なぜならば、この頃になるとゲーム時代の記憶も色々忘れ始めており、自分のキャラ名を思い出せなかったからである。


 その後は六百年ほどかけて、全職業の装備を最強のものに調えた。

 この頃になると、他のプレイヤーとトレードなども一切していないのに、モンスター討伐の報酬と、不要品を雑貨屋でNPCに販売した結果、ゲーム内通貨だった〝ダリ〟が千億ダリになっていた。『おにぎり』が一つ五百ダリなので、桁がおかしい富豪になっていたが、使う機会もないので、本人にはその自覚も無かった。


「よし、ちょっとスキルの使い方の練習をしよ」


 ここにきて砂月は、一つの体で、各色のスキルを同時に使えるのかという疑問を、最初に抱いたことを久しぶりに思い出した。そこで試しに、聖剣士のスキルで前衛の壁役をしながら、舞詩者のスキルでバフをかけ、聖職者のスキルで自分を回復しながら、暗殺者と魔術師のスキルをそれぞれ放ってみた。


「あ、できるじゃん!」


 もっと早く試せばよかったと考えつつ、砂月は嬉しくなった。

 こうしてそこからは、プレイヤースキルとかつて呼ばれたような、戦闘訓練を一人で――空間の制約上物理的に一人で行いながら、数年を過ごした。するともう所持していたが使えるSランクの武器や装備の同一物をいくつも入手した。せっかくなので、チュートリアル世界が終わったら誰かに販売できるようにと考えて、たくさん集めることにした。


 それらが終わった頃――既にかなりの時間が経過していたのだが、砂月にその自覚は無かった。


「そういえばシナリオまだやってなかったや」


 まだまだやることばかりだと気づき、嬉しくさえなっていた。

 砂月がシナリオをクリアするまで、あと少し。


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