―― Chapter:1 ―― チュートリアル世界 ――
【001】チュートリアル世界へ
「っ」
光が収束したと感じた瞬間、身体の平衡感覚が変化した。がばりと飛び起きた砂月は、己が天蓋つきの白いフカフカな寝台の上に寝ていたことに気がついた。目を見開いて周囲を見渡す。既視感はあるが、初めてきた場所であると、そう考える。
「あ……」
その場がどこなのか気がついたのは、床の上にある大きめなぬいぐるみを目にした時だった。ピンクの耳が先にいくにつれて紫色に変化している、狐にも兎にも見えるそのぬいぐるみは、【フォックステイル】という名前の、レアモンスターを象った品だ。
生産品で、素材を集めて砂月が作った品だ。
他にも砂月が生産した【銀の燭台】や【酒樽】などが、広い〝家〟の中に並んでいる。限定イベントで入手した【水槽】もあるし、そもそも【天蓋付き寝台】は課金アイテムだ。
「……俺、ゲームの中にきた……ってことでいいのか? そ、そうだよな? うわぁ」
起き上がった砂月は、寝台から降りて視線を動かす。ゲームの画面の中にあったものによく似てはいるが、今は実体がある。ぬいぐるみに触れれば柔らかかった。視界の左下には【menu】というマークが見える。その場所に視線を向けると、一覧が表示されて、【ステータス】や【ログアウト】などのボタンが出現した。
「……」
試しに【ステータス】を開いてみる。
◆◇◆
名前:未設定(公開設定:公開)×11
Lv.:1×11
JOB:未設定×11
取得スキル:無し
ギルド:おどりゃんせ♪(公開設定:公開)
◆◇◆
透明な硝子板のようなものに、そう表示された。視線で追いかけてから、閉じるマークを見ると、それは消失した。どうやら【menu】などは視線操作が可能らしい。
「『×11』……? って……もしかして、キャラ枠分名前と職業を選択できるのか……な?」
ブツブツと砂月は呟いた。【ゾディアック戦記】には十一種類の職業があったので、砂月はキャラクターを十一体作成していた。その中で、一番最初に作ったキャラクターの名前が『砂月』である。二番目に作ったキャラクターは『バジル』だ。
続いて【ギルド】を押してみると、未設定のキャラクターがやはり〝11〟ほど所属していた。試しに砂月は、名称を設定してみることに決める。
「――よし」
自分のステータスで名前を、『砂月』に設定すると、ギルドマスターのマークがついたキャラクターの名前も、『砂月』に変化した。続いて二番目を『バジル』にすると、サブマスターのマークが変化した。ステータスを操作するキャラクターの変更も、【menu】画面で行えた。ゲーム時はいちいちログアウトして切り替えが必要だったが、今は共通しているらしい。
「ゲームでは、一度に一つの職業のスキルしか使えなかったけど、もしかしてこれ、俺の体は一つだし、一人で十一職業分使えるようになるのか? スキルを取得したりしたら」
ぶつぶつ呟きつつ、他のキャラクターの名前も変更した。
「でもまさか『おどりゃんせ♪』に入ってるなんて」
このギルドは、砂月が作成したギルドだ。ギルドのメンバーは砂月のキャラクターのみである。少し前に所属していたギルドのマスターが引退して、そのギルドが解散したため、自分のキャラクターをとりあえず収納するために作成したギルドだ。
「それは思い出せるのに、ギルマスの名前とか解散したギルドの名前が出てこない……」
唸ってみるが、フレンド登録していた相手の名前も一つも出てこない。そこで、フレンドリストを開いてみれば、白紙だった。どうやらリセットされたらしい。
「……ギルドレベルも1かぁ。確かギルドはレベル100までだったかな」
ギルドに入っていなかった人はどうなったのだろうかと考えつつ、続いて砂月は装備の確認をした。装備も【menu】で確認や変更ができると分かったが、11キャラ分の初期装備があるだけだった。
「本当に一から始めるのか……。それも一人で……」
MMOではみんなと助け合って、ボス討伐をしたりしながら装備を集めた記憶がある。しかしこの【チュートリアル世界】には自分しかいないという。
「他のみんなも最初から頑張ってるんだろうし、俺も頑張るか」
呟いた砂月は、それから今後の予定を考える。
「まずは全キャラで全てのJOBに転職しよう。で、スキルもとって、能力を伸ばして、レベルもカンストさせる! レベルキャップとかあるのかな……ゲーム通りなら500だけどな。まぁLv.500になれば分かるか。それから装備を揃えて……あ! 生産レベルも1からになってる。生産もしないと」
生産レベルはキャラクターレベルとは別に存在する。錬金術師の攻撃力などに影響するほか、装備を作成したり、消耗品のMP回復アイテムなどを作成したりもできる。
「ここってご飯とかトイレとか電気とかはどうなってるんだろうな? 時間は経過しないって聞いたけど……」
いざ開始してみれば聞きたいことが沢山出てきたが、もう聞ける相手はいない。
「まぁまったり頑張るかぁ」
砂月は一人決意した。
それから〝家〟の外に出てみる。するとそこには、〝庭〟があった。庭機能は各個人に存在したプライベートスペースで、家を設置したり、栽培機能があったり、個人露店を出したりできる場所だった。露店はほかにも、様々な〝街〟で出すことができた。
露店検索機能を試しに使ってみたが、何もhitしない。やはり他の人間がいないからなのだろう。そう考えて、〝街〟に行ってみようと決めた。〝街〟には、ギルドの機能である【ギルド転移】を使えば、設定した場所に移動できる。他には課金アイテムや生産品やモンスターからのドロップアイテムの『移動アイテム』でも移動できる。
まずは【ギルド転移】で、設定してあった〝街〟――カッツェ村へと向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます