斬魔が歩いた闇の道

眠兎くん。

キミが俺になる前の話

 人は、何かしら心に闇を持っている。

 それが生まれたときからあったのものなのか、それとも成長していくにつれできたものなのか。たったそれだけの違いなのだと僕は思う。

 1人1人大きく違うのは、皆持っているだけだろう。

 闇が大きすぎた者は犯罪を犯し、小さすぎた者は善人となる。

 そんな闇の大小が、人の心を狂わせる。


 …それじゃあ、僕の心はいつから狂っていたのだろうか?




 始まりは、小学校の紙工作の時間での出来事だった。

 皆が折り紙で好きな形を成形しているときに、僕は工作用の道具であるハサミを使って紙を乱雑に切っていた。なぜそのようなことをしていたのかはいまでもわからない。紙を切るときの感触が気に入ったのか、という行為そのものが気に入ったのか、高校生になったいまでも理解不能だった。

 普通の子供でもハサミの感触を楽しむくらいのことはしたかもしれない。ただ、僕はそこで終わらなかった。…終わろうともしなかった。



 次は生き物を切って見たくなってしまった。

 …手始めにそこらに生えている植物をハサミで、切って切って切りまくった。今、思い出してみると僕はという行為に快感を得ていたのかもしれない。

 次は、昆虫などの手頃な生き物を斬って見よう…。そんなことを植物を切りながら考えていたときだった。小学校で同級生の元気な女の子が、僕に不思議そうな、気味が悪そうなそんな目を向けて僕に話しかけてきた。…今思えばこのときが、この瞬間が、僕が普通の男の子になろうとした人生の起点ともいえる瞬間だったのだろう。



「ねぇ、君はなんでそんな変なことをしているの?」

 僕の脳天に雷が落ちたようだった。

 …そうか、は変なことなのか。

 幼いながらにそのことを理解した僕は、ここでをを捻じ曲げた。



「どうかしたの?」

 そのように女の子が再度僕に訪ねたときに、僕は少しはにかんでこういった。

「…なんでもないよ」


 これが僕の、斬島きりしま 刀魔とうまの始まりであり終わりでもあった瞬間だった。




 そこから先は、別に特筆すべきところもない普通の日常を送った。

 高校にあがり、学校の休み時間は友人とくだらない世間話をしながら盛り上がったり、女性の好みについてをしつこく友人から聞かれたり、進路について考えたり、変わった名前だと驚かれたり、そんななんてことない日常を僕は過ごしていた。

 このまま時間が止まればいいのにと思うほどの充実した生活を心の中の誰かが憎みながら過ごす。



 ……そんなある日のことだった。

 放課後、高校の進路指導の教師と自身の進路について話し合っていたその日の夕方、僕は通り魔に襲われた。


 通り魔に刃物で背中を斬りつけられ意識にモヤがかかり、人生の終着点であるがこちらに近づいてくるなか、思わず僕が口に出した言葉は、


「…いいなぁ。」


 そんな嫉妬にも、羨望にも、歓喜にも取れるような言葉だった。





 …ここまでが、僕の『人生』という物語のエピローグ。



 そしてここからは、のプロローグ。




 これは完全無欠の英雄譚でもないし、誰かと愛を育んでいく物語ラブストーリーでもない。それどころか、今後キミがやることは人に褒められたものではないものかもしれない。


 それでもキミの物語が進んでいく中で、キミの障害となるものがもしあったのならば…とりあえず斬ろう!







 ─これは、とある闇を抱えた男の御話。


 ありとあらゆる障害あろうとも、

『とりあえず斬ろう』の精神で進み、自らの闇に悩み続ける。


 不幸を背負いつつも、正義の味方には成り得ない。


 しかし、後に『斬鬼』と呼ばれるその男の足取りは、今まで縛っていたものがなくなったかのように軽かった。


 たとえ大勢から非難されようが、天災に目をつけられようが、

 全てを斬り捨て、前に進む。



 ─かくて、『斬鬼』は歩き出す。




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