第3話

坂田さんの葬儀。

社長、専務、松田さん、兵藤さん、三戸さんと一緒に、あたしも参列した。

享年18歳。

あまりにも早すぎる死に、みんな、言葉が見つからない。

お父さんは、気丈に振る舞って参列客に挨拶してるけど、お母さんは、かなり憔悴しきった様子で、イスに座ったまま、祭壇の遺影を見つめてる。

無理は無いよね・・・。


あたし達とは少し離れた場所に村松がいた。

あいつ、きてたんだ・・・。


葬儀が終わり、あたし達は斎場を出ると、令音れおがいた。


「すみません、あたしは、ここで。」


みんなに挨拶をして、あたしは令音のもとに行く。


「令音!」


令音は、振り返り、あたしを見て驚く。


光騎こうきどうしてここに?」

「それは、こっちのセリフだよ。令音こそ何してるの?」


あたしは令音と一緒にいる年配の男の人に気づいて会釈する。


「先輩の山口さん。ちょっと・・・仕事で。

亡くなった坂田優樹菜さん、もしかして、光騎の知り合い?」


仕事?


「うん。同じ職場の子だけど。」


令音と山口さんは顔を見合わせる。


仕事って事は・・・


「もしかして・・・事件・・・なの?」

「いや・・・」


令音は渋った顔をする。


「すみません。築山の知り合いの方ですか。

始めまして。山口と申します。

申し訳ないんですが、今はまだ捜査内容は、知り合いの方にもお話しする事はできないんですよ。」


先輩の山口さんが間に入った。


「あ、そうですか。すみません。じゃあ、あたしは失礼します。じゃね、令音。」


あたしは手を振ってその場を去ったけど・・・。

坂田さん、他殺なの?


◇◇◇◇◇◇


その晩、令音は仕事が忙しくて帰ってこなかった。

あたしは、もやもやした気持ちで職場に行く。

他殺だったったら・・・どこかに犯人がいるの?もし、この施設にいたら・・・。


朝の朝礼が始まる。


「昨日、葬儀に参列された方は、お疲れ様でした。皆さん辛いと思いますが・・・あまり無理しないように、普段どおり業務に集中してください。それでも、キツイ方は、申し出てください。」


専務の挨拶が終わり、みんなそれぞれの業務につく。


「松田君、ちょっといいかな。」


松田さんが専務に呼ばれ、休憩室に入って行った。


「坂田さん、なんか自殺じゃないかもしれないみたいね・・・朝から刑事さん来てる。」

「自殺もショックだけど、他殺なんて・・・イヤね。あたし達も順番に事情聴取受けるよね。」


兵藤さんと、三戸さんが不安がりながらデスクに着く。

あたしは朝の回診の準備をする。


「ねぇ、村松さんの事・・・言った方がいいのかな。」


三戸さんが口を開く。


「亡くなった日、坂田さん、村松さんにキツく言われてたよね。泣いてたし・・・」

「どうしよう・・・でも、変な事言って、村松さんが疑われても・・・まさか、村松さんだって、殺人はしないでしょ。」


明らかに兵藤さんも動揺してる。


あたしは黙って回診に向かった。


「工藤さん、失礼しますね。」


あたしは工藤さんの血圧を計る。


「血圧異常ないし、お熱も無いですね。何かいつもと違うとかは無いですか?」

「元気、元気!どっこも異常なし!」


工藤さんは元気に両腕を挙げる。

入居者さんには、坂田さんの事は知らせてない。

落ち着いた頃に、タイミングを見計らってお話する予定だ。


「それなら良かった。」

「あ、光騎ちゃん、今朝ね、新しい介護士さんかなぁ、背の高いイケメンのお兄ちゃんが来ててねぇ。」

「背の高いイケメン?」

「そう。スーツ姿が良く似合ってねぇ。久しぶりにトキメイちゃった!」

「スーツ?」


もしかして・・・


「こんな感じの髪型で、こんな顔の?」

「そうそう。光騎ちゃんも見た?かっこいいよねぇ、あの人。」


間違いない。令音の事だ。


「介護士じゃあ、ないですよ・・・たぶん・・・どっかの営業の人だと思いますよ。」


刑事なんて言えない。

残念がる工藤さんに、あたしは愛想笑いをしながら部屋を出た。


廊下で村松に行き会う。


「なんか、変な男が2人来てるけど、あの人達なに?」


無愛想に聞いてきた。

変な男って失礼な!


「刑事さんらしいですよ。入居者さんには内緒ですけど。」

「刑事?」


あたしはムカついて顔を反らして答えた。

チラッ横目で村松を見ると、少し青ざめた顔をしてる気がした。

村松はそのまま歩いて行った。


なんだ、アイツ。


昼休憩


午前中に、社長、専務、松田さんの事情聴取が終わった。


「疲れた〜。俺、事情聴取なんてやった事無いから、メッチャ緊張したよ~。」


松田さんはパンをかじりながら、伸びをする。


「お疲れ様。どうだった?」


三戸さんがコーヒーを入れてくれて、あたしと兵藤さんは話を聞く。


「歳いった方の刑事さんは優しいんだけどさぁ、なんかイケメンの方の刑事さん怖くってさぁ。」


あ、そっち?


みんなにはイケメン刑事が彼氏なんて言ってないから、黙ってたら悪口大会にならないか、ちょっと不安。


「なんかさ、坂田さん・・・妊娠してたんだって。」

「!!!」

「妊娠!?」

「うん。相手は、わからないんだけど・・・だから、妊娠を気にして亡くなったのかもしれないんだけど、だけど、どうも腑に落ちないとこがあるみたいで・・・」


あたしは、おにぎりを食べる。


「やっぱり自殺じゃないんですかね?妊娠や、仕事の事とか、イロイロ重なったんじゃないですかね。」

「俺もそう思うんだけどね。一応、俺のアリバイは証明されてるんだけど、みんなも、これから聞かれるだろうから、頑張ってね。」


ガラガラッ゙


勢いよく休憩室のドアが開いて、むすっとして村松が入ってきた。


「村松さん、お疲れ様。」


村松は黙って冷蔵庫のお茶を飲む。


「あなた達、人の事ばっか言って面白い?神経疑うわ。」


そう言って出ていった。


な、な、ムカつく――――――!!!


◇◇◇◇◇


2日くらいして、令音が帰ってきた。


「やっぱり自殺かなぁ。」


リビングのソファーで寝転びながら令音は言う。


「ねえ、なんで他殺だと思うの?」


あたしはシャワーを浴びてビールを飲みながら聞いた。


「首の跡がさ、若干ズレてる気がするんだよ。もちろん、きちんと検死もしてもらってるんだけど、それも微妙で。」

「誰かが先に首を絞めて殺した後に、自殺にみせかけたって事?」

「そう。」


あたしはグビグビグビ、ビールを飲む。


「そんなドラマみたいな事、ホントにあるの〜?」


あたしは、枝豆をもって令音の隣に座った。

そして・・・


「んっ。」


唇を出す。


「ん?」


令音はキョトンとする。

何日会ってないと思ってんの?

久しぶりなんだからチューくらいしてよ。


「チュッ゙」


令音は軽くキスしてくれる。


「今日やる?」

「疲れてるから、やらない。」


ケチッ゙!


令音は欠伸をしながら寝室に向かった。








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