第2話
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
夕暮れ時、少女は家路を急いでいた。
早くしないと・・・
少女は、友達と遊んでいて、時間を忘れてしまった。気がついた時には、「予定」の時間をだいぶ過ぎてしまい、急いでかえる。
ガチャガチャ。
長屋の鍵を開け、急いで中に入り、手を洗い、ご飯を炊くために、炊飯器にお米を入れる。流しにオカマを置くにはまだ小さすぎるのでダイニングのイスを引きずり、その上に立ち、お米をとぐ。
水を入れ、炊飯器にオカマを入れようとした時に、少女は手を滑らせ、一面にお米をこぼしてしまった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
少女は今にも泣き出しそうな顔で、床を拭いた。
◇◇◇◇◇◇◇
「なにやってんの!?何回言ったらわかるのよ!!!」
施設内に響き渡りそうな怒鳴り声に、朝の巡回の準備をしていたあたしは、驚いてチェック表を落とした。
ガラガラガラッ
リネン室から「村松」が出てきた。
ものすごい剣幕だ。
少しして新人の坂田さんが泣きながら出てきた。
坂田さんは高校卒業して、すぐに入社した、19歳の女の子。
「大丈夫?坂田さん。」
「大丈夫です・・・あたしが悪いんです・・・」
坂田さんは涙を拭いながら言う。
「少し話そうか。」
松田さんが来て、「大丈夫」とあたしに合図をして休憩室に連れて行った。
「なんであんな言い方しかできないのかね!あの人は!」
この施設の入居者さん、工藤さん(88歳)が怒りが収まらないという感じでいる。
「あたし、あの人大キライ!偉そうで、無愛想で、いっつも怒ってるみたいでさ。新人さんが入るたびに、ああやってイビって追い出しちゃうの。
あなた、松村さんだっけ?あんなのに負けちゃいけないよ。松田さんとか、三戸さん、兵藤さんは、ホントにいい人だからね、なんかあったら言うんだよ。」
「ありがとうございます。」
あたしは「村松」が、なんであんな言い方しかできないのか気になった。
今から入居者さんの健康チェックが始まる。
1人1人の部屋を訪ねて、熱と血圧を計って、なにか体調はどうか問診をする。
「鈴木さん、お熱もないし、血圧も問題無いですねー。」
あたしは、鈴木貞三さん(90歳)の部屋を出た。
「何とかなんないのかね、村松さんのあの言い方。あれじゃあ、坂田さんもすぐ辞めちゃうよ。」
「坂田さん高校卒業してすぐだもんね。まだ社会人として経験が全くないのに、イキナリあれじゃあね。」
休憩室の前、松田さんと、三戸さんの会話が聞こえる。
コンコン・・・
「失礼しま〜す。」
あたしはそっとドアを開けた。
「あ、松村さん、お疲れ!」
「こっち座る?」
お昼休憩は、各々好きな場所で食べるが、あたしは、とりあえず休憩室に来る事にした。
休憩室では、既に松田さん、三戸さん、兵藤さんがお弁当を食べていた。
あたしも持って来たお弁当を広げた。
「坂田さん、お弁当持ってきたんだ。自分で作ってるの?」
「はい・・・まあ・・・」
嘘だ。本当は
「ごめんね、松村さん。イキナリこんな現場、目撃しちゃって。基本みんな良い人なんだけど、村松さんだけが、どうもね〜。
困った人なんだよね。」
松田さんは介護士リーダーで、年齢は38歳。転職して入ってきてるので、ここはまだ5年目みたい。
奥さんと2人暮らしの、年齢にしては爽やかなイケメンだ。
「村松さんのせいでね、ここ何人も新人さん辞めちゃうの。社長も知ってるんだけどね、なんせ、仕事だけは良く出来るし、遅刻欠席も無いから、あまり強く言えないみたい。」
兵藤さんが、リンゴを食べながら言う。
「それだけじゃ、ダメだと思うんだけどね俺は。他の社員とのコミュニケーションも上手く取れないと、とくに、こういう仕事は。」
松田さんはパンをかじる。
「あの、あたし言いましょうか。ハッキリと。」
え?と3人が、あたしを見る。
「あたし、ああいう人にハッキリ言うの平気ですよ。怖くないし。」
「いやいや、それはやめた方がいい。俺が言うから大丈夫。」
「そう。松田さんに任せた方がいいよ。」
兵藤さをも、うんうんと頷く。
「わかりました。」
なんだ。残念。
夕方5時。
そろそろ今日の業務を終えて帰る時間。
今日は令音は当直だから、何か食べて帰ろっかな。
あたしは荷物をカバンに入れる。
「だから、なんであたしなのよ!」
廊下から「村松」の声がする。
はぁ〜。またか。
「あなたの担当でしょ。」
「あたしは5時までだし、そんなの朝の巡回の時に気が付かなかった看護師に行かせればいじゃない!」
夜勤の介護士と村松が言い合う。
「どうかしたんですか?」
「松村さん、あなた今朝、鈴木さんの体調不良に気づかなかったの?
今、38度超えの熱だしてる。
今日は常駐のドクターは休みだから、あなた病院に連れて行きなさいよ。」
鈴木さん・・・朝は何も異常は無かった。
持病も無いし、たぶん風邪だと思うけど。
「村松さん。あなたの担当なんだから、あなたが病院に連れて行くべきじゃないですか?」
「大丈夫です。あたしが、病院に連れて行きます。」
「松村さん。」
こんな事で時間をムダにしてる暇は無い。
あたしは他の介護士さんに手伝ってもらって、鈴木さんを車に乗せ、病院に連れて行った。
幸い鈴木さんは軽い風邪だった。
念の為、点滴を打ってもらい、施設に戻った。
あたしが帰宅したのは11時過ぎだった。
翌日、坂田さんの姿は無かった。
「おかしいな。無断欠勤なんて無かったんだけどな。」
「電話してみようか?」
松田さんと三戸さんがやりとりをしていたが、その日は結局、坂田さんとは連絡が取れなかった。
坂田さんと連絡が取れなくなり、3日が過ぎ、さすがに不安になり松田さんと専務が坂田さんのアパートに向かった。
♫♫♫
施設の電話が鳴り、三戸さんが受ける。
「えええ―――――!!!」
事務所内に叫び声が響く。
三戸さんは震えながら受話器を置いた。
「どうしたんですか?」
あたしは三戸さんに尋ねる。
「坂田さんがっ!亡くなったって!アパートで・・・!」
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