水の神様

「背中はどう?」




薬の神が様子を見ながら尋ねる。




「もうすっかり治ったみたいよ、さすがね」




先の戦いの中で怪我をしたのか水の神は、背中を擦りながら答えた。




陸の神はその様子を見ながら微笑んでいた。






「でもいくら心配だからって私と陸の間に入るなんてね?せっかくの2人旅が台無しよ」




じりじりと詰め寄る水の神に薬の神は冷や汗を浮かべながら動揺していた。








「!


ねえ!2人共!」




陸の神は何かに気付き袂を口元へとやる。




「…血の匂い…?」




「1日歩いてて、こんな直ぐに敵と…」




「ん?街の手前らへんに誰かいるよ」






3人が駆け寄ると傷付いた女が横たわっていた。




「文字の神!!」




彼女は文字の神。


3人を見つけると大粒の涙を零した。






「ごめん…っ、逃げて来ちゃった…!!」




「そんな事いいのよ!あんた、お腹突かれてんじゃない!


薬の神!あんたは文字の手当てを!」






薬の神は黙って頷き文字の神に寄り添う。




「文字の神!こんな事した奴はどこ?!」




「…相手にするのは…キツいと思う…!


あれはドラゴン、だよ


…街の方にまだいるはず…」




「相手が何だろうと野放しに出来ない。


陸の神、行くわよ」






あぁ、とついて行く陸の神。


2人は薬の神と文字の神を置いて街の方へと歩いていった。








ーーーーー








「ひどい有様だ…」




街の中は事切れて倒れた人々が嫌でも目に入った。




(ドラゴンは…)




水の神は辺りを見渡していた。






ふ、と2人の立っている場所に影が出来る。


上を仰ぐとビルのように大きなドラゴンが建物の上から2人を見下ろしていた。




ドラゴンは少し唸った後に大きな咆哮をあげる。




陸の神は耳を塞ぎ青ざめていたが、水の神は無言で睨みつけていた。






そしてドラゴンは口から炎を吐き出した。


陸の神は咄嗟に地面から岩を突き出させ壁を作って身を守る。






「いや…ダメよ」




水の神はどこかでドラゴンの炎は鋼鉄をも溶かしてしまうと聞いたことがあった。




陸の神を抱えて近くの建物の影に素早く身を隠す。




陸の神が繰り出した岩は蝋燭の様に溶けてしまった。






「あなたは不利だわ。


ここに居て」




「なっ…


私も一緒に…っ」




水の神は陸の神に当て身をすると気絶させ、その腕の中に彼女を抱きとめた。






「ごめんね…


あなたに死んでもらいたくないのよ…」






ぎゅ、と強く抱き締めてから水の神はドラゴンの方へと歩いていく。




「さぁ…」




優しい顔は無く敵意をあらわにする水の神。








「覚悟しなさいよ!


巨大なトカゲが!!」






自分の下半身を水に変え勢いをつけてドラゴンの上へと這い上がる。




ドラゴンの尾は水を断ち切るが、水の神はそのまま宙に浮き、片腕を上げた。






「水の刃を喰らいなさい!!」




ドラゴンの背に鋭い攻撃が降っていく。


ギャウっと悲鳴をあげるドラゴン。




しかし水の神が建物に降り立つと勢い良くドラゴンの尾が水の神へと振り下ろされる。






屋内まで突き破る攻撃。


水の神は瓦礫の上で既に満身創痍になってしまっていた。




「痛っ…」




休む間も無くドラゴンの追撃が襲ってくる。


天井から大きな手のひらが現れ瓦礫ごと水の神をその手に収めてしまった。






ギリリと締めあげられ骨が折れるのを感じる。




「ぐっ、あぁあ!」






ドラゴンが息を吸う。


炎で焼かれるのか。


水の神は虚ろな瞳で眺めていた。




しかし口元には笑みが。




ーーあぁ…


消えるのが…私で良かった…






もっとアイツらと馬鹿やりたかった






水の神は瞼を閉じる。




その頬に一雫の雨が落ちた。


びくりと体が震えた。




「…!!」






ーーあった…


まだ力が残っていた…!!






雨が強く降ってきた。






陸の神がハッと目を覚ます。


土砂降りの雨の中ドラゴンの方へと仰ぎ見る。






「水の神…」






水の神は視線を下へと向け、


ドラゴンが炎を吐き出す寸前のところで大きな水の球体を作り、ドラゴンの口へと押し込ませた。






「自分のブレスで自滅なさい…」






ドラゴンの身体の中から炎が現れ、水の神毎燃え盛っていく。






ーー良かった…


力が残っていて…






陸の神…


最期に声が聴けて嬉しかった…


大好きよ…










水の神の流した涙が、偶然か必然か陸の神の頬へと落ちた。




「水の神…」




ドラゴンと水の神はゴオゴオと音を立てて燃えていく。








「水の神ーーーーー!!!!!」


















ドクン…ッ




創神の身体が脈打った。




「…」




「どうしました?創神様」




まりあが心配そうに振り返る。




ハッとした創神はニコと笑った。




「ううん、ごめんね。なんでもないよ。」








そして皆が歩き始めると僅かに振り返り目頭を熱くさせた。






ーー水の神…








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