分散

谷間を歩く4人をはるか遠くから見つめるもの達が居た。




悪神の地震の神と、津波の神だった。


2人は4人から視線を外さない。




「創神御一行だな


この地形は使えそうだな」




地震の神は津波の神へと視線をやる。




彼は頷きながら笑っていた。






「わざわざ谷を歩くとはね


律儀な事で…。


フフ…先頭は大気の神か、丁度いい。


ねぇ、地震の神」




「我らは分散させれば良いだけだからな…


しくじるなよ、津波の神」




「やろうか」




「当然だ」






2人は同時に片腕を宙に浮かせた。








ゴゴゴゴゴ…


下から突き上げる地鳴り。




創神とまりあは立っていられず座ってしまう。






「す、すごい揺れです…っ」




「大丈夫!?」




「!!」






大気の神は奥の方から津波が押し寄せて来るのを確認し、そして皆の方へ顔を向ける。






「はっ…!」




大気の神が見たものは、


まりあの頭上に大きな岩が落ちてくる所だった。






「鳥の神!!


創神を!」






大気の神はバッと素早く、まりあを自分の懐へ抱き寄せながら指示を出す。




鳥の神は直ぐに羽を生やし創神を抱くと空へと飛び立った。




「大気の神!!


まりあ!!」






2人の眼下には谷間を勢い良く流れる波しか無かった。






「まりちゃん…


大気の神…」




「……」






呆然と見ているしか出来なかった。








ーーーーー






まりあは気を失っていた。


随分遠くまで流された様だ。




「…ん」






瞼が微かに動き、薄らと目を開ける。






(…?


体が動かない…?)




意識がはっきりしてくると自分の上に大気の神がいるのが分かった。




しっかりと離さないように抱きしめられたままだった。






「!


た、大気の神様」






ぐ、と力を入れて状態を起こした、まりあはギクリと青ざめる。




大気の神の頭からは鮮血がドクドクと流れていた。


怪我の場所を確認しようにも、血でぬるりとしっかり触れなかった。






「大気の神様…!


酷い怪我…」




まりあは震えながら彼を抱き留める。






「私を助けようとして…落ちてきた岩に…」






まりあは大気の神の腕を自分の肩に回し、彼の体を支えながら必死に立ち上がる。




ズルズルと引きずりながら、どこか休める場所を探す。




「すぐ…手当てをしないと…」






少し歩くと木陰が見えた。


濡れている様子は無いようだった。






頭を動かさないよう、そっと寝かせてやる。






(まず血を止めなくちゃ…)




「んっ」




ビリリと長いスカートを力一杯破っていく。




大気の神の血を少し拭いてから素早く巻き付けていく。




(出血がひどい…


こういう時…水分を摂った方が良いのかな…)






近くに川があった。




(水を入れる入れ物…)




辺りを見渡すが何も無かった。




少し離れた所に横になる大気の神をまりあは見つめる。




眉を下げ唇を噤んでいる。






しかし躊躇わず川の水をすくって、自らの口へ。




(…。)






まりあは彼に覆い被さると、口に含んでいた水をゆっくりゆっくりと飲ませていった。




(大気の神様…)




唇を離し、まりあは大気の神を見つめる。






「それって弱ってる大気の神?」






まりあは目を見開いた。


そして振り返ると子供の様だが不敵な笑みを浮かべた少年を見る。






「……。


…ダメです。


大気の神様には誰も近寄らせません。」




大気の神を後ろに、まりあは両手を広げて牽制する。




「…ケッ、弱いやつが強がってやんの。


そーゆーのムカつく。」






まりあは傍に木の棒を見つけ両手で持つと少年に向けた。




「こ、来ないでくださいっ


ぶ…ぶちますから…!」




「木の棒?やってみれば?」






ニヤリと少年は笑った。




まりあは威嚇のために当たらない距離で棒を振り下ろしてみた。






「?!


あ…っ」






木の棒がぐにゃりと曲がっていた。




「残念。僕は屈折の神。


そんな棒、例え鉄だとしてもグニャグニャに出来んだよ。触らなくてもね」




「!」




「それに、こんな事も出来るよ?」






「!!?」




突然まりあの右腕が後ろへと組まれてしまった。見えない力で。




「うう…」




「痛いでしょ…?このまま折られたくなかったら…


退いてよ」




「…ッッ…嫌です…!」




まりあが言うとますます締め上げられる右腕。


みしみしと痛々しい音が聞こえる。






「〜〜ッ!!!!…あ”…っ」




「もう折れそうだね?


折られたくなかったら…」




「退きませんから…ッ!


大気の神様は…っ私が守りますから…!!」




痛みから顔を赤くしながらも、まりあには退く気は無かった。




「じゃあもういいよ


もう死んでしま…」






一瞬、屈折の神の動きが止まる。




「……


起きたの?死に損ない」






まりあの背後には大気の神。




彼は木にもたれながらも立ち上がっていた。






「惨いんスよ。やり方が」




「大気の神様…っ


動いたら…」




「まりあ…アンタのお陰で少し休めたっスよ」






大気の神は、まりあに優しく微笑んでから、屈折の神へと顔を向ける。




大気の神の青い瞳が天を見つめたと思ったら下へと動く。






すると激しい落雷が屈折の神目掛けて落ちた。




「うああああ!!!」






事切れた屈折の神はドサリと倒れてしまった。






「雷を…?


凄い…」




「無力なのに悪神に立ち向かえるアンタの方が凄いっスよ


ありがとう」






大気の神は優しく笑った。


まりあは照れながらも笑い返す。






「腕は冷やしておきな…」




水の玉を、まりあの右腕の肘に貼り付ける大気の神。






「ありがとうございます」




「一雨来るから岩穴とか探してそこで休もう」




「…肩、使ってください」




「…すまないっス」




「いえいえ」






2人はゆっくりと歩いていった。








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神様たちの物語 小桜ひな @shirono_himari

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