悪しき神の長


畳が敷き詰められ、低いテーブルが置いてある物の無い部屋。


机には赤と黄色のまだらな煙管が置いてある。



そして、黒い球体が部屋にふわり、ふわりと浮かんでいた。



その球体からトプン…と音を立てて長い指の手が出てくる。

ポタポタと雫が落ち、その雫は宙に浮いて消えていく。


首元に石の付いた飾りをつけ、深緑のストンと長い髪から雫が落ちていく。


一糸纏わぬ姿の男は煙管を取ると口に加えた。



赤い彼岸花が散らされた、紫の着物を羽織る。



長い前髪から覗くその眼光は赤く鋭かった。



「……

そこに居るのは…音波か…」



低く柔らかい声。


襖の向こうで慌てる気配がした。



「!

起きていたのかい…」



「たった今なぁ…

御霊等を呼んできてくれねぇか…」


「了解」



音波の神が言うと消えない笑みのまま、やけに低い窓縁に座り外を眺める。




「お開け致します。」


御霊の神の声が襖の向こうから聞こえる。

そちらへと視線を向ける。



「御呼びでしょうか。全能様。」



御霊の神、音波の神、死神は片膝を立てて畳に律していた。



紫煙を揺らして、彼、全能神は笑みを無くさない。



「フフ…、全能様はホントに良い体よね〜」


死神は舌なめずりし眺めていた。



「死神。貴様、全能様を愚弄すると許さんぞ」


ドスの効いた御霊の神に冷や汗をかく死神。


「ほ、褒めてるのよ?」


どうやら御霊の神には全能神への冗談は効かないらしい。



「あの…全能様。

前を隠してくれないかい。目のやり場に困るよ…」


音波の神は顔を少し背けながら頬を赤らめていた。



「クックク…

照れるとは可愛げがあるな…」



ゆっくりとした所作で着物の前を閉じる全能神。



「…で事は順調か……?」



「全て順調に御座います。

ですが何匹かは魂に還されてしまいました。申し訳ありません。」


淡々と答える御霊の神。


「奇襲が成功しているのなら何も問題は無いな…」


窓の外を眺めながら全能神はフ、と笑う。




「……創神か」


「奴等は全員がかりで阻止しようと必死です。」


「クック……だろうなぁ…。

敵がどんなモノか知らねぇのは…腑に落ちず、気持ち悪いだろうな…」


全能神は顎を少し上げる。



「全てを壊す前に奴等の敵を教えておくか…」



「!?

全能様!何を?!姿を見せて何かありでもしたら……」


「良く考えて口にしな……御霊…」



笑ったままの全能神は目を細め御霊の神を見やる。



「俺は…誰だ……?」



柔らかい声。



「……!」


「!!」



御霊の神はゾクリとし、死神は視線を外し、音波の神はサッと顔を背ける。



直ぐに御霊の神は頭を深々と下げた。



「軽佻でした…。

全能様ならば心配は御座いません…!」


(御霊ちゃん……)



「解れば良い……

なら、する事は解っているな…?」



「承知しております。

何処へ集めましょう」



ス……と立ち上がる全能神。



「馴染みのある場所へと…

誘(いざな)ってやりな……」



「その様に」



柔らかく御霊の神も笑んで答えた。





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