御霊の神様




「何だか不穏な雰囲気のまま終わっちゃったね。報告会」






創神は溜息混じりに視線を落とす。






「おい。


いつの間にまた、勝手に神を作ったんスか」




「いやっ私も身に覚えが無いんだよ」






慌てて身構える創神と、ハラハラしている、まりあ。








「なら、


とうとう姿を見せてきたんスね」




自分にしか聞こえない声で呟く大気の神。






「え?何?


大気の神」






「俺は【新しい神】を見てくるっス。


アンタはまりあとここで待ってるっスよ」








そう言うと創神の返事も聞かずに大気の神は建物から出ていった。








「大気の神様は真面目なのですね」






まりあが言うと創神はふにゃりと笑った。






「うん、そうなんだよ」








ーーーーー








魂の神は天別室のある雲へと戻っていた。




天別室では、魂となった者たちを天国と地獄へと分ける仕事を行っている。








「わっ、もうこんなに天別が終わってる!


さすがー!」




もうほとんど居なくなっている魂達を見ながら魂の神は感心した。








「ただいまーっ


御霊くん」






スキップ混じりに男の前へとやってくる魂の神。








薄紫の細い髪を高く結い、腰まで揺らしている彼は酷く神秘的だった。








彼は御霊の神。








「おかえり」






柔らかな声が返ってくる。






「御霊くんは本当優しいし気が利くよね!


仕事も早くてビックリ!」








「中々骨の折れる仕事だね…」






「ふふっ、そうでしょー」








そんな他愛無い会話をしていた。






「報告会はどうだった?」








「それがさー、


創神ったらあなたを創ったこと忘れてたんだよ?!ありえないしね」








呆れた様に言う魂の神に御霊の神は表情を変えずにいた。






「彼は…俺を創った時酔っていたから」






「何それっひどーい」










「アンタが御霊の神スか」






「?!」






魂の神は驚き、御霊の神はゆっくり振り返る。








「まさか自分が背後をとられるなんて。


そんな顔をしているっスよ、御霊の神。」






二人の後ろには不敵に笑う大気の神がいた。






「これは手厳しい…。大気の神」






「何で知ってんスか?俺の事を」






大気の神は笑みを消しゆっくり近づく。






「何圧かけてんの?!私が他の神のこと話したからに知ってるに決まってるでしょ!」






「アンタは黙って仕事してな。俺は御霊の神に聞く事があるっスから」








納得出来ない様子で魂の神は前を向いて天別の仕上げを始めた。






大気の神は御霊の神に向き直る。








「新しい神を把握するのも俺の仕事なんス。


アンタ、今まで見なかったがどこに暮らしていたんスか」






「……。


この天別室の空いていた一室に」






「は?」






その答えには大気の神は不意をつかれたようだった。








「おい!魂の神!」




「何?うるさいな」




「良いから来るっス!」




「きゃ、」






力任せに魂の神の腕を掴み部屋から出ていく大気の神たち。






その様子を変わらぬ表情のまま御霊の神は見送っていた。












廊下の壁の彼女に詰め寄り、大気の神は荒げた。






「何で直ぐに伝えねぇ!!


アンタ事の重大さ解ってるんスか!!」






魂の神は腕を擦りながら大気の神を見上げ睨みつけていた。






「天別室と言えば異界のモンも扱ってんスよ!それを得体の知れない奴に聞かれでもしたら…!」






「御霊くんは得体の知れない奴なんかじゃない!!


それに異界の門の鍵は私が肌身離さず持ってる!!あんた御霊くんを疑いすぎ!」






負けじと声を張り上げる魂の神。






「てめ…」




「お〜い…」




「!」








申し訳なさそうに間に入ってくる声。




大気の神はイライラとそちらへ顔を向ける。








「取り込み中、なのか?」






「海の神、さっきからウロウロと…


見て分かんないスか、取り込み中っス、出直しな」






大気の神が言うが、魂の神はスタスタと歩き出してしまった。






「おい!」






「もーハナシ終わったから!!」






「???」






大気の神はそんな後ろ姿を見て舌打ちをし、天別室から出る事にした。






状況を把握出来ない海の神はハテナマークを浮かべるだけだった。










ーーーーー






大気の神が祠雲へ戻ってくると、まりあが雲に座り込み空を仰いでいた。






「何してんスか」






上からひょこりと覗き込む大気の神に驚くまりあ。






「大気の神様っ


いえっ、雲の上から空を眺めるのってとても素敵だなと思いまして」






照れながら言うまりあに溜息をつく、大気の神。






「…そっスか


ところで創神は何処スか」




「あ、何か用事を思い出した様で雲で飛んで行きましたよ」




「…勝手な奴らばかりスね」




「え」








呆れてものも言えないと頭を振っているとフワフワと祠雲に近付いてくる小さな雲。






「大気の神」






「鳥の神、何スか」






「今夜まりちゃんと御霊の神の歓迎会をしようと思うの。」






それには大気の神は怒気を込めてしまう。






「はぁ?何を馬鹿な事…っ!」






しかし隣に立つ人間はジーンと感動しているようだ。






「もう手筈は整ってるの。


料理も場所も全部OKなの」






鳥の神もウキウキと無表情ながらにはしゃいでいた。






(喜びすぎ…、早すぎ…)




「嬉しいです!鳥の神様」




「はぁ…仕方無いスね…」






大気の神の心配を他所に空は藍色に変わり満月が大きく現れてきた。










ーーーーー








一つの雲に湖が。


その上には屋形船が浮かび、水面には満月が映り幻想的だった。






「湖雲こうんの屋形船が歓迎会にはうってつけなの。」




鳥の神は言う。




「すごいです!


キレイですね!鳥の神様ありがとうございます」






まりあが言うと鳥の神の背後には小さな花が浮かんで見えた。








「わぁ〜豪華な食事だね」






創神は嬉しそうに料理を眺めた。






「ふふ、陸の神と作ったのよ。」






水色のふわりとした髪をした女性、水の神が得意気に腕を組む。




「いやぁ、ほぼ全部水の神の手作りだよ」






そう謙遜するのは灰色の髪を一つに結っている陸の神だ。








「おい。


今まで何処に行ってたんスか」






創神のアホ毛をむんずと掴む大気の神。






「ぎゃっいたい!


別に遊んでたわけじゃ…




!」






創神は頭を撫でながら部屋の奥にいる三人を見付ける。






「今日は、


いつも来ない人達が参加してるんだね」








淡い赤色の柔らかな髪をしている


ーー熱の神






そんな彼の横に立つ男


ーー夜の神






橙と黄色のグラデーションが綺麗な


ーー火の神








「そうっスね。


…お目当ては…」




す、と出入り口へと視線を送る大気の神。








魂の神に連れられ、柔らかい笑みを見せている御霊の神が入ってきた。








「遅くなって…」




「さっ、向こう座ろ。御霊くん」




「いらっしゃーい


御霊の神〜」






人懐こい声で迎えたのはお団子の可愛い花の神だ。






それぞれが座り宴会が始まる。


楽しそうにお喋りをし、食事を楽しんでいた。






その様子を見て大気の神は呆れていた。








「チッ…、間の抜けた連中ばかりスね」






「全くだな」








横に居た火の神が賛同する。












「ね、大気の神」






小さな両手でコップを持つ創神は大気の神を見上げる。








「さっき、神泉地しんせんちへ行ってきたんだ」








神泉地、それは創神が神を創る特別な場所だった。








「神泉地……何を…」






「一日で神様を創れるか


試しに行ってきたんだ」








大気の神は言葉を飲み創神を見つめる。


熱の神、夜の神、火の神も創神を見ていた。








「無理なんだ。


一日で神様を創るなんて」






創神は困った表情を見せていた。








「彼は…、


私が創った神じゃないんだ…」








俯く創神。


その頭を軽く大気の神は叩いた。






「た、大気の神?」






「良くやったスよ。


その事実が欲しかった」








そう、御霊の神がこちら側なのか。


大気の神達はそれが知りたかった。
















「皆酔って帰ってしまったね」




陸の神と魂の神は残った食器を片付けていた。






「後片付け、いつも私たち〜」






そして不意に居なくなった御霊の神に魂の神は気付く。






「御霊くん…?」








探すと屋形船の外に立って外を眺める御霊の神を見付けた。










「ここの人達は皆、明るくて楽しいね。


それに…良い場所だ」






御霊の神は空を見つめながら言う。






「ねぇ、魂の神」






漸く顔だけ振り返り魂の神を見やる。






「そうだね


冷えるから、戻ろ」




「ん…」






御霊の神は穏やかな表情で応える。












「寝たんスか」






祠雲に戻ってきた創神と大気の神と、まりあ。






「うん。


私達も休もう」






優しく掛布団をかけてやる創神。








「明日も忙しいからね」






「アンタは暇だろ」


















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