神様たちの物語

城野ひまり

はじめまして神様








丘の上の小さな井戸。


女の子は桶に水を汲み重たそうに運んでいた。




「ふぅ、この位で良いかな」






桶を置いてサクサクと草原を歩く。


お気に入りの丘の上から空を眺めるのだ。




女の子、まりあは色素の薄い鎖骨まで伸びた髪を揺らして空を仰ぐ。






いつも、どうしてか懐かしい気持ちになる。






気が済むまでそうしていて、小屋に戻ろうとした時、ふいに誰かが横になっているのを見つけた。






まりあはこんな何も無い所に人が居ることに不思議がりながら、その人物に近づいて行く。






どうやら眠っているようだが…






(子供?どこから?


そんな事より、髪…エメラルド…。


不思議な子…)






まりあはその子の傍に座り様子を伺っていた。








「ん…」






子供が身動ぎをする。






起きたみたい、と安堵するまりあ。








「いけない、眠っちゃった」






むく、と起き上がり、次にまりあに気付いた男の子はビクッと肩を揺らした。






(あ、驚かせちゃった…)






「驚いたぁ


人間が居たなんて…」




「大丈夫?


風邪引いてないですか?」








まりあが声を掛けると、男の子はまりあへと顔を向ける。その表情は信じられないと目を見開かれていた。










「私が、


視えるの…?」








「は、はい。


可愛らしい姿がはっきりと…」






動揺しながらもまりあはにこりと笑っていた。






ーーーーーー






目の前に青筋を浮かべた男が一人。




紫がかった青色のふわふわした髪した男は、男の子へと眼光を向けた。






「一体どういうつもりスか、創神。」






創神と呼ばれた男の子は無邪気に笑った。




「凄いんだよ!大気の神!


この人間の子は私達が視えるんだよ」








大気の神は顔を引きつらせ、創神のアホ毛をガシリと掴んだ。




「?!」




「あいたたたっ」




「何を腑抜けたこと言ってんスか!


大体アンタも!」








そう言って目くじらを立てていた大気の神だったがまりあを見ると冷静な顔に戻っていった。






「……。アンタ名前はなんスか。」






「あっ、すみません!まりあと言います」






「そうスか、まりあ。


俺は大気の神。名前の通り大気を司る神っス


そして、こっちは創神。名前は創造神だが面倒臭いから皆、創神って呼んでるっスよ」






「えぇ?そんな理由だったの?!」








まりあは呆然としてしまった。


まさか神様に会うとは。






「あの、凄く嬉しいです。お会い出来て。


神様に会えるだなんて素敵です


私、ずっと一人だったのでお話し出来るなんて…」






「(ずっと一人…か)


大袈裟っスね…。


ところで左耳のピアス、それはどうしたんスか」








まりあの左耳に揺れる紫色の石で出来たピアス。


彼女はピアスについて聞かれるとは思わず少し考える。






「気付いたらしていました。きっと小さい頃からしていたんだと思います。」






「そうスか…。


まりあ、これから他の神達と会合がある。アンタの事を紹介しても良いスか?」






「いいの?大気の神」






「私なら大丈夫です!ぜひ他の神様にもお会いしたいです。ありがとうございます。大気の神様」








まりあは嬉しそうに笑った。






「決まりっスね」








「嬉しいです。


ところで、創神様の名前の由来は…」






「あぁ、こいつは神や自然を創造すべし神だから創造神。」






「それなら…創神様は神様のお母さん?!あ、男の子だからお父さんですか?」






目を輝かせる、まりあ。




「あっいや、そんなんじゃ」




照れてしまう創神。




「ただの長っスよ。名前だけの


神を創るだけの能無しっス」








(た、大気の神様、創神様にキビシイ…!)








「騒ぎになりそうっスね」




大気の神は浅く息をつき他の神が来るのを待つことにした。










ーーーーーー






ここは祠雲ほこらぐもと呼ばれている。




雲の上に小さな丸い建物。






この祠雲は神様達が唯一集まる場所らしい。








「集まったっスね。まぁ、全く揃ってないスが。」






やれやれと肩を落としながら、大気の神は巻物を小さな机に広げる。




恐らくそこに他の者の報告を書き留めるのであろうことが分かる。








まりあはここにいる神達を紹介された。






いるのは


夜の神、熱の神、火の神、花の神、海の神、薬の神




そして…






「人間触るの初めてなの」






まりあの背後から彼女を抱き留める、露出が高くセクシーな女性。


鳥の神だった。






「まりちゃんて言うの?


あとで話したいの」




「はいっ是非」




まりあが笑うと無表情の鳥の神の雰囲気が和らぐ。








まりあは創神や大気の神へと視線を向ける。




何やら創神はソワソワしていた。






どうしたのかと問おうとした時勢い良く扉が開かれた。








そちらへ視線を向けると、短い丈の和服に薔薇の髪飾りをした女の子が入ってきた。






「ひ、ひぃっ」






創神の小さな悲鳴にまりあは驚いてしまう。






「ど、どうしました、創神様」






「か、彼女は魂の神なんだけど…。この夏から秋にかけて繁忙期だからって八つ当たりにいつも私を殴ったり蹴ったりするんだよ…」






心底怖がる創神。


大気の神に助けを求めているが彼は素知らぬ顔だ。






そうこうしている内に魂の神はずんずんと創神へと近付いてくる。






「創神っ!」






「ひぃ!」








打撲音など聞こえず、ギュッと創神を抱き締める魂の神。








大気の神は訝しげに見ていた。








「も〜、まだかまだかと待ち遠しかったんだから!創神ありがとう!有能な人で大助かり!」






魂の神は嬉々として創神の肩をぽんぽんとしている。








「…誰の話をしているんスか。」






大気の神の問いに、にっこりとする魂の神。








「御霊の神のことに決まってんじゃなーい!」








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