彼女の幸福と誰かの不幸
「幸せになりたい」と彼女は言った。
「そうだね、人は誰でも幸せになりたいよね。不幸になりたいという人なんていないよね。
でもどんなのが幸福なのかは人それぞれで、何かの指標があってそれが大きいから幸せ、小さいと不幸というのはない。
長さの定義は世界のどこそこの機関が決めていて、そこが1cmを定義している。それより大きければ1cmよりは長いんだし小さければ短い。大きいとか小さいとかの定義は数値のことで、これは世界の人々の大前提にある。20より10が小さいとか、30だったら大きいとか。これを決めとかないと話が始まらない。
で、幸せについてだ。幸せかどうかの指標は誰も作ることができない。何が大きくて何が小さいかがわからないからだ。たとえそれができたとしても大きいほうが幸せなのかどうかも決められない。
たとば所有している資産が多いか少ないかで幸福が決まるとしよう。多いほうが幸せなんだろうか。いや痩せ我慢論ではなく。税金払う手続きがめんどくさいんで、全くないと困るが莫大な資産があると困るんじゃないだろうか。宝くじも億円単位で当たると不幸になるっていう。税金の手続きが面倒だからっていうわけじゃないだろうけど。
それと「資産」って何だ。預金額か。土地とか不動産か。リスク分散の観点でドル立ての預金があるかどうかか。どれが多いと幸福なんだろう。為替相場とかバブルが弾けたとか時代や状況によって違う。つまり所有資産という指標はアバウトすぎるっていうわけだ。複数の指標が必要かもしれないって言っているのにこれだけでも細分化が必要になる。細分化して総合的に見て今はいいほうなんじゃないですか、くらいか。そんなことでは他に何か指標を見つけたとしても絶対うまくいかない。
いや言いたいことはそんなことじゃない。
幸福か不幸かは漠然とそうだよねって言っているだけで、ある人の幸せが別の人の幸福というわけではない。さっきの資産についてもそうだったように。
針で皮膚をちょっとつつくと痛いけど、それは普通不快なのでどちらかというと不幸だろう。でもそれが気持ちいい人はいる。ん僕は違うけど。自由を奪われて身動き取れない状態が快感で嬉しいという人もいるだろう。Mっていうのかな。
だから、世の中の一般的な人、つまりマジョリティ側の人が不幸と思うことが実はある人にとっては幸福だという人がいる。部屋が清潔で綺麗に掃除されているほうが僕は気持ちよくていわゆる幸せだが身の回りが乱雑に散らかっていて整理整頓されていないほうが落ち着くという人がいる。整頓してないので掃除してなくて埃が溜まっている。僕はそんなの嫌なのでその人の幸福は私の不幸だ。お互いの幸福は、整理整頓という軸の上では異なる。
これを広げていくと、世の中の大勢の人が不幸と考えていることが実はある人には大変幸福だという場合があるということだ。
『アンナカレーニナ』の冒頭でトルストイは幸福な家庭は大体どこも同じだけど不幸な家庭は様々だと確か書いた。だが私は言いたい。何が幸福なのかは人それぞれだ。
もう一つ。
幸福のカタチが人それぞれだとわかったとして、だからと言って自分の幸福がどんなものなのかがわかってさえいればいいというわけではない。会話をしている相手の幸福は何なのかがわかって話をすべきだ。特にマジョリティ側の人は、誰でも自分が思っている幸福があなたにとっても幸福でしょ?と思いがちだ。でもそうじゃない人もいることを知ってないと話が噛み合わない。さっきの資産が多い方が幸せでしょ?というのもそう。宝くじで数億円当たったらそれは幸せでしょって躊躇いなくマジョリティの人はいう。そしてそれで不幸になる人もいるとも言う。しかしその人は当選するのが夢だと思っている。逆にこちらが、当たったらこんなに困ったことが出てくるよと説明すると、同じ領域の人だと勘違いされて痩せ我慢してると思われてしまう。まあいいんだけど。
マイノリティ側の人もそう。どうせ私の幸福はあなたの幸福じゃないですよと開き直るんじゃなくて相手のことも尊重しないとね。」
「で、君の幸福は何なんだい? 僕の幸福は君と一緒にいることだけど。10でも20でも30でも気にしない。え何が?だって? それは、、、靴のサイズだよ。」
空想リアリティ @NataaNichizyo
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