275 少女の旅路の集大成 ②
「さぁ行くぞ、
「……はい、お嬢様!」
「竜刃は、手札を一枚セメタリーに送ることで、デッキから『ガイアストラ』モンスターを一体セメタリーに、一体フィールドに呼び出す!」
レンさんの先攻、まず最初に呼び出したのはリュウナさん――<ガイアストラ・ドラグーン>。
続けてモンスターを展開し――
「まずはコヤツから行こうか! <ガイアストラ・ウロボロス>!」
「ふぅん、私がいた頃は、この子が最強のエースだったのにね!」
「わかりやすくていいだろう。我はカウンターエフェクトを二枚セッティングしターンエンド!」
エースモンスターをリュウナさんの隣に立ててターンを終えた。
「ふふふ、リュウナも随分といい顔になったじゃない。おっぱいも大きくなったし」
「恐縮です」
なんかナチュラルにセクハラしてるな……
ともあれ、ルインさんのターンだ。
ルインさんの使うデッキは当然――
「私は<
『破滅巫女』デッキだ。
いや、『破滅巫女』でジャンヌはいいのか……?
まあ、いいか。
ともあれルインさんは、レンさんのカウンターエフェクトによる妨害を乗り越えつつ大型モンスターを呼び出す。
「来なさい! <破滅巫女 ピュリフィ・プリンセス>!」
「やはり母様はそのカードか!」
現れたのは、女性型のスラッとした龍だ。
レンさんの言い方からして、おそらくは俺にとっての<ロード・ミカエル>に相当するのか。
「私の『破滅巫女』が最も得意とするのは、破壊! 大型『破滅巫女』はサモン時にカードを一枚破壊するエフェクトが共通で備わっている! 破壊するのはそのカウンターエフェクトよ!」
「ふん、流石にそれくらい読めている! 我は<ガイアストラ・アップダウン>で自身の攻撃を上げ守備を下げる! 更に一枚ドロー!」
現在、レンさんのフィールドにいる<ガイアストラ・ウロボロス>には破壊耐性がある。
破壊するなら<ドラグーン>かカウンターエフェクトだ。
『破滅巫女』の共通効果についてよく知っているレンさんなら、普通は対策としてセッティングするカウンターエフェクトは破壊されても問題ないものにする。
ルインさんもそれを解っているのに、敢えてカウンターエフェクトを破壊した。
なぜなら――
「へぇ、以前ならここで<アップダウン>をあわせることはできなかったのに、本当に成長したわね……レン!」
「成長を確かめるために、温い手を打つのは感心せぬぞ母上!」
以前のレンさんならそうはいかなかったからだ。
レンさんのぐえーは、テンポの遅れによってもたらされる。
その最たるものが、今回だ。
かつてのレンさんなら、アレで攻撃無効系のカードを破壊されていただろう。
「けど、そのカウンターエフェクトが<アップダウン>なのは想定済みよ! <ピュリフィ・プリンセス>はフィールドのモンスターが攻撃力を上げた時、自身も攻撃力を上げる!」
「ええい、上から殴る類の怪物め! <ウロボロス>のエフェクト! 手札、フィールドの『ガイアストラ』をセメタリーに送り、セメタリーから『ガイアストラ』を手札へ!」
『破滅巫女』はカード破壊と打点上昇を得意とするデッキだというのは以前レンさんから聞いたことが在る。
対するレンさんは、<ウロボロス>のエフェクトでリュウナさんをセメタリーに送って攻撃力の低いモンスターをフィールドから退避させた。
「手札に戻すのは、セメタリーに送ったばかりの竜刃だ!」
「この動き、ずるくないかしらー?」
<ウロボロス>で手札に戻すモンスターは、コストでセメタリーに送ったモンスターでも問題ない。
手札に戻すモンスターの指定は、エフェクト処理中に行われる。
対してコストでセメタリーに送る効果はエフェクトの発動前に行われるからだ。
これ、遊戯王でも似たような例結構あるよな。
「まあいいわ、<ウロボロス>は倒せるもの。行きなさい! <ピュリフィ・プリンセス>!」
「ぬう!」
かくして戦闘が行われ、<ウロボロス>は破壊。
ルインさんはカウンターエフェクトをセッティングしてターンを終えた。
「いやぁ、本当に成長したわね……以前なら下手したらリュウナの回収すらできてなかったでしょう」
「そうだな。とはいえ、今は真面目な場だ、我もそう後れは取らん」
「期待してるわよ!」
「我のターン!」
本当に、なんというか。
子の成長を楽しむ親って感じだな。
そのために、実質終焉のカードを利用するというのは中々大胆がすぎると思うが。
そこまで含めて、聞いていたルインさんの印象どおりだな。
さて、レンさんはその後カードを展開し、新たなエースを呼び出す。
「次はコヤツだ! <極大古式聖天使 アストランド・ガイアドラゴン>!」
俺の他人の空似シリーズの一体。
レンさんが作り出した他人の空似『ガイアストラ』だ。
「……へぇ、それが彼の」
「ふん、天の民は悪い大人だ。我に天の理を乱せという。その結果がこの始末だ」
「悪い大人ねぇ」
「なんでここまで責められなくちゃいけないんだよ!」
ハクさんも擁護してくれよ!
苦笑しながら距離を取らないでくれ!
「だが、このモンスターは非常に強力だ! 行け、<アストランド・ガイアドラゴン>!」
<ピュリフィ・プリンセス>は破壊され、状況はレンさんに傾く。
とはいえ決着には至らず、ルインさんのターンだ。
「私のターン! ドロー!」
「……」
「……へぇ」
少しだけ、ルインさんの表情が変わった。
なんというか、少し悪いことを思いついた大人みたいな。
何故レンさんはこっちを見るんだ、仮に俺が悪い大人だったとしてもルインさんとは無関係だぞ。
「レンの成長は解った、そこにはいろいろな人の助けがあったことも」
「そうだな、天の民に限らず我は多くのものに支えられてきた。母様がいなくとも、立派な大人になるために!」
「――だからこそ、私はレンに聞かなきゃいけないことがある」
そう言って、ルインさんはカードの展開を始めた。
レンさんが視線を鋭くする、ルインさんの使うカードが見たこともないカードだったからだ。
「新しいカードか?」
「ふふふ、どこで手に入れたと思う?」
「……聞きたいこととは、なんだ」
冷静に、レンさんが続きを促した。
今の切り返しを、レンさんを幻惑するためだと思ったのだろう。
悪い大人のやりそうなことだ。
「簡単。――レンは、どんな大人になりたい?」
そして、手を止める。
おそらく次に呼び出されるのは、ルインさんの見たこともないモンスターだ。
どこから手に入れたか――なんとなく想像はつくけど、何にせよ。
対処できるのはレンさんだけだ。
「我はもう大人だ」
「でも、これからもっと大人になるわ」
「我がぐえーする理由も、答えを見つけた」
「でも、完全に全てが思い通りになるわけじゃない。日常ならまだぐえーする時もあるでしょう?」
ぐえーを単語にすると、少しシュールだな。
今更ながら……今更すぎるな?
「具体的なビジョンを知りたいのよ。レンにはもう、それが見えているはずだから」
「……」
「もし見えていないなら――レンは私には勝てないわ」
そして、ルインさんはカードを掲げる。
呼び出すつもりだ、出てくるのは――
「そのための障壁として、私は立ちふさがっているのだから! <終焉の破滅巫女 ディザスター・デミゴッド>をサモン!」
終焉の『破滅巫女』だ。
案の定、というべきか。
「……ここにいる時点でそんな気はしておったが、母上」
レンさんが、睨みながら叫ぶ。
「終焉カードを取り込んで復活しおったな!? 終焉カードが可哀想だとは思わんのか!」
「あはははは! 私らしいでしょう! さぁ、ファイトを続けるわよ!」
――破天荒、とは聞いていたが。
どうやら復活を持ちかけた終焉カードを、逆に乗っ取って今のルインさんは復活しているらしい。
一応、この場でレンさんとファイトしなくちゃいけないという縛りこそあるが。
ほぼルインさんの方が主人じゃん、と俺とハクさんは視線を合わせて苦笑するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます