276 少女の旅路の集大成 ③
レンさんは、大人顔負けの子供だ。
経営者として、エージェント機関の主として。
俺みたいな大人としては適当に生きてるタイプの大人より、ずっと大人っぽい。
しっかりしている、とも言える。
でも、少しだけ思うのだがそれは本人の素質によるところで。
本人の精神性とは少し違うのではないだろうか。
簡単に言えば、レンさんは視野が広い。
どんなことをも深く、真面目に掘り下げることができる。
けどそれは本人の能力によるところであり、性格ではない。
レンさんの性格は、まだまだ子供っぽいところのある挑戦者だ。
子供と大人を分けるものは、正直人によって異なると思う。
こうすれば自分は大人だ……なんて、断言できる人はそういないだろう。
そもそも人っていうのは多面性の生き物で、大人な部分もあれば子供な部分もある。
自分で言うのも何だが、俺はその典型ではないか?
人を導く店長の側面と、ファイト最優先なファイトバカの側面。
大人と子供、二つが同時に存在している。
そういう意味で、レンさんにとって大人というのは難しい問題だ。
大人顔負けの能力のおかげで、自分は大人であるという自認は人一倍。
対して、未熟でまだまだだという部分も、その能力故に解ってしまう。
ぐえーが何よりの証拠だからだ。
であればレンさんは、一体どんな大人になるのだろう。
どんな未来を、レンさんは描いているのだろう。
子供が大人になる瞬間。
まさに、子が親を乗り越えるのにピッタリなシチュエーションだ。
キアが、キアのお父さんをファイトで乗り越えたように。
ここでレンさんも、ルインさんを乗り越える必要があった。
□□□□□
――攻防は続く。
その後、<アストランド・ガイアドラゴン>は激しくエフェクトを<ディザスター・デミゴッド>とぶつけ合うものの。
最終的に破壊されてしまった。
しかし、ただでは転ばないのが今のレンさん。
「カウンターエフェクト、<過去と未来と現在が繋がる場所>! フィールドのモンスターが破壊された時、デッキとセメタリーからモンスターを一体ずつサモンする!」
「へぇ、呼び出すのは?」
「<ガイアストラ・ウロボロス>と――<破滅巫女 ロータス・ステラ>だ!」
かくして、二体のモンスターがサモンされる。
どちらもレンさんを象徴するモンスター。
片方は、文字通りといった感じだけど。
「<ディザスター・デミゴッド>はライフがある限り、何度でもモンスターを破壊する。<ウロボロス>は破壊できないけど、レンは破壊できるわよ?」
「ええい、<ロータス・ステラ>は<ロータス・ステラ>と呼べ! 続けて<心火再熱>! この二体で新たなモンスターを呼び出すぞ!」
この二体と、<心火再熱>で呼び出せるモンスターは、あれしかない。
レンさんの新たなエース――
「<サンクガイアストラ・ラグナファフニール>!」
聖域の名を関する、大地の守護者だ。
「へぇ、それが……レンのたどり着いた答え」
「うむ。我が愛する世界を守る、そのための力だ」
「――良い答えね。けど、私を越えられているとは言えない」
そう言って、ルインさんは笑みを浮かべる。
そのまま、<ディザスター・デミゴッド>に攻撃を指示した。
両者の攻撃力は同じだ。
確かに、越えているとは言えない。
「相打つつもりか!?」
「さあ、やってみればわかるわよ!」
「……ぐ、しかし我にはこれを防ぐ手段が、ない」
「あはは! そうでしょうね!」
かくして、両者は同時にモンスターが破壊される。
フィールドには、何も残らなかった。
「私はカードを一枚セッティングして、ターンエンド。さぁ、ここからどうするの?」
「……おそらく、次が最後のターンになるだろうな」
ルインさんの言葉に、レンさんはためらうことなくまっすぐ返した。
それは、レンさんの中ですでに答えが見えているという証だ。
後はそれを、ルインさんにぶつければいい。
「……語るべき言葉は多くある。だが、それを示すにはあまりにも時間が足りぬ」
「二人で、ゆっくりと言葉を重ねたいわよね」
「故に、我はカードで語るとしよう。そのほうが、もっとずっと……わかりやすくて単純だ!」
そして、レンさんはデッキに手をかける。
「我の歩んできた旅路の集大成。その年月を、この一枚に懸ける!」
「……来なさい!」
「ドロー!」
そして、引き抜いたカードを見てレンさんは、ふっと笑みを浮かべた。
「我が使用するのは……<黄泉よりの帰還>! セメタリーからあらゆるモンスターを再生させる!」
それはレンさんが操る汎用カード。
いわゆる死者を蘇生させるアレだ。
それをレンさんが使用することの、意味。
「我は……たとえ何度ぐえーしようと! その度にごろごろっとしようと……! 勇気と根性をガッチャンコして、再び立ち上がる!」
「……!」
「失敗を糧に、何度でも挑戦できる大人! それが我のなりたい未来の我だ!」
レンさんは、何でもできる。
その殆どが成功に終わり、失敗を経験することはない。
それが天才というものだ。
けど、レンさんは違う。
ぐえーするし、理不尽に頭を痛めたりもする。
地に足をつけて、一歩一歩進める根性があるのがレンさんなのだ。
「蘇生させるのはこいつだ。<サンクガイアストラ・リジェネレイト・ユグドラシル>!」
「……そんなカード、いつの間に!?」
「はじめからだ。竜刃の手札コストで我はこやつをセメタリーに送っていた!」
「…………そう」
そのカードは、俺がレンさんとのファイトで生成したカードである。
<リジェネレイト・ユグドラシル>。
ラグナロクを乗り越えて、再生した世界を表すカード。
終焉とガッチャンコさせて、世界の核にするにはピッタリなカードだ。
「けど、簡単には譲らない! 私は――<終焉覚醒>を発動!」
「ルインさんまで、<終焉覚醒>を!?」
驚くハクさん。
でも、読めていたことだ。
終焉カードを乗っ取ったということは、<終焉覚醒>を乗っ取っていてもおかしくはない。
だが――
「どうやら、考えることは同じようだ」
レンさんは笑みを浮かべている。
「――我は、<終焉覚醒>を発動!」
なぜ、レンさんが<終焉覚醒>を?
答えは簡単だ、俺が回収した終焉カードが、<終焉覚醒>になったのである。
ある意味で、このカードこそが終焉カードの本体ということか。
みんな使うからな。
そして、ガッチャンコとは再生のカードに<終焉覚醒>を使うことを指す。
「セメタリーの<ディザスター・デミゴッド>を覚醒! 私は<ディザスター・デミゴッド・アンドルイン>をサモン!」
「来い! <サンクガイアストラ・リーヴアンドスラシル>!」
かくして、二体の終焉が並び立つ。
しかし、レンさんのそれはタダの終焉ではない。
再生とガッチャンコした、新生の証だ。
「<ディザスター・デミゴッド・アンドルイン>のエフェクト! サモンされた時、全てのカードを破壊する!」
「<サンクガイアストラ・リーヴアンドスラシル>が破壊された時、このモンスターを再びサモンする! ――何度でもだ!」
「なんですって!?」
<ディザスター・デミゴッド・アンドルイン>と<サンクガイアストラ・リーヴアンドスラシル>の攻撃力は同じ。
で、あるならば。
「バトル! <リーヴアンドスラシル>で<ディザスター・デミゴッド・アンドルイン>を攻撃!」
「二体が……相打ちに終わるわ」
「だが、<リーヴアンドスラシル>は蘇る! さぁ、これで終いとしよう!」
かくして、レンさんの最後の攻撃は決まり。
――ファイトは、レンさんの勝利で終わった。
□□□□□
「……本当に強くなったわね、見違えるほどだわ」
「うむ……うむ! 我は強くなっただろう、我はすごくなっただろう!」
「ふふ、そういうところはまだまだ子供だけどね」
「なんだと!?」
ぴょんぴょんと跳ねるレンさんの頭を、ルインさんが撫でる。
戦いも終わり、和やかな空気が流れ始めた。
しかし――
「……母上、身体が!」
「ああ、これ? 今の私はあくまで終焉カードを借りて復活してるだけ。本体はカードになっちゃってるから」
ルインさんの身体が、透け始めている。
「世界を救わねば、本当の意味で母上は救えぬ……か」
「そういうことよ」
言いながら、ぽんぽんとレンさんの頭を優しく撫でてルインさんは笑みを浮かべる。
レンさんも少しだけ寂しそうな顔をしてから、それを誤魔化して不敵に笑った。
「であれば、任せよ! ここからは我と我の仲間たちがなんとかする!」
「ええ、ここまでくれば後は世界を再生させるだけ……期待してるわ、レン。店長さんと、ハクも」
「ああ、わかってる」
「……はい!」
かくして、ルインさんはレンさんに後を託した。
もう、心配はいらないだろう。
託されたレンさんの顔は、十分に大人と言えるものなのだから。
「……と、ところでなんだけど」
「うん?」
と、そこで。
ルインさんが何故かこっちをチラチラ見始めた。
え、何?
「ふぁ、ファンなの! サイン頂戴! 店長さん!」
ええ。
いや、なんか。
ルインさんが絢爛世界に来たのは数年前だ。
ということは、その頃にはすでに俺はダイア達とあれやこれやをやっていたことになる。
それを知っていて、ルインさんはずっと俺とダイアのファンだったらしい。
ええ……
「…………最後くらい、きちんと締めろー!」
なお、サインは間に合わず。
レンさんの叫びがこだまする中、ルインさんは消滅した。
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