274 少女の旅路の集大成 ①
「……多分、核はこの下ですよね」
「まぁ……これみよがしに穴が空いているしな……」
遠くでカリオストロ・エッフェルタワーとヤトちゃんがファイトしているのが見える状況で。
俺達は凱旋門……と思われる場所へたどり着いた。
もしかしたらコレもロボなんじゃないかという話をしつつ、三人で凱旋門の下に空いた穴を覗き込んでいた。
底しれぬ暗闇が広がっている。
とはいえ、降りるだけならスチームボードもあるので容易だろう。
帰りは結構大変そうだが。
ヤトちゃんのアルケ・ミストで引き上げてもらおう。アレ結構厄い代物みたいだけど。
「とにかく、突入してみるか」
「……我々はいいのだが、天の民はどうするのだ」
「これくらいなら……なんとかなるだろ」
「えぇ……」
というわけで突入。
結局俺は崖の出っ張りを伝っていくことになった。
行けると思うんだけど、二人が心配だって言うから……
「ここが最奥か? 暗いが、不思議と視界は開けているな」
「ファイトエナジーが光ってるんだろう、絢爛世界って言うからにはこの世界のファイトエナジーには光があったのかもしれないな」
今は薄っすらと、核の近くに残留している程度だが。
かつてはそれはもう綺羅びやかに、世界を照らしていたのかもしれない。
「横穴が続いてますね」
「進むぞ」
ずんずんと、レンさんが真っ先に奥へと進んでいく。
組織の長として、先陣を切るタイプなんだろう。
普段の性格からしても、そんな感じだしな。
やがて、しばらく進んでいくと――ふと、広い空間に出た。
そこで俺達はあるものを見つける。
「――人、ですか?」
「みたいだな」
「アレは……」
こんなところに、人影?
広い空間の中心に、誰かが立っている。
女性だろうか、薄暗いためその顔までは伺えない。
そこでふと、レンさんが目を見開いた。
慌てて、その人影に駆け寄っていく。
そして口を開くと――
「母上!?」
そう、”彼女”を呼んだ。
俺とハクさんも、顔を見合わせてからレンさんを追いかける。
そこに立っていたのは、金髪に和服姿の女性だった。
レンさんに近いクセのある金の髪、顔立ちも似ている。
まさに親子といった感じなのだが。
「……なんというか、極妻って感じですね」
「違うから、そういうアレじゃないから」
極道じゃなくて正義のエージェントだから。
いや、破天荒だって聞いてるし、漂う雰囲気からして只者じゃないけどさ。
そんなレンさんの母親――ルインさんは、駆け寄るレンさんに対して、
「おー、レン! 大きくなったわねぇ!」
そう言って、飛び込んできたレンを抱きとめると、くるりと回ってほっぺたをこね始めた。
「母上! 母上なのか!? カードになったのではなかったのか!?」
「私よ、貴方の母親、ルイン。それは間違いないわ」
なんだか歯切れの悪い言い方だ。
ともあれ、レンさんとルインさんからはなんというかこう、言葉にできない縁を感じる。
それが親子としてのつながりだというなら、この人がルインさんであるということは間違いない。
「もにゅにゅもにゅにゅにゅにゅ」
「あははは、レンのほっぺたは柔らかいわねぇ」
「子供扱いするもにゅー!」
そして、レンさんの頬を手慣れた手つきでこねている。
おお、レンさんがお餅みたいに……
「……なんか、レンさんの等身が低くなってませんか?」
「レンさんはもともと等身低いだろ」
「貴様ら! 失礼なことを言うなもにゅー!」
マスコットみたいなサイズになったレンさんが、ひたすらルインさんにもにゅもにゅされる中。
ハクさんが一歩前に出て、胸に手を当てて挨拶をする。
「……お久しぶりです、ルインさん。ハクです」
「ハクちゃん! いやぁ大きくなったねぇ! 胸も! 尻も! それから度胸も!」
ジロジロと、エロオヤジみたいな視線を向けるルインさん。
度胸はまともなことを言っているように見えて、今のハクさんは月兎仮面(仮面はつけていない)なので、露出のことを言っている。
徹頭徹尾セクハラだ。
「それにその衣装! とってもよく似合ってるわ! 貴方らしい、覚悟に満ちた衣装ね!」
「おわかりですか……はい、私……目覚めたんです!」
「露出に!」
「余計な一言を加えるなぁ!」
等身の低いレンさんが、叫びながら暴れる。
「そして君が――」
「天の民だ!」
「棚札ミツル、カードショップデュエリストの店長です、よろしく」
そして視線が、俺の方に向けられる。
挨拶を返し、続くルインさんの言葉を待つ。
「……ふふふ」
「……」
「ふふふ……」
「あの……なにか?」
何やら意味深な笑みを浮かべるだけで、ルインさんは何も言わなかった。
え、俺になにかあるの?
俺何かした?
……心当たりがありすぎる!
「母上! 我々はこれから、この絢爛世界を再生させるのだ!」
「ええ、ここに来たってことはそうでしょうね」
「我は頑張ったのだぞ、普通のファイトでぐえーすることがすくなくなった」
「それはすごい。でも驚かないわ、貴方がここに来たってことは色々なことを乗り越えてきたってことだもの」
驚かない、といいつつもどこかルインさんは嬉しそうだ。
その言葉に嘘はない、しかし――
「だから、だからな母上。見ていてほしいのだ、これから我と白月、それから天の民がこの世界を再生するところを――」
「――残念だけど」
そこで、ルインさんはレンさんをおろした。
不思議そうなレンさんから、少しだけルインさんが距離を取る。
そして――
「それは、できないわ」
イグニスボードを構えた。
その瞬間、レンさんの等身がシュっと元に戻る。
「……何故だ、母上」
「私が貴方の母親であると同時に、終焉のカードに操られた存在だからよ」
「…………えっ!? これで操られてるんですか!?」
一瞬、完全に素に戻ったハクさんがびっくりした様子でルインさんを見た。
実際、ルインさんは驚くほど普通に見える。
だけど、彼女がその正体を明かした途端。
確かに終焉のカードの気配が彼女に混じった。
「ふふん、確かに操られてはいるけど、意識までは操られていないからよ」
「精神はあくまで母上のままということか……だが、ここで我を止めるという役割からは逃げられぬ……と」
「そういうことね」
どちらにせよ、ここでファイトする必要があることには変わりない。
「止める、というのはあなた達もよ。ハク、店長さん」
「問題ない。我のファイトの見物をしているがよい!」
バッ、とレンさんがスチームボードを展開して構える。
俺達が距離を取ると、レンさんとルインさんは視線をぶつけ合った。
「――正直に言うと、私と終焉のカードはある一点において利害が一致している」
「我とここで戦うということにおいてか?」
「そうよ。娘が成長し、ここまでたどり着いた。その喜びを噛み締め、そしてその成長を確かめたい。母として当然の感情でしょう」
「……ならば」
その言葉に、レンさんも笑みを浮かべた。
「我と、終焉のカードの利害もまた一致しているということだ!」
すなわち、レンさんもまた母親に自身の成長を見せたい。
そう考えている。
何より――
「ここで母上に勝てぬようでは、我らは大望を果たせぬ! 何より我が納得できぬ! いい機会だ、我はここで母上を越える!」
「ええ、いい啖呵ね!」
「これまでの人生で、一度として勝てなかった相手に! かつて勝てぬと思ってしまった相手に……我は勝つ!」
このファイトは、誰にとっても必要なものだ。
絢爛世界の再生は俺達にとって、通過点。
ここで母親には負けていられないというのは、レンさんにとってもそうだが。
俺達にとってもそうだ。
俺とレンさん、そして周囲の人間が積み上げてきたものを、ここでルインさんにぶつけよう!
「イグニッション!」
「イグニッションよ!」
かくして、レンさんの旅路の集大成が始まった!
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