273 絢爛世界へのりこめー
結局、あの後二つのカードをガッチャンコするのに三日かかった。
長く苦しい戦いだった。
途中、キヨシさんの仕事が溜まりまくってしまい、レンさんがリモートで手伝って何とかしたりした。
とはいえ、ガッチャンコしてできたカードは、絢爛世界の核として使用するのに十分な代物だった。
後はそれを、実際に絢爛世界へ持ち込むだけだ。
「というわけで、いよいよ我々は絢爛世界へと乗り込むこととなった!」
例の和国世界、絢爛世界、蒸気世界をつなぐ時空の歪みがある場所で、レンさんが高らかに宣言している。
「突入メンバーは我、
「はい、質問です!」
それに対して、何故かヘルメットをつけているエレアが質問する。
「どうしてその四人なんですか?」
「うむ、単純に運命力の問題だ。天の民いわく、この四人が一番運命力が絢爛世界に結びついているそうだ」
「てんちょー! その中に自分をいれるのはちょっと卑怯じゃないですか?!」
俺に言われても困るって。
運命力が結びついていない人間が中に入っても、なんやかんや出てきた敵と戦ってそれで終わりになることが多い。
普段の俺が事件に関わっても、木っ端のザコとしか戦えないのはこれが理由だ。
「しかし、それはそれとして意外よね。店長がメンバーに入れるって」
「そこなのだよなぁ。いくら夜刀神の旅路は天の民とともにあったとはいえ、ここまで積極的に介入できるほどか? とは思う」
「私が入れないのに、店長が入れるのは何かあると思います!」
この場にいるのは、突入メンバーとエレア、それから状況を見守りに来たジョンさんだけだ。
なお、現在ジョンさんはファイトエナジー爆弾の最終調整である。
エレアは、突入メンバーに入れなかったのが悔しくてついてきた感じだな。
後そのヘルメットは何なんだ?
「今回、私だけのけ者みたいでなんかヤです! というか店長ばっかりずるいです! 私もヤトちゃんを助けたいのにー!」
「エレアにはクルタナ操縦っていう大事な使命があるだろ」
「そうですけどー!」
ぶーぶーと、駄々をこねるエレアをあやしつつ、俺達はジョンさんの準備を待つ。
とはいえエレアの言う通り、エレアが関われないのに俺が関われているのは少し変だ。
なにか別の理由があるのではないか、というのは若干思わなくはない。
「ある意味で、それを確かめるための今回だ。絢爛世界で俺達がやるべきことは二つ」
「ファイトエナジーの活性化と、核の再生だな。前者は白月の役目であり、後者は我の役目だ」
「私と店長の役割が、すっぽり浮いてるのよね」
それでも俺達が先に進む必要があるということは、なにかするべきことがあるということだ。
まぁ、実際に行ってみないとわからないだろう。
ただ個人的な経験則だが、今回俺とヤトちゃんは”主役”ではない。
何かしら役割があったとしても、それが状況を決定的にすることはないのではないか。
「出たとこ勝負には変わりないってことですかー! 店長のいけず!」
「なんでだよ」
両手を上げて駄々をこねるエレアの手を掴んでぷらーん、とさせていたらそんなことを言われた。
ともあれ、そこでジョンさんが声をかけてきた。
「準備ができたぞ、これを被れい」
「これは……ヘルメット?」
「そいつを被らんと、爆弾に巻き込まれるぞ」
ヘルメットをかぶるだけで、爆弾から身を守れるのか……
「ご安全に! ヨシ!」
「エレア、そのポーズ何?」
「魂が、こうしろって言ったんです……」
この世界に無いからなぁ、現場猫。
エレアが反応したのは、俺の魂から漏れ出したからか。
そこでハクさんが問いかけてくる。
「ちなみにヘルメットを脱ぐとどうなるんですか?」
「脱ぎたがりめ! 自重しろ!」
「黒焦げになり、頭がアフロになるぞ」
どんだけ脱ぎたいんだこの人。
古典かなにか?
まぁホビアニってそういうものといえばそういうものだけど。
「うずうず……」
「やめて姉さん! 本当にやめて! 黒焦げアフロで決戦に赴くのだけはやめて!」
「……まぁ、脱衣は美しさがあってこそですし」
微妙に、ハクさんの美意識が高いことが判明した。
自分を美人だと思っているから、裸体を晒すことに価値を見出しているんだな。
業が深い。
「では行くぞ、3、2、……」
「……はっ、思いつきました!」
「1……0!」
「エレア!?」
そして、エレアがヘルメットを脱いだ。
最初からヘルメットしてたのに――!?
爆発が、視界を覆う。
直後に風が俺達を襲う。
それから身を守りながら、爆発が収まるのを待ち――
見ればそこには、本来ならばあるべき場所に時空の歪みが発生していた。
あと、エレアはまっ黒焦げになっていた。
「では行って来い、お前さんたちの願いのためにな!」
「けほっ、がんばってくらはひー」
エレアを完全にスルーして、ジョンさんが俺達を見送ってくれた。
俺達もエレアを完全にスルーして、時空の歪みへと飛び込む。
「誰かつっこんでくらさひよー!」
というエレアの叫びを残して。
□□□□□
「――ここが、絢爛世界ね」
「……静かな場所ですね」
「だが、それが本来の姿ではないだろう」
華やかなりし巴里の都。
往時であれば、その名に相応しい見事な絢爛さを誇っていたのだろう。
だが、今のこの世界は有り体にいって死んでいる。
世界自体が灰色に染まり、人もいなければ生命の気配もない。
ただ、足元に無数のカードが散らばっている。
「……この中に、母さんと父さんがいるのでしょうか」
「わからん……今は中枢を目指すぞ」
この中に、ハクさんのご両親とレンさんの母親がいる。
それを思いながら、俺達はカードを避けて進むことにした。
「……スチームボードはこの世界でも使えるのか」
「時空の歪みを通して、蒸気がこっちの世界にも流れ込んでいるんじゃないかな」
具体的な方法は、スチームボードで飛び上がって建物の屋上を進む、だ。
俺は普通に飛び上がったよ。
変な目で見られたけど。
「しかし中枢って……どっちよ」
「凱旋門かエッフェル塔だろう、後者は壊れていそうだが――」
と、その時である。
ずううん、という鈍い音の後。
遠くで何かが立ち上がる音がする。
――ロボだ、巨大なロボが立ち上がったのだ。
その姿を一言で言い表すなら……
「何よアレ……」
「一言でいうなら……貴族っぽいエッフェル塔ですか?」
ハクさんの言葉に、俺はピンと来た。
「おそらく、エッフェル塔ロボとカリオストロエンジンが合体したんだ」
「天の民は何が見えているのだ?」
「いやだって、そんな感じの見た目じゃないか!」
カリオストロは伯爵を名乗る詐欺師だ。
なんかこう、貴族っぽい姿をしているのだろう。
その機械なのだから、カリオストロエンジンは貴族っぽいロボだったはずだ。
それがエッフェル塔ロボを乗っ取る形で今の状態になっているというのは、自然な推測ではないだろうか。
「……こっちに来るわ!」
「狙いは……ヤトか!?」
そして、貴族っぽいロボ……カリオストロ・エッフェルタワーとでもしようか。
カリオストロ・エッフェルタワーは一目散にヤトちゃんへ向けて進撃してくる。
俺達がヤトちゃんから距離をとっても、そっちに意識を向けることはない。
「ってことは……私の相手はこいつ? いやいいんだけど……本当にこう、露払いって感じの役目ね!」
「お願いします、ヤト!」
「先に行って、こいつ一体だけなら私がなんとでもする!」
かくして、ヤトちゃんにこの場を任せて俺達は先に進むのだった。
しかしアレだな、本当に変なロボだな……エッフェル塔ロボ。
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