272 終焉と再生をガッチャンコ

「ふんぬぬぬぬぬ!」

「レンさんは何をやっているんだ?」

「えーっと、どこから説明したものですかね」


 なにやら、うちの店でブリッジをしているレンさんを見つけた。

 エレアがあわあわとそれを見守っている。

 何やってるんだろう、この人たち……怖い。


「怖いのは貴様だあああ!」


 ヒュンッ!

 すごい勢いでカードが飛んできた。

 俺は思わずそれを受け止めると、そのカードは……


「前に俺が作ったカードか」


 レンさんとのファイトで、なんか世界救えるカード作れないかなと思って作ったカードだ。

 あの後、レンさんに渡してある、だってレンさんが使うと丁度いいカードだったし。

 それをどういうわけか、レンさんがブリッジした状態で持っていたわけだ。

 なんで……?


「絢爛世界を再生する核を作っていたのだ!」

「え、作れるものなの?」

「貴様ならできるだろうがー!」

「まぁ、やろうと思えばできるかもしれないけどさ」


 でも、やろうとは思わなかったぞ。

 しかしそうか、作るのか、レンさんが。


「レンさんも立派になったな……」

「そこはレンさんも店長に染まってしまった、だと思いますよ……」

「やめろぉ瞳の民!」


 思わず目頭が熱くなった俺だったが、エレアがドスドスと脇腹を小突いてきた。

 レンさんもやめろといいつつ、エレアではなく俺を小突いている。

 痛い痛い、やめなさいって!


「とにかく! 別に天の民のように当てもなく無茶をしているわけではない!」

「そ、そうですよ! 店長みたいな無茶は流石にレンさんだってしません」

「君たちは、俺を無茶しかしない変なやつみたいに思ってる?」

「思ってます」


 ですよね。

 流石に、この扱いにも慣れてきた。

 それはそれとして、レンさんのアテとは何なのだろう。


「簡単に言えば……こうだ!」


 そう言ってレンさんは、もう一枚のカードを俺に見せる。

 そ、それは……


「終焉のカード?」

「そうだ、こいつと天の民が生成したカードを……ガッチャンコ!」

「ガッチャンコです!」


 ええ。

 いや、俺の生成したカードは確かに終焉のカードと融合させるといい感じになりそうだけどさ。

 ガッチャンコって。


「ただ、ガッチャンコするには我でなければならん。ファイトエナジー爆弾と同じ理由でな」

「縁のある人間が必要ってことです! 店長はお呼びじゃありません! バランスは守られなくてはなりません!」

「エレアは何で俺に辛辣なんだよ!」


 それはそれとして、バランスは取りたいのか俺に抱きついて押してくる。

 ぐいぐいと押された俺は、壁まで追い込まれてしまった。


「しかし……まったく上手くいかんのだ!」

「それで迷走して、ブリッジなんてしてたのね」

「迷走ではない! 試行錯誤だ!」


 同じじゃないかな……とはいえ、話は解った。

 そういうことなら俺も手伝うことはやぶさかではない。


「というか、ゆうご……」

「ガッチャンコだ」

「……ガッチャンコするなら、ファイトでやるのが一番いいのでは?」

「丁度いい相手がいない!」


 ヤトちゃんもハクさんも、用事でショップには来ていないし。

 レンさんとつながりの深い蒸気世界の人間もいない。

 そもそも今はまだ朝の八時、蒸気世界につながってもいない。

 と、なるほど確かに相手がいない。

 エレアとは……蒸気世界の呼び込みでファイトしてるしなぁ。

 多分、縁が足りてない。

 俺も同様に。


「確かにそれなら、丁度いい相手がいないか……」

「だろう」

「――――いやまて、一人いるだろ。最高に丁度いい相手が」


 と、そこで俺は思いついた。

 むむ、とレンさんが視線を細める。

 エレアも不思議そうに俺を見上げてくる、かわいい。


「キヨシさんだよ」

「あ、あーーーー」


 納得したような、いやしかしなぁといった雰囲気のレンさん。


「だがなぁ……父上だしなぁ……本当に上手くいくかぁ?」

「やってみるだけなら、いいんじゃない?」

「ふーむ……一応連絡は取ってみるか」


 そう言ってスマホから、何やらメッセージを送るレンさん。

 すると――



『そういうことなら、私に任せてもらおう』



 店のフィールドに、キヨシさんがサモンされた。

 ショップ対抗戦でも使われた、二つのフィールドを繋いで通信するアレを利用しているのだろう。

 というか反応はや!


「こ、こやつまさか……こうなることを読んで、ずっと我の連絡を待っていたな!?」

『うむ。起きている時は常にフィールドを利用して店長殿の店に連絡を取れるよう待機していた!』

「迷惑なやつめ!」


 レンさん、反抗期である。

 どうやらキヨシさん、俺が終焉カードを手に入れた時からこの流れを読んでいたらしい。

 さすがはこの国のエージェント機関のトップ。

 アリスさんほどではないだろうけれど、世界の滅びとかには詳しいのだろう。


「ええい、そういうことであればさっさとファイトした方が良いな。社の人間に迷惑をかけるわけにはいかん!」

『安心するのだ、この状態でも仕事はきちんとこなしているぞ!』

「その状態で仕事をこなしている方が、変な目で社の人間が見てくるだろうが! ええい、やるぞ!」


 ともあれ。

 レンさんもフィールドに上がる。

 共に母と妻を絢爛世界に囚われてしまった身。

 ファイトの条件としては最適で、それはレンさんもキヨシさんも解っている。

 解っているからこそ、レンさんもやる気であった。


「イグニッションだ!」

『イグニッション!』


 結果――



 □□□□□



『ぐえー』


 即殺であった。

 1ターンキルであった。

 いやぁ見事な決着であった。


「……案の定こうなったか」


 そして、レンさんの懸念通り――


「……カードをガッチャンコする前に決着がついてしまったではないか!」

『す、すまん……』


 残念ながら、ガッチャンコには至らなかった。

 ガッチャンコのために手を抜くというのも、おかしな話なので仕方がない。


「えーと、どうします?」

「……多分、雰囲気的には行けると思う」


 明らかに、成功しそうな雰囲気が先程のファイトからは感じられた。

 ただ、成功する前にファイトが終わってしまっただけで。


「……そうと分かれば、致し方あるまい」

『……そうだな』

「もう一度だぁ!」

『行くぞ!』


 そして――


『ぐえー』


 またもや瞬殺であった。

 最終的にファイトは――


「つまりなー? デッキをとにかく防御に寄せるんだよ。キヨシのおっちゃんの運でも、そう簡単に負けないくらい太く重いデッキにしてこうぜ!」

『な、なるほど……』

『いいやご当主、とにかく回転力を上げて事故を減らすべきだ! ぬめぬめっとしていてぬるぬるに動くデッキにしていくんだよ!』

『ぬ、ぬめぬめ……?』


 一言で言うと、カオスであった。

 現在、フィールドにはキヨシさんの他に映像の向こう側にヒジリさんの姿が見える。

 レンさんの従姉だ。

 他にはネッカ少年も、デッキ構築のアドバイスをしていた。


「うーむ、やはりデッキを弱くするわけにはイカン。我もやる気だからぐえーしたりしないし……どうする?」

「いっそ混ぜものして、事故率上げるとか? 店長のカード借りれば生成に問題はでないだろ」

「いっそ私を混ぜるとか! いっそ私を混ぜるとか!」


 テーブルの方では、レンさんが悩んでいる。

 キヨシさんとの間に、実力差がありすぎるのだ。

 それを埋めるためには、レンさんの方もデッキを弄らなくてはいけない。

 しかし弱くすると運命力が下がってカードの生成に失敗する。

 なのでクロー少年がアイデアを出したり、エレアが横で邪魔をしたりしているわけだ。

 とりあえずエレアはあっちで大人しくしてましょうね。


 ようするに、お客さんがよってたかって、レンさんとキヨシさんのファイトに色々口出しをしているのだ。

 しかし、どうにも上手くいっていない。

 さっきから何度もファイトをしては、キヨシさんがぐえーしている。

 その度に、お客はあーでもないこーでもないとアイデアを出していた。

 このアイデアを出すのが楽しいのか、なんか俺の店の現在のメインコンテンツになりつつある。

 うーむ、一体いつになったらカードの生成に成功するんだろうな……?

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