267 ファイトエナジー爆弾を作ろう!

 さて、まず外からファイトエナジーを吹き込む方法について。

 ジョンさんが解決案を考えてくれた。


「こう、ファイトエナジーを固めた爆弾みてぇなもんをつくれねぇか?」


 とのこと。

 確かにそれなら色々な問題を解決できる。

 何より大事なのは、ファイトエナジーを詰め込んだ器を作るのは蒸気世界でなくてもいいということ。

 ようするに、ファイトエナジーの豊富な火札世界でファイトエナジーを集めてそれを器に入れ。

 それを蒸気世界、さらには絢爛世界へ運び込むのである。


 そういえばすっかり忘れてた絢爛世界への時空の歪が閉じてしまった問題は、このファイトエナジー爆弾を二つ作って一つ起爆させることにした。

 これのいいところは、多少だが蒸気世界にもファイトエナジーを送ることができる点だ。

 まぁ雀の涙くらいのものだが、以前パックを生成しようとして消費したエナジーの補填にはなるだろう。


「問題は、そもそもその爆弾をどうやって作るかってことなんですが」

「器に関しては、ジョンさんが作ってくれるらしい」


 さて、現在俺達はデュエリスト火札本店で話をしていた。

 ここにいるのは俺とエレア、それからハクさんである。

 レンさんとヤトちゃんはいない。

 後、普通に営業中なのでお客さんもいる。

 ネッカ少年とクロー少年が、激しいファイトをフィールドで繰り広げていた。


「作った器にファイトエナジーを詰めればいいそうです」

「はえー、メカニックの人ってすごいですねぇ」

「エレアも結構詳しいだろ、そういうの」

「プロと一緒にしてはいけません!」


 何故か胸を張るエレアの頭を撫でながら、けれども問題はもう一つあると俺は口にする。


「もう一つは、どうやってファイトエナジーを貯めるか、だな」

「貯めるファイトエナジーも、ただ貯めるだけじゃだめなんですよね?」


 ああ、と頷く。

 撫ですぎて拗ねたエレアがぐるぐるパンチに移行したのを止めつつ。


「絢爛世界に繋がりのある人間じゃないとダメだそうだ」

「えーと、該当するのはヤトとショルメさんと……」

「それから、レンさんと――ハクさんもだな」

「うおーーーーーーーっ!」


 ぐるぐるパンチが風を切る。

 ちなみにどうして該当するかと言えば、単純。

 ヤトちゃんとショルメさんは言うに及ばず。

 レンさんもハクさんも、肉親が絢爛世界にいるからな。

 そのくらいの繋がりでも、問題はないのだ。


「この中の誰かが、一度に大量のファイトエナジーを発生させることが条件だ」

「器は、消耗品なんでしたっけ」

「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬ!」


 その通り、爆弾だから中のエナジーを解放したら器ごと吹っ飛ぶからな。

 しかも厄介なことに、爆弾は二つ作る必要がある。


「一度に大量のファイトエナジーが発生する”舞台”が必要ってことですよね」

「そんな舞台、早々作れないぞ」

「……ちょっと前までは、あったんですけどねぇ」

「はぁ……はぁ! 疲れました! 店長、おやつ食べてきます!」


 はいはい、とエレアを見送りつつ。

 先日まで行われていた、”丁度いい舞台”について想いをはせる。

 それは、そもそもハクさんがこの店が蒸気世界に転移した当初、事件に関われなかった原因。


「U-18世界大会……後ちょっと開催が遅ければ……」

「そこでファイトエナジーを集めることも、できたんだろうけどなぁ」


 少なくとも、決勝トーナメントともなれば爆弾一つ分のファイトエナジーが溜められたはずだ。

 勝ち進めば二回以上戦う機会は発生するので、一個ずつファイトエナジー爆弾を作ればいい。

 負けられない理由にもなって、ハクさんにとってもいいバフになっただろうに。


「とすると……何かしら企画を立てるしかないだろうな」

「企画、ですか?」

「ああ、人を集める企画だ。簡単なところで言うと……ショップ対抗戦特別エキシビションとかか」


 解決策としては、新しくイベントを企画して実行するしかない。

 この間開催したショップ対抗戦の名前を借りて人を集めるとか、悪くない考えだろう。

 ちょっと利用してるような形で申し訳ないが、背に腹は代えられない。


「時間はあるし、ジョンさんに器を作ってもらう時間もある。とりあえずレンさんやキアに声をかけて何かしら考えてもらおう」

「そうですね……私も、お役に立てるかわかりませんが色々考えてみます」


 と、話がまとまったその時だった。

 エレアがバン、とバックヤードの扉を開けて。

 食べていたおやつのドーナツを飲み込んでから叫んだ。


「話は聞かせて――」


 正確には、叫ぼうとした。



「話は聞かせてもらったぞ! 私にいい案がある!」



 割り込んできた不審者に遮られた。

 つまり、ダイアだ。


「キシャア!」


 途端、エレアが叫んで完全武装モードで使用する刀みたいな武装を出現させて斬りかかる。

 何やってんだ!?

 思わず驚くが、ダイアの身体能力であればたとえ本職の軍人が不意打ちを仕掛けても回避は容易い。

 ひらりと躱して見せた。


「今日も彼女は元気だな」

「元気すぎるくらいだよ。それで、いい案って?」


 エレアの案は間違いなく変な案なので、先にダイアの案を聞くことにした。

 ダイアは賢い方ではないが、こういう時に持ってくる話は普通にいい話であることが多い。


「ハクくんが大きな舞台でファイトをする必要があるのだろう?」

「そうですね。でも丁度いい舞台が――」

「――あるさ。それもとびっきりの舞台がね」


 そう言って、ダイアはあるチラシを俺達に見せた。

 そこには――


「U-18の入賞者が、トッププロと戦う企画?」

「そうだ! 世界の若き有望ファイターが、今の時代を引っ張るファイターと激突する企画だな」「そ、そんなのがあるんですか!?」


 どうやらハクさんも知らなかったらしい。

 だとしたら一体どこからこんな企画が? と思ったら。

 まぁ色々と複雑な事情があるらしい。


「そもそもこの企画は、U-18優勝者の結月・アローグッドと現アメリカチャンプのマキシ・アローグッドが公の場でファイトするための企画でね」

「あれ? 結月さんの名字って羽佐間じゃありませんでした?」

「それは母方の名字だな、アローグッドは父親の名字さ」


 どうやら、一つの大きな物語が動いているらしい。

 U-18で優勝した結月さんという人は、実は現アメリカチャンプのマキシさんという人と兄弟だそうで。

 そこには色々な確執があり、結果としてその因縁に決着をつける場としてこの企画が設けられたとかなんとか。

 まぁ直接俺達に関わるわけではないので、その辺りは一旦置いておくとして。


「企画に呼ばれるのは、U-18の優勝者、準優勝者、そして三位に入賞した人間――つまりハクくんだ」

「お、おお……それなら大舞台でファイトエナジーを集められそうですね!」


 ――さて、ここまで話を聞いて俺はピンと来た。

 うまい話には裏がある。

 というか、優勝者がアメリカのトップファイターと戦うとなったら。

 他のファイターは誰が戦うんだ? と。


 そして案の定、準優勝者はアリスさんと戦うことになっていた。

 これまた世界最強クラスのファイターだ。

 そして三位のハクさんが戦うのは――



「そして、ハクくん。君と戦うのは――この、私だ!」



 ――日本チャンプ、逢田トウマ。

 マキシさんとは、過去に一度あったことがあるけどその強さは本物だ。

 でも、この三人の中で誰が一番強いかって言ったら――俺はダイアだと思う。

 思わずハクさんも、相手がトンデモなさすぎて固まっていた。


「わ、私がチャンピオンと……本気のチャンピオンと、世界中が注目する場で!?」


 普段の痴女なハクさんからは考えられないくらい、まともな困惑が響き渡り。


「ふしゃー! 私が今ここでこの怨敵こいがたきを仕留めれば、対戦相手も変わるかもしれません!」


 エレアがダイアにファイトを申し込んでいた。

 なお結果はエレアのワンキル負けである。

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