266 アリスの☆ 世界はこう救う☆
そして俺達は、再び蒸気世界と和国世界、それから元は絢爛世界への入口があった場所へやってきていた。
「結局、レンさんから世界を救う方法は聞けたか?」
「いえ……まったく話してくれませんでした」
今日はヤトちゃんがお休みで、ハクさんとレンさんがここに来ている。
後俺な。
なんか、事態が動きそうならとりあえず一緒にいてくれ、とはレンさんの談。
ヤトちゃんはいなくてもいいのに、俺は必須なのかよ。
なんかこう、何でもなんとかしてくれそうって思われてる?
「それで、どうするんだレンさん」
「…………ぐむむ」
そしてレンさんは、何やら難しい顔をしている。
あの驚きようからしてよっぽど変なことをやらされるのだろう、ということは理解できる。
今もこうしてためらっているのだから相当だ。
とはいえ、思うんだがそれなら俺がアプローチをかけた方がいいのではないだろうか。
よっぽど変な方法なら、こっちでなんとかする方法考えるけど。
「ええい……行くぞ!」
とはいえ、レンさんは手を高く掲げた。
やる気のようだ、それなら止める必要はないだろう。
「メイクアーップ☆ マジェスティ☆」
なんて?
一瞬意識に空白が生まれたと思ったら、その瞬間にはもうレンさんは”変身”を始めていた。
いい感じの変身バンクとともに、衣装が変化していく。
やがて現れたのは、なんかへそとか出てる白いドレスだった。
魔法少女の一種ではあるだろうが、正統派魔法少女感の強いマジカルファイターと比べると少しお姫様感が強い。
「世界を守るためやってきた☆ 幾千億の願いを守る☆ マジェスティな正義の味方☆ ロータス☆ステラ! ここに推参☆」
普段のレンさんと比べると幾分か高い声色。
もともと子供なのだから声色は高いと言えば高いのだけど。
なんかこう、キンキンとしていた。
俺とハクさんが視線を合わせる中、ポーズを終えて棒立ちになったレンさんは――
「いっそ……殺せ!」
崩れ落ちた。
「れ、レンさん落ち着いてください!」
「そうだぞ、似合ってる、似合ってるから」
「追撃するのをやめろ天の民ィ!」
ごめん!
「……あの女が言ったのだ、この衣装は世界の状況を観測するための衣装だと」
「あの女て」
アリスさんが何とかの民ではなくなってしまった。
ようするに、この衣装を着ると転生モノによくある「鑑定スキル」が使えるようになるらしい。
ただし、世界限定で。
なんというか、デバッグアイテムみたいだな?
「だが、しかし……それにしたってこの衣装は……この衣装は……!」
「レンさん……これも世界を救うためです。少し口上が恥ずかしくたって、それを興奮に変えればなんてことは――」
「いや、そっちは別にいいのだ。むしろこれくらい普通だろう」
あ、そうなんだ……あとハクさんはなんて?
「我が耐えられぬのは――衣装だ!」
「な、なぜですか!? これくらいの露出度ならそこまで変では――」
「露出度も理由ではない! そもそもどうしても必要なら月兎仮面の衣装だって我は着るぞ!」
え!?
これにはハクさんも俺もびっくり。
思わず声を上げて、眼を見合わせる。
「これも世界を守り救うためだ。母様を取り戻すためだ! そのためなら我はどんな恥ずかしいことだってする。もし仮に、仲間を救うためこの頭を地につけろというなら、我は屈辱に耐えそれをするだろう!」
「お、おお……」
「さすが闇札機関盟主です、レンさん……!」
俺達が感心する中、レンさんは地面のパイプを叩いた。
「だが、この衣装は我の趣味ではない!」
ええー。
いやいいじゃん、そこまで言うなら衣装はいいじゃん!
「……解ります! 衣装ってすっごく大事ですよね!」
「解っちゃったよ……いやハクさんなら当然か、衣装の露出度で強さ変わるもんね」
「そうなのだ……衣装というのは非常に大事なのだ! 我はこういう白いドレスは好かん! 濃いめの色でフリフリゴシックロリータこそが正義なのだー!」
とはいえ、露出度で強さが変わるハクさんならともかく。
レンさんがそこまで衣装で影響出るかなぁ。
そもそもこの衣装って観測用だからファイトには使わないよな……?
「天の民とて考えてみろ! もし仮に最終決戦用のスーツがぴっちりした全身黒タイツだったらどうする!?」
「う、うーん、それは確かにちょっと困るけど……俺はそういう最終決戦用の特別な衣装とか着たことないからな……」
「それは……うむ、なんかすまん」
「いやいいって……」
最近は、立て続けに敵のボスと戦えてるし。
俺もちょっとくらい、物語に関われるようになってきてるし。
まぁ、今回だけって可能性も十分あるけどな。
それでも貴重な経験させてもらってると思うよ、うん。
「とにかく、だよ。ここは一つ、ささっと観測を終えて着替えよう。パパっとやればすぐじゃないかな?」
「……まぁ、それもそうだな。ぐずぐず言っていても仕方がない。よし、やるぞ!」
そう言ってレンさんは、自身の瞳にピースサイン。
なんかこう、アイドルがやりそうなポーズをして――
「マジェスティ☆スキャーン!」
そして眼からスキャンする感じのビームが放たれた。
絢爛世界への時空の歪みがあっただろう場所に、だ。
しかしなんかこう、カードゲーム世界の装備としては結構浮いてるよな、これ。
とか失礼なことを考えていると――
「うむ……なるほど?」
「なにか解りましたか?」
「とりあえず……まずはこの衣装ともおさらばだ!」
レンさんが、スキャンを終えて呼吸を整える。
それからそそくさと衣装を元のゴスロリに戻した。
「まず、解ったこととして。絢爛世界の崩壊はファイトエナジーの枯渇が原因だ」
「終焉カードが核を破壊すると、ファイトエナジーが枯渇するってことか?」
「そのようだな。そして、核を再生させファイトエナジーを再び吹き込むことで世界は再生する……らしい」
「そんなことまで解るなんて、すごいですね」
さすがはユースティア家の最新装備。
多分、昔から少しずつアップデートしながら使ってきたんだろうな。
「ただそうなると、また別の問題が発生する。世界が再生するほどのファイトエナジー、一体どこから持ち込めばよいのだ?」
「絢爛世界と唯一繋がっている蒸気世界も、ファイトエナジーが枯渇しかけてるからな」
なんというか、蒸気世界の最終的に陥る状況と絢爛世界の今の状況はさほど違いがないようだ。
蒸気世界も、クルタナが停止したことで今ある蒸気とファイトエナジーが枯渇すれば世界が崩壊する。
そしてだからこそ、ファイトエナジーを絢爛世界に吹き込むのは困難なわけだ。
「核の再生に関しても問題だな。新しい核をどうにかして製造するか、壊れた核を修復する必要がある」
「うーん、絢爛世界にファイトエナジーを吹き込むのと、新しい核。やるべきことが二つも増えてしまったんですね」
うむ、とレンさんも難しそうに頷く。
とはいえ、だ。
「先に取り掛かるべきは核の方だと思う。核を絢爛世界に復活させることができれば、その核が新しいファイトエナジーを生み出すはずだ」
「とはいえそれだと、絢爛世界自体の復活に相当時間がかかるぞ」
「自然発生だけってなると、そうだね。どうしても時間がかかる」
だから、起爆剤みたいなものは必要だと思うんだ。
何かしらの方法で一気にファイトエナジーを吹き込むことで、絢爛世界全体を活性化させる。
それなら、そこまで大量のファイトエナジーは必要ない。
「まぁ、再生の方法自体はある程度はっきりしたね。核を復活させ、ファイトエナジーを絢爛世界で再び生み出せるようにする。その後生み出されたファイトエナジーを起爆させる、より大きなファイトエナジーを一度でも吹き込めばいい」
「それが一番、現実的かもしれんな」
成果はあった。
後はこれを持ち帰り、どうにかして方法を考えればいいというわけだ。
「それにしても……そんなに衣装が嫌なら、俺が代わりの方法を考えたのに」
「衣装は嫌だが、天の民に任せる方がもっと嫌だ! 何をしでかすか解ったものではない!」
ええ、そんなことないと思うけどなぁ。
と思いつつ、俺はレンさんにハリセンでスパーンとされるのだった。
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