262 劇場版カードで世界が(略)繚乱和国、筆滅の文豪決戦! ④

 そして、俺達のファイトもいよいよもって激化していく。


「現れなさい、自分自身! <犯罪帝国の七星 ダザイ>!」

「終焉カードに乗っ取られただけの人間も、七星のモンスターになるんだな……!」

「くくく、ここはそういう世界だからね」


 火種の時代を抜けていない世界。

 人がモンスターとしてカードになる世界。

 当たり前といえば当たり前の話なのだが、なんだか意味深だ。


「店長くん、君は夜の帳が降りた後。蝋燭の灯だけを頼りに筆を走らせたことはあるかい?」

「それは……ないが」

「小さな明かりだけを頼りに、デッキを調整したことはあるかい?」

「それは……あるが」


 具体的に言うと、エレアが隣にいたりしたな。

 しょっちゅうある、と言っても過言ではない。


「静かな時間、孤独に満ちた暗闇。明かりが原稿用紙を照らして、そこに私の文字が奔る」


 両腕を広げて、ダザイは語る。


「美しい世界だろう? 誰にも邪魔されず、自分だけの世界を作るのさ」

「それは……」


 否定は、できない。

 確かに一人の世界に没頭し、デッキを調整するのは楽しい。

 デッキが完成した先に、どんな絵図を描くのか。

 その時間が、無性に楽しい時はある。


「一つの作品を完成させるということは、その作品の未来を思い描くということ。この作品はどこへ行くのだろう。私は何を描けるのだろう。そう思いながら、文字が紙に宿っていく」

「同じことが、デッキの調整にも言えるってことか」

「そう、その通り。そして君なら解るだろう。物語には終りがある。デッキにもまた、完成という結末がある」


 朗々と語る。

 ダザイは楽しげだ。

 なんとなくだが、思う。

 普段の彼は、ここまで楽しそうに話をしないのではないか?

 もっと陰気で、人を寄せ付けないのが彼という男ではないだろうか。

 立ち振舞だけではない、彼の言葉が――そして何より、彼のデッキが。

 彼が孤独を愛していると物語っている。


「すべてが終わりを迎えた時。筆が最後の調べを描いた時。末尾に完と添えた時。ふと……思うのだよ」

「何をだ?」

「ああ、この時間こそが世界で最も美しいのだ、と」


 夜の帳、一人デッキを弄り、それを完成させた時。

 これ以上のデッキはないと、確信した時。

 ああそれは確かに、美しいかもしれないな。


「そして私は、ふっとろうそくの火を消すわけだ。そうした時、世界が真っ暗になる」


 筆先を火に見たてて、ダザイはそれをかき消した。


「この瞬間こそが、世界の終わりに相応しい、と」


 すなわち。


「美しい瞬間に、自分でピリオドを打ち、そして世界を終わらせたいのか」

「その通り! ようやく君も、私の筆滅思想を理解してくれたようだ」


 なんてはた迷惑なやつだ。

 悪役の思想としては、まぁそこまで珍しいものではないけれど。

 それはそれとして、ここで止めないといけない。


「だったら、その方法には一つ間違いがあるな」

「間違い? なんだね、言ってみたまえ」

「――お前、本当にこの方法でいいのか?」


 その言葉に、ピクリとダザイが反応した。

 ……やっぱりか。


「君に何が解る」

「解るさ、大方世界を滅ぼしたかったけど、それを為すための力も、行動を起こす勇気もなかったんだろう。心の中だけにとどめておいた思想だったはずだ、その筆滅なんたらとやらは」

「そこまで言ったら全部言え!」


 わざと言ってないんだよ、ダザイの動揺を引き出すためだからな。


「……そういう思想の人間は、決して少なくはない。この世界には火札があって、下手なことをすると容易に世界が滅びてしまう。それくらい、人々には力がある」

「…………」

「だけど、行動に起こす者はそういない」


 不思議なことに、この世界には世界を滅ぼせるカードも、手段も、ありふれている。

 だけど、多くの人間はそうしない。

 それはなぜか。


からだよ。お前が一番自覚してることだろ?」

「……だまれ」

「外からやってきたポッと出のカードに洗脳されて、脈絡なく世界を滅ぼしておしまい。そんな終わりが、本当にお前の言う美しい滅びというものなのか?」

「だまれ!」


 確かに、夜の帳の中、一人孤独な世界で完成させたデッキは美しい。

 だがそこに、存在すら知らなかったカードが突如として入ってきてみろ。

 それを完成とさせられてみろ。

 そんなデッキ、本当に美しいと言えるのか?


「だまれだまれだまれ! そんなコト百も承知だ! だがここで私が動かなければ、私は一生後悔する! 手段を得たのに動かなかったほうが! 美しくない手段で滅ぼすことよりもっと醜いだろう!」

「……」

「だったら、そもそもどうしろというのだ! 私はこの手段を押し付けられた。このカードを、この筆を! それを拒否して真っ当な道を生きることの方が美しいというのか!?」


 その考えを、理解できない訳では無い。

 人には運命というものがあって、その運命の上を歩いて生きていく。

 それがこの世界だ。

 運命を変えることも、壊すことも、逆らうこともできる。

 だけど、なかったことにはできない。

 だから俺も、大きな事件に関わることのない運命の上で生きてきた。


「だったら――」

「だったら!?」

「――その筆を、もっとよく調べてみろよ」


 だけど、今は違う。

 眼の前には、倒すべき敵がいる。

 それはヤトちゃんとの繋がりによって、俺の運命が形を変えたからだ。

 同じことが、眼の前の敵にも言えるんじゃないか?


「その筆の本当の使い方を。終焉カードの真髄をあんたは理解しているのか? それしか手段がないのなら、その手段を本気でどう活かすか考えればいいだろ!」

「……!!」

「ファイトってのは、手札にやってきたカードを組み合わせて戦うものだ。狙ったカードが必ず引けるとは限らない。組み立てた戦術が上手くハマるとは限らない。その中で、それでも最善を選ぶのがファイトだろ!」


 突如として入ったカードでデッキが完成したというのなら。

 その入ったカードの使い方をもっとよく考えればいいのだ。

 ただ受け入れるだけじゃない、そのカードには思いも寄らない使い道があるんじゃないのかと。

 それを見つけるのが、カードの醍醐味ってものじゃないか。


「…………くく、ははは! ははははは! そうだな、確かにそうだ。ああそうだ私が間違っていたよ! そうだよ私好みに変えればいいじゃないか! こんな、タダの終焉カードじゃない! 私好みのカードに!」

「……なら!」

「ああ、見ているがいい異世界の店長くん! 私は<終焉覚醒>を発動!」


 フィールドの<ダザイ>が真なる姿へと変化する。

 しかし、それは単なる覚醒ではない。



「現われろ! <犯罪帝国の七星 ダザイ-七星失格->!」



 <終焉覚醒>は『七星』カード全てを覚醒させるカードだ。

 しかし、そこから飛び出したのは七星失格を冠するカード。

 中々皮肉が利いてるじゃないか。


「<七星失格>は戦闘時に手札の数だけ攻撃力を上げる! 更にサモンされた時、フィールドのカードを全て破壊する! 破壊した自分のカード一枚につきデッキからカードを一枚ドローできる!」

「随分と攻撃的だな! 他の『七星』とは大違いだ!」

「ふふふ、いいだろう。まさに失格って感じだ。さて、それに対して君はどうする!? 店長くん!」

「俺は――<古式転換>を発動! こいつで呼び出すのは――<極大古式聖天使 エクス・メタトロン>!」


 <メタトロン>はカードのエフェクトで破壊されない。 

 他のカードが破壊されても、こいつだけが残る。


「ふふふ、いいねえ。では私はカードをドローして……バトルだ!」

「来い!」


 そして、これが最後の攻防になる。


「俺はカウンターエフェクト<古式相打つエンシェント・ファイト>を発動! セメタリーから<ハイエクシード・ラファエル>を蘇生!」

「私のデッキからもモンスターを呼べるようだが……」

「問題ないさ! 更に<ハイエクシード・ラファエル>のエフェクトを発動するぞ!」


 <メタトロン>には、戦闘が発生した場合攻撃対象を自分に変更する効果がある。

 それを使えば、何を呼び出しても戦闘を行うのは<七星失格>と<メタトロン>だ。

 そして<ラファエル>はモンスターの蘇生に特化したモンスター。

 セメタリーから、更にモンスターを並べる。


「来い! <大古式聖天使 コンダクター・ヤト>!」

「むう!」

「<エクス・メタトロン>はフィールドの<古式聖天使>モンスターの数だけ攻撃力を上げる! 迎え撃て!」

「何!?」


 これで、攻撃力は<七星失格>を上回った。

 このファイト、俺の勝利だ。


「とどめを刺せ! <メタトロン>!」

「く、見事――――!」


 かくしてダザイは吹っ飛び、ファイトが終了した。

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