261 劇場版カードで世界が(略)繚乱和国、筆滅の文豪決戦! ③
ファイトは続く。
俺の方も、早速だが<ゴッド・デクラレイション>がデッキに戻されて防がれていた。
フィールドには<ロード・ミカエル>。
これもなんかいい感じに除去されそうだなぁ。
モリアーティと同じ流れだ。
「彼から聞いているよ、君の最大の障壁はその<ゴッド・デクラレイション>だと。彼はそれを破壊した結果、セメタリーから使われて負けたそうじゃないか」
「それでデッキに戻したと、確かに対策はしてきているようだな。それで、ここからは?」
「――――はて」
そこで、ダザイは筆の毛先じゃない方でこめかみを叩き始めた。
何に悩んでいるんだろう。
「……此処から先は、どうすればいいのだったかな」
「ええ……」
「たーしか、ここに対策をしまったはずなんだがなぁ」
といって、頭を叩く。
うーん、とひとしきり悩んで――
「どーにも、物覚えが悪くってね。筆を取って、書き記さないと忘れてしまうんだ。過去の女性遍歴とか」
「生々しい話はやめるんだ!」
「だからしょうがない、ここからは――」
その瞬間。
「僕らしいファイトで君と戦うことにしよう」
気配が吹き上がる。
なるほど、これがダザイの個性ってわけだ。
いい加減で、適当。
対策を考えても最初のウチで飽きて忘れてしまう。
だが、その方が臨機応変に対応できる。
<ゴッド・デクラレイション>を対処できるのだ、ファイトに強いのは間違いない。
ここからは、中々難しいファイトになりそうだな。
――一方その頃。
ヤトちゃんはナツメさんと組んで、オーガイと戦っている。
「カーッケッケッケッケ! 白米を、食えええええ!」
「オーガイだからって、そういう安易なキャラ付けを!」
「オーガイ殿は、普段こんな性格ではないのだ!」
なにやら、極端なキャラ付けをされたオーガイと戦っているらしい。
アクタガワよりは、まだ本人に関係ありそうだけど。
あまりに安易な敵としてのキャラ付けだぞ、ダザイ!
考えるの面倒だった? ああうん、そう……
「しかし――ヤト殿とこうして肩を並べるのは初めてになるな」
「そういえば、アンタは私……っていうか、怪盗ヤトがいなくなってから蒸気騎士団になったんだっけ」
「うむ」
ふと、ヤトちゃんとナツメさんがそんな会話をする。
言われてみれば確かにって感じだ。
「……某は、怪盗ヤトのことを詳しくは知らぬ」
「あら、奇遇ね。私もよ」
「そうだな。故に某はショルメ殿に協力するため、騎士団に加わったのだ」
ショルメさんにとって、大事なものは怪盗ヤトなんだろう。
だが、ナツメさんにとっては違う、という話だ。
「ショルメ殿は、今はいない親友が守った世界の人々を守るため、その世界を捨てようとしていた。その覚悟の大きさは……貴方も解ってくれるだろう?」
「ええ、ショルメは絢爛世界の因子を継いでいるけれど、ショルメにとっての世界は蒸気世界だけでしょうしね」
ナツメさんの言葉に交じる感情に、ヤトちゃんは少しだけ息を呑む。
敵と戦うために肩を並べている状況だというのに、ナツメさんの視線はどんどん鋭くなっていった。
「――そんなショルメ殿に、希望を見せる行為。その意味を貴方は、当然理解しているのだろう?」
「……」
「その覚悟を――今ここで、某に見せてほしいのだ」
羨ましい。
そんな感情が、言葉に透けている。
じっとりとした空気が二人の間に広がって。
ヤトちゃんは、答えることなくボードを構えた。
「このスチームボードは、ショルメから受け取ったものよ」
「……そうだな」
「そのボードを使ってのファイトを、アンタに見せてあげる」
「であれば、だ」
ナツメさんは、自身が身につけているスチームボードを、一旦外す。
それから、腰につけている刀を引き抜いた。
刀には、デッキを収める場所がある。
アレがこの世界におけるイグニスボードか。
「ここは某の故郷。その作法に則ったファイトをお見せしよう!」
「……いいわね、それ」
そして二人は、同時に笑みを浮かべた。
それはどこか挑発的であり、どこか好戦的であり。
そして何より、お互いを認めたがゆえの笑みだ。
「カーッケッケッケッケ! ケケケケケーッ!」
「……こいつが場違いなことを除けば、いいロケーションよ」
「オーガイ殿……その狂気、今すぐ解き放って見せる!」
かくして三人は――
「イグニッション!」
ファイトを開始する。
……結構時間かかったな、ファイト始まるまで。
ちなみに、ハクさんとレンさんがWぐえーを決めたのはこの少し後である。
□□□□□
「――ふ、いい札を使うな。ヤト殿!」
「そっちこそ。次はこれで行くわよ!」
「ああ、解っている!」
さて、肝心のファイトはといえば――順調極まりないものだった。
ヤトちゃんとナツメさんのファイトはまさに阿吽の呼吸。
これがはじめてのファイトとは思えない練度である。
「お互いの考えがわかる……ヤト殿の狙いが読みやすい!」
「気質が似てるんでしょうね。確かに貴方も、ちょっと傾いたところのある真面目なヤツって感じだわ」
二人の言う通り、お互いの性格がにているためだ。
どちらも真面目な性格だが、少し特殊なこだわりもある。
ヤトちゃんのパンク趣味は言うに及ばず。
蒸気世界でサムライをみたことはナツメさん以外にはない。
行き来ができることと、行き来することはまた別の意味なのだ。
その点、ナツメさんは西洋かぶれみたいなところがあるのだろう。
「アンタなら解るでしょうけど、私は私が蒸気世界を救いたいと思ったから救うの。それは、別にショルメのためじゃない……私のためよ!」
「そうか……そうなのだろうな」
「アンタも同じ、でしょう」
小気味よいテンポでオーガイを追い詰めつつ、ヤトちゃんとナツメさんは言葉を交わす。
多分二人は、最初からこうなることが解っていたのだ。
だからこそ敵を前にしてあんな挑発めいたやり取りができた。
ある意味、プロレスだな。
「某は――面白きことが好きだ。剣客文豪故な、面白きことを見ていると筆が走る」
「それは……蒸気世界のこと? 和国世界のこと?」
「どちらもだ。某はどちらも好んでいる」
「――どうして?」
端的かつ、核心をついたヤトちゃんの言葉。
少しだけこまった様子でナツメさんは考え込む。
「どうして、か……難しい問いだな」
「少し抽象的過ぎたかしら」
「いや……答えは決まっている。だが、ただ一言の”どうして”に返すべき言葉が思いつかない」
そんなに悩む必要もないのに、というヤトちゃん。
悩むさ、剣客文豪の性なのだ、というナツメさん。
二人は少しだけ考えて――そして答えを出した。
「――かっこいいから、だな」
ええ、とヤトちゃんも頷く。
「蒸気世界って、すっごくクールなのよね。ええ、かっこいいという意味よ。スチームパンクもまたパンク。私はあの世界に訪れて、すっごく好きになっちゃった」
「某もだ。ふふ、貴方とはいい酒が飲めそうだ」
「……ごめん、まだ未成年だから」
そうか……と少ししょんぼりするナツメさん。
それはそれとして、二人はきっちりオーガイを追い詰めていく。
「カケケーッ! なぜだ! 白米はうまいのに! 白米だけにーーーーっ!」
「オーガイ殿……お労しや……」
あちらは、もう大丈夫だろう。
それはそれとして――
「……なぜだ、我々とヤトの何が違う? なぜあっちはああも真面目なのだ……」
「うう……私、あんまりヤトと組んでファイトしませんが、あそこまでいいコンビネーションを披露できているでしょうか……」
真面目な二人のファイトを見て、レンさんとハクさんは頭を抱えていた。
頭を抱える内容でも差が出てるよレンさん……!
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