260 劇場版カードで世界が(略)繚乱和国、筆滅の文豪決戦! ②

 俺とダザイが向かい合う。

 紙の上の決闘。

 周囲は花吹雪が如く紙が舞い散っている。

 いいロケーションだな。


「ダザイ、お前は何故世界を滅ぼそうとする」

「――簡単なこと。そこに筆があるからだ」


 ダザイはくつくつと、しかしどこか卑屈に笑う。

 筆があるから? 札があるから、ならともかく。

 その考えは底しれない。


「筆は剣よりも強い。時に人の心を震わせ、時に人の心を殺す」

「それがこの世界の当たり前の考え、って感じだな」

「その通り! 故に筆は、世界すらも滅ぼせてしまうのだ! 札で世界が滅ぼせるように! 私は筆でも世界が滅ぼせると証明したい!」


 高らかに、奴の手には筆が握られている。

 その筆がデッキにふれると、ひとりでにカードが浮かび上がり奴の手元に収まるのだ。


「これぞすなわち――筆滅思想! 我が生涯の悟りなり!」

「なんてはた迷惑な悟りなんだ! 悪いが、そこは否定させてもらうぞ!」

「なんとでも言うがいい。ここで貴様に勝てば我々の勝利だ!」


 かくしてファイトが始まる。

 その横で、他の二組もファイトを進めているのだ。


 レンさんとハクさんのファイトが視界に映る。


「――こうして、肩を並べるのはいつ以来になるかな」

「それこそ、ハウンドの時以来ではないでしょうか。アレ以来、私は露出に目覚め強くなりましたから」

「それもこれも、天の民がいろいろなことをおかしくしてしまったからぁ!」


 なんか飛び火した!

 ともあれ、ハクさんとレンさん、闇札機関の二人が肩を並べている。

 本人たちの言う通り、タッグファイトで二人が一緒に戦うのはかなり久々なんだろう。

 ハクさんが月兎仮面になってしまった影響は大きい。

 ん? じゃあ俺のせいか……


「サミダレヲ――アツメテハヤシ――アクタガワ――」

「おいこいつ、アクタガワって言ってるけどアクタガワではないぞ!」

「せ、洗脳のせいですよ……!」


 対するはアクタガワ、文豪剣客の一人だが今はなんかおかしくなっている。

 遠くでナツメさんが痛ましい顔でアクタガワを見ているから、流石にこれが普段の感じではないのだろう。

 ハクさんとレンさんも、すぐに解放しなければと視線を合わて頷き合う。


「とはいえ、方向性は見えた。我と白月ハクの華麗なる連携で、一番先にこの男を倒す!」

「そうですね……特に今の私は、見違えるほど強くなりました。レンさんだって、表舞台でも実力を発揮できるようになっています!」

「うむ……うむ! 我々の負ける要因などどこにもないなあ!」


 ……なんか、ちょっと雲行きが怪しいな?


「行くぞ白月!」

「はい、レンさん!」


 かくして、二人はアクタガワにファイトを挑み――



 □□□□□



「ぐえー」

「ぐえー」


 二人まとめてぐえーした。


「なんで、こんな」

「バカな、ありえない……」

「言ってる場合じゃないわよふたりとも! このままだと負けちゃうわよ!」

「ハッ!」


 とはいえ、ファイトに決着はついていない。

 まだライフが三ケタになった程度。

 せいぜいが半ぐえー程度のものなのだ。

 むしろここからが本番、なのであるが――


「カウンターエフェクト! <アタック・ストッピング>!」

「カウンターエフェクト! <ラブアンドピースの使者>!」


 二人が同時にカウンターエフェクト――攻撃を無効化して戦闘を終わらせるタイプ――を発動させてしまう。

 これではカードが一枚損だ。

 噛み合ってない!


「むうう、何故だ! 何故噛み合わない! 以前はあんなにも噛み合っていたのに!」

「ありえません、私の露出はこんなにすくなくなって! 距離はグッと縮んでいるはずなのに!」

「やめろぉ!」


 縮んだのは服の厚さ分の距離だけじゃないか。

 全然縮んでないぞ、それ。


「カワイソウ、チリアクタに消えるがいい」

「くう、無駄に巧いこといいおって!」


 それをアクタガワが煽ってくる。

 巧いかなぁ? ダジャレみたいなもんだと思うけどなぁ。


「なあヤト、なぜあの二人はあそこまで噛み合っていないのだ? 上司と部下の関係なのだろう?」

「……答えは解りきってるけど、なんというかこう……口にするのに抵抗があるわね」


 横でファイトしていたナツメさんとヤトちゃんが、話を脱線させてそんなことを言い合っている。

 俺も答えはわかってるけど、俺が口にしていいものかな。

 いつものことだが、悩んでる人に答えを教えるかどうかは塩梅が難しい。

 背中を押して立ち直るのを待つほうがいい場合もあれば、直接答えを教えたほうがいい場合もある。

 今回は俺がファイトしているわけではないから、背中を押すくらいがいいんだろうけど。


「ハクさん、レンさん! 二人は決して相性が悪いわけじゃない! ただズレてるだけなんだ!」

「ズレてる……え!? 私どこかズレてます!?」

「違うわよ、そうじゃない!」


 ズレたらまずいものがズレてしまいそうな衣装のハクさんが自分の体を見回す。

 けど大丈夫だよ、今まで君のそれがズレたことはないから。

 だって健全カードゲームの世界だからね!

 痴女がいる時点で健全じゃなかった!


「……ズレている? まさか我のセンスがズレているといいたいのか!?」

「レンさんまで!? ええい、もう答え言っちゃうからな!」

「えっ!?」


 ヤトちゃんが、何故か顔を真赤にしてこっちを見ている。

 何を考えているんだろう、ヤトちゃんは。


「二人は成長したんだよ! ズレてるのは認識だ、お互いが前に進んだことで昔の相手に合わせようとするとズレが生じるんだ!」

「ハッ、そ、そうでしたね! ファイトする前に自分で言っていたのに」

「なぜ忘れていたのだ、我々は!」


 それはまぁ、おかしなことではないだろう。

 お互いにとって、お互いはまだまだ成長の余地があった頃の印象が強いのだ。

 露出に目覚めきれず、中途半端だったハクさん。

 表舞台で全力を出せず、ぐえーしていたレンさん。

 その頃の印象が強かったから。

 というか、その頃の方が付き合いが長いのだから。

 認識が更新できていないのは当然である。


「そうでした……肝心なことを忘れていました。私もレンさんも、一皮むけて脱皮したのでした……!」

「その言い方はやめろ……!」

「カワリユク……アアカコノクロウ……タダムカシ……」

「なんかいいことを言っている感じになっておるぞ、アヤツ!」


 アクタガワの文字列を含んだ発言なら何でもいいのか。

 キャラはぶれまくってるのに、方向性ははっきりしてるなアイツ……


「ともあれ、言っていることはもっともです! 過去の苦労を水に流し、裸の付き合いでやり直しましょう!」

「だーかーらー!」


 レンさんは地団駄を踏みながら、ハクさんの言動に物言いを付けている。

 もう、二人はかつての関係には戻れない。

 しかし今の関係も、お互いに気の置けない仲というやつだ。

 決して悪いことではないだろう。


 俺はそれを見て頷いて、自分のファイトへと戻っていく。


 一方その頃、ヤトちゃんはなぜか顔を真赤にして、手でそれを覆っていた。

 一体何があったんだろう。


「……どうして私は……違うのよ、私は姉さんみたいな露出狂じゃない……」

「ふうむ、もしやこういうことか? ハク殿とレン殿は変わってしまった。それは二人が”変態”してしまったのだと。ヤト殿はそう考えたのだな」

「やめて……私の恥部をさらすのはやめて……ああいえ違うの……そういう意味じゃ。姉さんはこっち見ないで……」

「むう……! それはすまなんだ! こうなっては腹を切ってわびを……」


 ええい、ファイト中だぞふたりとも!

 どうやらヤトちゃんは、二人の関係性の変化をちょっとズレたワードで表現しようとしていたようだ。

 でも安心してほしい、ヤトちゃんの魂はハクさんと繋がっているから。

 そういうことだってあるさ!

 と言ったら、流石に後で怒られそうなので黙っておくデリカシーが、俺にもあるのだった。

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