259 劇場版カードで世界が(略)繚乱和国、筆滅の文豪決戦! ①

 和国世界。

 大正浪漫あふれる華やかなりし帝都にて、剣客文豪と呼ばれた者達がいた。

 筆を剣の如く握りては、書という書を切り捨て御免。

 まさに、彼らは和国世界の文化の最先端。

 当然ながら火札――イグニッションファイトにおいても無類の強さを誇る。


 その中に、一際異彩を放つ剣客文豪がいた。

 名をダザイ。

 筆を執っては「死にたい」と書き記すような狂人でありながら、彼の記した書物は非常に素晴らしい出来であり。

 また、ファイトの腕も和国世界随一。

 そんな剣客文豪に終焉カードが取り憑いたとあっては、和国世界は一気に崩壊へ向かっていくのもやむなしというもの。


「恐ろしいのは、あの男が世界を滅ぼしかけたことは、これが初めてではないということだ」

「なぜ野放しになっておるのだ、そんなやつ……!」

「捨てるには惜しい文才をしているのだ。故に普段は獄中で書を書かされている。が、時折脱獄して問題を起こす、今回のようにな」


 聞いているだけで厄介な人物だ。

 というか獄中で文を書くとかなんかダザイじゃなくてレクター博士かなにかじゃない?

 ともあれ、今は眼の前のことだ。


「なんか……和国世界も縦に広いわね……」

「巨大な木に建物を建てているからなあ」


 和国世界は、一本の巨大な木の上や中に建物が建っている構造をしている。

 ここをアルケ・ミストなしで移動するというのは、俺以外の面々には中々酷だろう。

 まだ幼いのだから。

 ハクさんならいけるか?


「まぁ、見ていてくれ。和国世界での移動は――折り紙を使う」

「……折り紙?」


 そう言って、懐からナツメさんが取り出したのは一枚の紙。

 本人が言うには、折り紙。

 それをナツメさんが手際よく折ると――紙飛行機が出来上がった。


「これを……こうだ!」


 そう言って、ナツメさんが紙飛行機を投げると、それが一瞬にして巨大化する。

 ナツメさんは、そのまま紙飛行機にまたがって空へと飛び上がった。


「和国大樹――和国の土台であるあの大樹から削って作った折り紙だ。火札闘魂ファイトエナジーに反応して、折った人間の意志通りに動くぞ」

「これに乗れということか……危なくないか!?」

「落ちても大丈夫なように鍛えるのだ、故に文豪は剣客文豪になるのだぞ!」


 レンさんの当惑はもっともだが、郷に入っては郷に従えともいう。

 空から、人数分の紙飛行機が落ちてくる。

 これを投げて、俺達も紙飛行機で移動しろということか。


「むう、本当にやるのか?」

「まぁ、やってみるしかないでしょ……こう!?」


 最初に紙飛行機を投げたのはヤトちゃん。

 巨大化した紙飛行機に、そのまま勢いよく飛び乗る。


「んじゃ、行くか」

「はい」


 俺とハクさんも、紙飛行機に乗り込み。

 残すところはレンさんだけになった。


「むううう」

「……高いところが怖いのか?」

「違う! ええい、やってやろうではないか!」


 覚悟を決めたレンさんが最後に紙飛行機を投げ、それに飛び乗ろうとして――



 ――勢いよく投げすぎた結果、紙飛行機に追いつけず飛び上がったレンさんは地面に激突した。



「ぐえー!」

「レンさーん!」


 その後、レンさんはハクさんが抱えることになった。

 公正なるじゃんけんの結果である。



 □□□□□



 さて、俺達は飛行機で飛び上がったところですぐに異変を察知することができた。

 和国大樹と呼ばれる大樹の一番上に、暗雲が立ち込めているのだ。


「和国世界の核は、和国大樹の天辺だ。すでにダザイがそこを占拠しているのだろう。急ぐぞ!」

「わかってる!」


 そうして、急ぎ紙飛行機で天辺を目指す俺達。

 その前に、そいつは現れた。



「ようこそ、剣客文豪ナツメと異邦のお客人」



 紙飛行機ではなく、平べったい紙の上に立つ男。

 今にも死にそうな和服姿のそいつは、一目でダザイだと判別できた。

 あまりにもダザイって感じの辛気臭さだったからだ。


「ダザイ! またこのようなことを、いい加減にしろ!」

「ククク、ひどい物言いじゃないか、剣客文豪ナツメ。同じ文筆で戦う仲だろう?」

「某は、貴様の仲間になった覚えはない!」


 ナツメさんとダザイは、過去に対立した経験があるようだ。

 会話の雰囲気からして、浅からぬ因縁を感じる。


「ふん、蒸気にかぶれてしまったようだな。他の剣客文豪四天王は私の味方をしてくれているというのに」

「何……?」

「そうだろう? オーガイ、アクタガワ」


 ダザイが呼びかけると周囲を黒い影が覆い、そこから二人の剣客文豪が現れた。 

 オーガイとアクタガワ、どちらもその名に違わぬ実力者なのだろう。

 ところでなんでオーガイだけ名前なんだ、おかしいだろ。


「ワレワレは……ダザイに従う……」

「ダザイの思想に……同意する……」

「どう考えても洗脳されてるじゃない!」


 ヤトちゃんの叫びはもっともで、オーガイとアクタガワは目が死んでいた。

 なるほど、洗脳でダザイが剣客文豪四天王のうち、ナツメさんを除く二人を仲間に引き入れたわけだ。

 ところで、何の説明もないから剣客文豪四天王のメンバーがダザイ、オーガイ、アクタガワ、ナツメさんだって判断してるけど、合ってるよね?


「ペンは剣よりも強し。んんー、なんて素敵な言葉だ。知っているかな? やがて筆は世界の誰よりも強くなり、世界を滅ぼす力を得るという意味だ」

「絶対違うだろ! 我でも知ってるぞ!」

「やがて世界を滅ぼす筆の力。私はその力にこう名をつけた」

「無視するな!」


 レンさんは無視されていた。

 ハクさんとヤトちゃんが何も言わないので、多分普段からこうなんだろうな。

 トップファイターのはずなのに、敵の親玉から舐められがちなのがレンさんだ。


「――筆滅思想」


 とか考えていたら、やつがその名を口にした途端。

 周囲の雰囲気がガラっと変わる。

 悪魔のカードが、ファイターを閉じ込める時の雰囲気だ。

 つまり、周囲が戦場になったということである。


「オーガイ、アクタガワ。うら若き乙女たちをもてなして差し上げなさい」

「ダザイの命令に……従う……」

「ダザイの命令に……従う……」


 ダザイの言葉を受けて、オーガイとアクタガワが向かってくる。

 ……ん? うら若き乙女たちってことは、こいつらの狙いは――


「こっちに来たわね!」

「二対一だ、某とヤト殿でオーガイを抑える!」

「わ、私とレンさんでアクタガワさん……ですね!」

「ええい、やってやろうではないか」


 オーガイとアクタガワは、それぞれオーガイがヤトちゃんとナツメさん、アクタガワがハクさんとレンさんにちょっかいをかけ始めた。


「――火札の世界よりやってきた店長よ、君の相手は私だ」

「俺……? 本当に俺とやるつもりなのか?」

「ククク、聞いているとも。本来なら君は大きな事件に直接関われないのだろう?」


 誰から聞いた、とは言うまい。

 モリアーティ以外に、ダザイが俺の特性を知るルートはない。


「だが、放置しておくと何をしでかすかわからない、とも」

「そこまで切り札ジョーカーなつもりはないんだけどな」

「なんとでも言え、君がここにいる以上、私に取れる選択肢は君を確実にここで屠ること」

「……モリアーティも同じことを言っていたよ!」


 まさか、モリアーティに引き続き。

 和国世界でも、俺が敵の首魁と戦うことになるとは。

 こんなこと、人生でこれまで一度としてなかった経験である。

 ぶっちゃけ、ちょっとワクワクする。

 眼の前のファイターはどんな戦術を繰り出すのか、楽しみで仕方ない俺がいる。

 とはいえ、これは和国世界の命運がかかったファイト。

 そういうことなら、俺は自分の役割をまっとうするまで。


「イグニッションだ!」

「イグニッション!」


 かくして、突如として始まった和国世界を救うためのファイトは、いきなりにして最終段階へ。

 なんというかこのスピード感は、アレだな。


 劇場版展開だ――!

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