257 クルタナにて
エレアと二人で、クルタナの調査をすることになった。
少し前まで、この世界の全ての蒸気を生み出すアルケ・ミストだったクルタナはモリアーティが破壊を狙っており、調査することができていなかった。
しかしモリアーティ討伐に伴い、調査が可能となったのだ。
というわけで早速、ジョンさんがなんとかできないか色々調べていたものの成果はなし。
次に火札世界の技術者、具体的に言うとファイト工学研究所の人がライオ王子立ち会いのもと調査したものの、これまた成果なし。
そして三番手として、蒸気世界や火札世界とは異なる技術を持つ帝国世界の住人――すなわちエレアに話が回ってきた。
ついでに俺も調査に参加して、なんかいい感じのことが起きないかなぁという狙いもある。
「お、おおお……おおおおおーーーっ!」
そして、エレアと俺はビッグベン内部、クルタナが眠る場所へとやってきたのだ。
「すごいすごいすごいですよ店長! ちょーでっかいです! 等身大の<開拓工兵>よりでかいですかね!?」
「どうだろうなぁ。まぁ実際壮観ではある」
これまで色々と人型ロボットは見てきたが、ここまでの物はなかなか無い。
全長百メートルは軽く超えるだろう、実際の数値はよくわからないが。
ともあれ、俺達はクルタナの元へとやってきていた。
「で、実際なんか解る?」
「さっぱりです!」
「そりゃそうだ」
と言ってもまぁ、優先順位がジョンさんや火札世界の研究者の次だった辺り、あんまりエレアは期待されていない。
エレア自身も、巨大ロボが見たくてここにやってきただけなので自分自身に期待していない。
とはいえ、手がかりはいくらでもあるし時間もあるけど、具体的な解決策はなにもないという現状。
なんでもいいからやってみるというのは大事だ。
「そもそもクルタナって、どういう仕様なんですか? アルケ・ミストなんだから乗れるんですよね?」
「ああ、王族が乗って式典とかをすることもできるらしい。といっても、基本は蒸気の生成がメインでそういった用途で使われたことはないらしいけど」
「はえー、なんかもったいないですねぇ」
とはいえ、流石にこれを使ってファイトとかそういうわけには行かないだろう。
エッフェル塔ロボはタダの巨大ロボだったそうだが、こっちは巨大ロボであると同時にこの世界の心臓でもある。
おいそれと外に出すわけにも行かない。
まぁ、外に出していなくとも、こうして終焉カードが突き刺さってしまっているわけだが。
「本来なら、王族しか乗れない感じのロボなんですよね?」
「鋭いな。本来ならそうらしい……が、どういうわけか王族が乗ろうとしても乗れないらしいんだ」
「まぁ、停止してるから当然じゃないですか?」
「そう考えるのが普通だけどな」
まぁ、爆発しそうなので動かすことはできないが、クルタナの中に入って調査することすらダメだったらしい。
それくらいならできそうなもんだけどなぁ。
「そうですねぇ、色々調査してみますか。店長、これ持っててください」
「ビデオカメラ?」
「はい、私が調査するので、そこを撮影してもらいたいんです」
ふむ、それなら別にエレアが直接カメラを持ってもいい気がするんだが。
不思議に思っていると、エレアはクルタナを眺めるための足場から飛び降りた。
「エレア!?」
「見ていてください、私の……転身! <帝国の尖兵 エクレルール-完全武装->……行きます!」
その瞬間、エレアの衣服が変化する。
普段のフリフリ多めの可愛い系衣装が、光を帯びて消える。
直後、その身体をピッチリとしたスーツが包んだ。
<完全武装>の名の通り、エレアが武装した時の姿だな。
その姿に変化すると、背中のスラスターで飛び始めた。
「なんか、ミームが合体したな……というかエレア、その装備って飛べたのか」
「飛べます!」
そう言って、その場で回転してみせるエレア。
器用なものだなぁ、それにしてもまさかカードゲーム世界で空飛ぶ生メカ娘をみることになるとは。
「この形態で調査しますので、店長はカメラで私を撮ってくださいねー!」
「それ、巨大ロボの周りを飛び回る自分を後で見返したいだけだろ!」
「それだけじゃないですよ、許可もらえたら動画にしてチャンネルにアップしちゃいます」
ちゃっかりしてるなぁ。
と思いつつ、俺はクルタナの周りを飛ぶエレアをカメラで追いかける。
「うーん、見た目はなんというか姫騎士って感じで、アルケ・ミストとしてはかなり異質なデザインですね」
「以前ログ少年が言ってた、流線的なフォルムって感じだな」
「人造のアルケ・ミストじゃないんですよね。この世界が生まれた時から、ずっとここにあった感じで」
「らしいな。だからこそ、人々はこういったシャープなフォルムを避けたのかもしれん」
恐れ多いから、みたいな理由で。
後はまぁ、通常のゴツゴツしたアルケ・ミストはパイプだらけの蒸気世界と雰囲気がマッチしているからな。
クルタナは、完全に異質な感じだ。
「えーっと、確か背中の辺りにコックピットに入る入口があるんでしたっけ?」
「ああ、そうそう、その辺りらしい」
「んー、これですか。――――あっ」
エレアがクルタナの周りを飛び回りながら、コックピットの入口に手を触れる。
すると――
入口が開いて、エレアが中に転がり込んでしまった。
「エレア!?」
「おわーーーーーっ!」
中からエレアの驚きに満ちた声が響く。
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です! スラスターの炎が誘爆とかしなくてよかったですよ!」
「それはマジで洒落にならんからな!」
「こわいですー!」
とりあえず、エレアは無事らしい。
しかし、本来なら王族しか入れないはずのコックピットに、どうしてエレアが入れてしまったんだ?
と、そんな時だった。
――ビッグベンの中を、蒸気が包む。
「蒸気……?」
いや、違う。
これは、 現実の蒸気じゃない。
蒸気の中にあるファイトエナジーが、幻覚を見せているんだ。
過去の残影、とでも言おうか。
かつてここで起きた光景を、再生している。
『――止めなくちゃ、私が』
そこにいたのは――
「……ヤトちゃん?」
「え、ヤトちゃんがいるんですか!?」
「ああ、いや……違う。この子は――」
ヤトちゃん、俺達のよく知る存在が、しかし。
その容姿は今よりも幼い。
おそらくは、十歳くらい。
「――怪盗ヤトだ」
ここに至るまで、激しい戦いがあったのだろう、その姿はぼろぼろで。
露出度の高い衣装は更に露出してしまっている。
立っていることすら、不思議な状況。
『ダメよ、爆発なんてさせない。――クルタナ』
俺もエレアも、言葉を失っていた。
エレアの方にも、怪盗ヤトの声は聞こえているだろう。
そもそも、この記憶が再生されたのはエレアがコックピットを開いたから。
その中に眠っていた、怪盗ヤトのモンスターとしての残滓が現出しているのだ。
『この世界は……私の居場所……なんだから』
そう言って、怪盗ヤトはカードを一枚取り出して――それをクルタナへ向かって投げる。
<蒸気騎士団 怪盗ヤト>、すでに突き刺さっているカードと同じ場所に、寸分たがわず突き刺さった。
そして怪盗ヤトは、大きく飛び上がるとコックピットに着地する。
すると、コックピットが開いて中にするりと体を滑り込ませた。
「ひゃわっ」
中からエレアの声が聞こえてくる。
幻とはいえ、流石にコックピットに人が入ってきたら驚くだろう。
直後、エレアがコックピットから飛び出してくる。
『誰も、傷つけさせない。ショルメを泣かせたりなんてしない。……私が、世界を守る』
少しだけ幼いところはあるけれど、その声音は間違いなく俺達の知っているヤトちゃんで。
俺とエレアが見守る中で。
『聞きなさいクルタナ! 私はあなたを私ごと止める! 世界を終わらせたりなんてしない! 私の命ごと、ここで眠りなさい!』
怪盗ヤトが、クルタナを停止させる。
その刹那――
『……やっぱり、消えるのは……怖いわね』
そんな、
それっきり、彼女の声は――聞こえなくなった。
「…………」
「…………」
俺達は、しばらく沈黙を捧げ。
「……この世界、救いましょうね」
「……ああ」
そう、意思を確かめあった。
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