253 他の世界の事例を見てみよう
蒸気世界も絢爛世界も救う。
色々と大変だが、やるべきことは定まった。
とはいえ、ぶっちゃけそこまで急ぐ必要はない。
なにせ蒸気世界の蒸気は、後一年問題なく使えるらしいからだ。
その間、本来の予定であった住人の一斉退去の計画も進めつつ、俺達外部の人間で事件解決を目指すということになった。
そのために、まずは情報収集である。
その一つが、一枚はエレアの世界にやってきたらしい終焉のカードだ。
帝国世界という世界で終焉カードが撃退された、とのことだ。
というわけで、火札本店を掃除中だったエレアにインタビュー。
「えーと、終焉のカードですか? 最近皆さんが私をハブにして関わってるっていう、あの」
「それは悪かったって、しょうがないだろ運命力ってそんなもんなんだからさ」
「ブーブー! ポンポコリンですよ!」
そんなエレアだったが、現在絶賛拗ねていた。
理由は本人の言うとおり。
ここ最近俺が蒸気騎士団の件に関わってるせいで、もっぱらお留守番が多いからな。
「店長すら関われてるのに、私が関われないってひどくないですか!? 仮にも初めて蒸気世界の地に立ったんですよ私は!」
「それを言ったら最初にここにやってきたのはルインさんだし、俺たちの知り合いの中でもナギサがトップバッターなんだが……」
「ムキー! 店長なんてこうしてやります!」
「いだダダダ! 俺の髪の毛の白い部分を引っ張るな!」
あーだこーだあーだこーだ。
最近忙しくて二人でゆっくりする時間がなかったから、そんな風にお互いの成分を補給しつつ。
「今度、蒸気世界の核を調査することになってるんだ。クルタナっていう巨大アルケ・ミストなんだけど。エレアは俺たちの中で一番メカに詳しいだろ? 一緒に行かないか?」
「むー、でっかい巨大ロボですか? スーパー系ですか?」
「ああでかい、スーパーかリアルかはよくわからん。そもそもアルケ・ミストってどっちよりだよ」
「んー、しょうがないですね! 行きます! それはそれとして、アルケ・ミストは魔術使うリアル系じゃないですか? そのクルタナはまた違いそうですけど」
なんとなく、わかるようなわからないような。
まあとにかく、エレアの機嫌も直ったので本題に戻ろう。
「で、終焉カードだけど」
「んー、ぶっちゃけて言いますと聞いた覚えはないです。撃退したのって帝国が滅びる前ですよね? そうなると私みたいな兵隊にまで情報来ませんし」
「あー」
確かに、言われてみればそうだ。
エレアは帝国の尖兵でこそあるものの、立場はそこまで高くない。
それに帝国からこっちの世界に転移したあとは、たまに手紙が来るくらいで直接のやり取りはないからな。
平和ではあるらしいのだが。
「一応、終焉カードかどうかはわかりませんけど、異世界から襲撃を受けたことはあるらしいです。もう百年以上前のことですけど」
「撃退された、とモリアーティ本人が言った以上、撃退されたことは間違いない。とするとその襲撃が終焉カードだった可能性は高いな」
「なんとなくそんな気はします。他に異世界からの襲撃って聞いたことないですしね」
なるほど、エレア達帝国世界の人間にとって終焉のカードに関しては完全に知る由もない感じらしい。
「ちなみに、どうやって撃退したかわかるか?」
「多分当時の皇帝が自力でなんとかしたんだと思いますよ。なんだかんだ言って、あの世界で一番強いのは皇帝ですから」
「帝国世界、だもんなあ」
帝国が世界の全てであり、帝国の皇帝こそが最強。
ある意味わかりやすい世界だ。
「とは言えこれでもわかることはあるよな。終焉のカードは撃退が可能ってことだ」
「絶対に抗えない概念的な存在ではない、と」
「やり口も手足となるダークファイターを生み出して、そいつに核を破壊させるって方法だしな」
そのダークファイターさえ撃退してしまえば、それ以上その世界で終焉カードが悪さをすることはないわけだ。
そうなると気になるのは、俺たちの世界はどうなのか? と言う話。
「火札世界ってそもそも、終焉カードがやってくるんですか?」
「正直わからん、なんとなく終焉カードがやってくるのって、住人がモンスターの世界だけな気がするんだよな」
俺たちの世界の住人はモンスターではない。
モンスターと人の間の子がモンスターになったりすることはあるものの。
ちなみに異世界でその世界の法則で俺たちの世界の住人のカードが生まれたりするが、これはモンスターとしては扱わない。
蒸気騎士団になった時のハクさんやレンさんがこれに該当するな。
「そもそも、住人がモンスターの世界とそれ以外の世界って何が違うんですか? 自分自身のカードが存在する、以外の違いって正直ないですよね」
「獣人タイプのモンスターとかはともかく、完全に人型ってなると身体構造も一緒だしな。本当に、カードが存在するかどうかの違いしかないぞ」
なんだかんだ、蒸気世界の人とこっちの世界の人に違いはない。
ただ、一つ面白いのはハクさんとヤトちゃん、魂の構造的には完全に姉妹であるはずの二人に血の繋がりがないことだな。
ヤトちゃんのDNAはハクさんとは完全に別のもの、ヤトちゃんの遺伝子上の親は存在しないのだ。
こういうところは、かなりファンタジーである。
「後はアレだな、この世界にもし終焉カードがやってきてても、多分それと気付かれずに撃退されてる」
「ありそうですねー」
「世界を滅ぼす要因が多すぎるんだよ。俺だって、全部は把握してないぞ?」
「えっ」
「えっ」
いやいやいや、そんな神様じゃないんだからさ。
転生者ではあるけど、そこまで俺はすごくないって。
そんな眼をしないでくれよ、本当に普通の人間なんだって!
なんかこう、猫みたいな眼で睨まれた。
ともあれ。
「ただ終焉カード自体は来てる気がするんだよなぁ、これだけでかい世界なんだから。蒸気世界とかと比べて」
「まー、どこかしらに来てそうですよね。そして現地の人たちによって撃退された……と」
「撃退自体ができないわけじゃないからな。とはいえ……どこに来たかを探すとなると、流石に無茶だ」
事件が多すぎる。
まだ蒸気世界の終焉まで時間はあるとはいえ、調べてたらいくら時間があっても足りないぞ。
中には、一般に知られていない事件まであるんだから。
というわけで、そういう事実を知っている人物に直接聞くことにした。
「さて、時間はそろそろかな」
「さっきからフィールドをいじってると思ったら、何を見るんですか?」
「通話だよ、ビデオ通話。これを使って、終焉カードのことを知ってそうな人と話そうと思ってな」
「えーと……アリスちゃんとかですか?」
確かに、この世界における最強クラスのエージェントである、アリス・ユースティアなら知っているかもしれない。
けど、かもしれない……という程度だ。
確実に知っている人に話を聞いたほうが早い。
具体的には――
「――ファイター仙人だよ」
その瞬間、映像がつながった。
映像の向こう側には――
『はーい、キアだよ。ミツルにぃって、気軽に無茶なこと言うよね』
『まったく、儂に話を聞きたいというのは解るが、そのためにキアを使いに出すのは何を考えとるんじゃ』
キアと、ファイター仙人がいた。
「いやあ悪い悪い、ちょうどファイター仙人の近くにキアがいたもんだから、声をかけてみたらいつの間にかこんなことに」
『ま、私も久々におじいちゃんに会いたかったからいいけどね』
本当なら自分で会いに行くつもりだったんだって。
偶然キアにそのことを話したら、いつの間にかこんなことになってたけど。
ともあれ、早速ファイター仙人から話を聞くことにしよう。
「んじゃエレア、一旦掃除は休憩にして――」
「…………」
「し、死んでる……」
そしてエレアは、突然のキアに発作を起こして尊死していた……
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