246 今明かされる衝撃の真実
ハクさんとジャックちゃんの激しいファイトが始まった。
そこに、合流してくる人たちがいた。
「大丈夫かい!?」
「むむむ、やはり
ショルメさんと、レンさんだ。
ショルメさんが慌てていて、レンさんは落ち着いている。
この差は、どういうことだろう。
「さっき、声が聞こえたんだ。なにかあったと思って駆けつけたんだけど」
「案の定、白月がろくでもないことを言って、ジャック・ザ・リッパーを引きずり出しただけのようだな」
なるほど、ショルメさんが早とちりしてしまったのか。
探偵にしては珍しい、と思うけれど。
彼女には別のものが見えているのかも知れない。
「状況はどうだ?」
「まだ始まったばかりね、姉さんの最初のターンよ」
ハクさんが、モンスターを展開して地盤を固めている。
ここからはまだまだ長くなることだろう。
「そういうことなら――ヤト、少しボクと一緒に来てくれないかい?」
「行くって……どこへ?」
「大事な話があるのさ。ハクを置いていくのは心苦しいかもしれないけど――」
「わかった」
ヤトちゃんが即答した。
「心配じゃないのかい?」
「問題ないわ、姉さんは負けないもの」
「……そうか。ならついてきてくれ」
ヤトちゃんは、視線をハクさんに向ける。
今の話を聞いていたハクさんも、同じく視線を向けて二人は頷きあった。
そのまま、ショルメさんに連れられて、ヤトちゃんは去っていく。
「……先程から天の民は喋っていなかったが、どうしたのだ?」
「…………ん、ああ。一応、ショルメさんが別人の可能性を考慮して観察してた」
「もし仮にモリアーティがいつの間にか入れ替わっていたとしたら、同情するな」
「それはないから心配しなくていいよ」
どうやらショルメさんはショルメさんのようだ。
俺の勘は早々外れない、二人は問題ないだろう。
「さて、天の民。我々はまだ各地の洗脳ファイターを解放せねばならない」
「……というわけみたいだから、ごめんハクさん」
「いえ……人に見られないというのは悲しいことですが、これもまたスパイスです!」
何言ってるの?
とにかく、ハクさんはこのままジャック・ザ・リッパーと対決。
俺達は一旦その場を離れて、別の洗脳ファイターを倒しに行くことにした。
□□□□□
洗脳ファイターは本当に数が多い。
倒しても倒してもきりがない。
とはいえ、ジャックちゃんが討伐されれば数も落ち着くはずだ。
今はこれ以上被害が出ないようにしつつ、俺達は俺達のやるべきことをしよう。
「――天の民よ」
「なにかな、レンさん」
ふと、レンさんが俺に声をかけてくる。
お互いに洗脳ファイターを倒した、その直後のことだ。
「天の民は、この世界の秘密について詳しく知っているのだろう?」
「エッフェル塔ロボと――」
「その下りはもういい! モリアーティのことだ」
「ああ、うん。そっちも知ってるよ」
ただ、知ったうえで口には出さなかったけど。
本来なら、自分の手でその秘密を皆には見つけ出してほしかった。
しかしどうにも手詰まりな上、嫌な予感がするとハクさんがいうから、俺はジャック・ザ・リッパーを引きずり出したのである。
「この状況ならば、モリアーティも動くだろうな」
「そうだね。何かしら仕掛けてくるとは思う」
「そのモリアーティの正体について」
ふむ、と俺はレンさんの目を見た。
どうやら、確信があるようだ。
「――犯人は、我々に近い場所にいる、だったな?」
「……ああ」
「火札世界の人間と、蒸気騎士団を除いた時、我々がよく知る人間は――二人しかいない」
最初に彼が敵として現れた時、俺はカードゲームあるあるだ、と感じた。
途中加入の味方キャラが裏切るアレ。
だがそれも、ジャック・ザ・リッパーの洗脳という形で流された。
あからさまに怪しいジャックちゃんを配置したうえで、しれっと俺達の懐に潜り込んだ。
そしておそらく、彼自身も自分の正体には気付いていないだろう。
けど、ジャックちゃんの裏人格というヒントが俺達にはあった。
「つまり、モリアーティの正体は――」
その言葉を、遮るように。
「レンさん、危ない!」
一枚のカードが、俺達のもとに飛んでくる。
俺はそれを、片手で受け止めた。
受け止めたカードを見る。
そのカードは――
「――おめでとう、火札世界の人たち」
<チームボロッツのがらくた剣士>。
「――ログ少年」
「おっと、今の僕はログじゃない。きちんと”僕”の名前を呼んでおくれよ」
その顔は、凶悪な笑顔に染まり。
髪色も、派手な灰色と黒が混じった髪に変化していた。
服装も、まさしく犯罪帝国の王に相応しい豪華なもの。
すなわち――
「モリアーティ……!」
この世界を破滅に追いやる敵、モリアーティが俺達の前に姿を現した。
「お初にお目にかかる。今日はいい夜だ。いや、この世界に陽の光は届かないけどね」
「それでも、この世界は夜になる。でもそれは、蒸気騎士団の夜だ」
「ふふ、いい返しだ」
俺の言葉を、採点者のように評価して拍手を送るモリアーティ。
そのモリアーティに、レンさんが噛みついた。
「……答えよ、犯罪王! この世界の秘密を!」
「おっと、もう少し言葉は正確に使ってくれたまえ、レディ。君の聞きたいことはそこじゃない。そうだろう?」
「……!」
レンさんに、焦りが見える。
そもそもモリアーティをこの場に呼び寄せたのは、レンさんがその正体を言い当てたからだ。
監視されていることはわかっていた、正体を言い当てれば出てくることも。
つまり、レンさんはどうしてもモリアーティに聞きたいことがある。
「母様は……どこにいる! それだけではない、白月の両親もだ!」
「ふふん、やっぱり君はそこそこ事情が見えているようだね」
「答えろと言っている!」
「……でも、彼ほどじゃない」
そう言って、モリアーティは俺を見た。
確かにレンさんは、事情がそこそこ見えている。
ショルメさんのメッセージを受け取ったからだ。
でもそれは完全じゃない。
俺と比べたら、情報には齟齬がある。
「だからね、僕の目的は君じゃないんだ」
「……何?」
なんと、ここに現れたということはレンさんとモリアーティが、ジャック・ザ・リッパーとハクさんの様に激突するのかと思っていたが。
違うらしい。
「――天の御遣い、神の執行者、試練の守り手。棚札ミツル、僕は君に会いたかったんだ」
「なんだか、随分と仰々しいな」
「君にはわからなくてもいいよ。まぁ、使用するデッキにちなんでいるとでも思ってくれ」
その言葉に、レンさんが警戒した様子でモリアーティを見る。
俺としては、自分は転生者なのでそういうこともあるかな、くらいのものなのだが。
「他に倣って僕も店長と君を呼ぼうか――店長。君は大悪とぶつかることのできない運命にある」
「流石にモリアーティを名乗るだけはある、よく知ってるな」
「でも、それには二つの要因があるんだ。一つは、言うまでもなく君の運命力」
二つの要因?
初耳だ、俺の運命力に関しては言うまでもないが。
他にもう一つ、原因があるというのか?
「そしてもう一つは――大悪が君を避けているから」
「避けている?」
「そうさ。誰だって、君みたいな化け物と正面から戦いたくない。逃げたいんだ! だから悪は君を避ける、悲しいことにね」
「……大仰に言ってるけど、随分情けない話だな」
俺の言葉に、あははははとモリアーティは笑う。
「本当にその通りだ。愚かで、バカバカしくて、そして何よりつまらない!」
「……それで、結局お前は何が言いたいんだ?」
「決まってる。そういった情けない大悪は、たいていどこかでミスをする――この、僕のようにね」
――それは、まぁ。
ジャック・ザ・リッパーの話を聞いていれば、解る。
もっと言えば、これまでヤトちゃんの成長ツリーがどれだけ変な方向に進んだかを考えれば、解る。
確かに俺は、事件に深く関われば関わるほど、事件を大きく歪めてしまう傾向にあるらしい。
とはいえ、流石にヤトちゃんほど深く事件に関わった人はいないだろうから、今後もこうなるかはわからないけど。
「ああ、どうして。どうしてこうなってしまったんだろうね? ……どこが悪かったのかなぁ。どこが間違っていたのかなぁ」
「……モリアーティよ」
「はは、なんだいお嬢さん?」
「貴様は、何も悪くないぞ。悪いのは天の民だ」
「そうだね」
即答した!
というかレンさん落ち着いて、今割と真面目な雰囲気だから!
モリアーティもシリアス保とうと頑張ってるから!
「――――けどね、僕は一つだけ例外を見つけたんだ」
「例外?」
「そうさ。君という絶対に排除できない異物を排除し、この絶望的な状況をひっくり返す逆転の手! すべての敗北を挽回する、最高にして最大の一手!」
言いながら、モリアーティは。
「――勝負だ、店長! ここで僕と決着をつけよう!」
スチームボードを構える。
「……モリアーティ、貴様まさか!」
「そうさ、店長がすべてをかき乱す元凶になりうるのは、大悪が店長から逃げた時。だったら、正面から全力で勝負を挑めば、どうだ!?」
「まぁ、それは」
俺もまた、イグニスボードを構えた。
「受けざるを得ないよな、全力で……!」
その言葉に――
「ク――ハハハハハ! アハハハハハ! そうこなくっちゃねぇ!」
モリアーティは、それまでの笑みとは比べ物にならない、獰猛な笑みを浮かべた。
「天の民!」
「レンさん」
「……絶対に、負けるなよ」
真剣な眼差しで、レンさんが俺を見る。
ここで負けたら、盤面が完全にひっくり返る。
一発勝負の、絶対に負けられない展開。
しかも、相手は敵の親玉。
レンさんからしてみれば、これは俺の人生で初めてのファイトということになるのだろう。
でも、違う。
「問題ないよ、レンさん」
「……どういうことだ?」
「相手は全力でファイトを求めて来るんだ。ログ少年のときのように、初めて出会った時のように、俺は彼を導いて――少しでも、成長を促すだけだ」
たとえ、もう一つの人格であろうと。
それがモリアーティであろうと。
やるべきことは変わらない。
かつてのように、正面から全力をぶつけ合い。
俺は、店長としてその成長を見守る。
これは、それだけのファイトだ。
「言ったな! その認識を改めてやる。僕は――僕は犯罪の帝王、モリアーティだ!」
「ああ、行くぞ!」
かくしてここに、いつもと何ら変わらない。
けれども、だからこそ絶対に負けたくないファイトが始まる。
「イグニッション!」
「イグニッション!」
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