245 ここで貴方が正体を表さなければ――脱ぎます!
というわけで、ジャック・ザ・リッパーの正体が判明した。
ちなみにサモンしたヌスミギキンは、あの後ネオカードポリスの方で色々と手続きをした後、偶然通りかかったデビラスキングと仲良くなってキアの店舗に就職した。
怒涛の展開だが、丸く収まったのならヨシとしよう。
俺もサモンしたかいがあるというものだ。
なお周囲からの反応はやはり想像通りだったことを報告しておく。
だからやりたくなかったんだよ!
さて、気を取り直してジャック・ザ・リッパーの捜索だ。
ヌスミギキンという仲間からの証言によって、その正体は白日のもとに曝された。
だからといって、それで即座にジャック・ザ・リッパーと対決――とは行かないのが難しいところ。
具体的に言うと、ジャックちゃんが姿を消したのだ。
ある日、忽然と廃材置き場からいなくなっていたらしい。
とはいえこれは悪い話ではない。
ジャック・ザ・リッパーの正体を確定的なものにするからだ。
というわけで、早速俺達は総力を上げてジャック・ザ・リッパー――もしくはジャックちゃんを捜索することとなった。
しかし――
「……洗脳されたファイターがおおすぎるわ!」
ヤトちゃんが、<エンシェント・アリアン>で洗脳ファイターにとどめを刺しつつ叫ぶ。
同時に、俺とハクさんもファイトを終えた。
いたるところに洗脳ファイターがいるのだ。
「もうこれで五人目よ」
「ジャック・ザ・リッパーも手段を選んでない感じだな……」
今日が決戦の日になると踏んだのだろう、あちこちに洗脳ファイターを放っている。
それを手分けして退治しつつ、本丸を探しているのが今だ。
他の仲間たちも、別の場所で戦っているはずだ。
ちなみに振り分けはナギサとライオ王子、ナツメさんとジョンさん、レンさんとショルメさん。
そして俺達三人。
合計4チームだ。
意外なことに、ヤトちゃんとショルメさんが一緒じゃない。
理由として考えられるのは――
「……ジャック・ザ・リッパーとは、ここで決着をつけないといけません」
「やっぱり、ハクさんはジャック・ザ・リッパーと決着をつけたいか」
「はい……他人の気がしないんです」
服を切り裂くジャック・ザ・リッパー。
服を脱ぐ月兎仮面。
似ている……そっくりだ!
というわけで、おそらくジャック・ザ・リッパーはハクさんと決着をつける枠なのだろう。
「なんか、店長さんに敵が集まってますよ」
「失礼なこと考えたんじゃない?」
「君たちね! まぁいいや、悪のファイターがいっぱい襲いかかってくるシチュエーションは大歓迎だ。ここでしか体験できないからな!」
なんやかや、ここまで事件に俺が関われるのは非常にレアだ。
少しくらい満喫しないとな!
「まぁ、店長がそれでいいならいいけど……どうする、姉さん」
「そうですね……なんとかして、ジャック・ザ・リッパーを引きずり出さないと……」
俺が洗脳ファイターをワンターンキルでふっとばしていく中、ヤトちゃんとハクさんは考える。
とはいえ、引きずり出すのはなかなか難しいだろう。
相手のトップはあのモリアーティ。
その頭脳レベルは、例の詰めファイトでも証明されている。
その裏をかくことは並大抵のことじゃない。
「……私、考えたんです」
「姉さん?」
「相手の裏をかくには、相手が絶対に思いつかない方法を取るしかありません」
ちらり、とハクさんがこっちを見てくる。
その考えは、もしかして俺がヌスミギキンをサモンしたことから来てる?
なんか不穏なんですけど!?
絶対よくないこと考えてるよね!?
ヤトちゃんもそれを感じ取ったのだろう、不安そうにハクさんを見ている。
「だから私は――」
「ね、姉さん待って……」
だが、ハクさんは止まらない。
「ここで貴方が正体を現さなければ――脱ぎます!」
脱ぎます――脱ぎます――脱ぎます――――
叫びが、夜の蒸気世界にこだまする。
俺とヤトちゃんと、それから洗脳ファイターが固まった。
「聞こえているのでしょう、ジャック・ザ・リッパー! 貴方は人の服を切り裂くクライムファイター! それはつまり、人が服を着ていなければ意味がないということです!」
「え? あ、た、確かに!?」
「落ち着けヤトちゃん!」
それ以上はまずい!
「そんな貴方にとって、全裸というのは絶対に許容できない状態でしょう! いいのですか、今から私は服を脱ぎます! 貴方にそれが、許容できますか!?」
だが、言っていることは確かに一理なくもない。
あるとは言えないけど、ジャック・ザ・リッパーが出てきそうな理論構築はできている!
そして、実際。
ハクさんの足元に、ハサミが飛んできた。
「出ましたか!」
ハクさんが、それを躱して構える。
「――許せねえ、許せねぇなあ」
ジャックちゃんの、声がした。
暗がりから――露出の激しい衣装のジャックちゃんが現れた。
あの時、俺が視界に捉えた気がした、あのジャックちゃんだ。
「きーっひゃっひゃっひゃっひゃ! 服を脱ぐなんて、どうしてそんなひどいことするんだよ?」
口調が、普段と全く違う。
というか、以前出てきたクライムカードに憑依したジャックちゃんと同じ口調だ。
「俺、君のことを気に入ってたんだよ? 月兎仮面?」
「……名前を覚えていただいていて、光栄ですね」
「知ってるさ、知ってるに決まってるだろぉ」
そう言って、ジャックちゃんはハサミをハクさんのデッキにつきつける。
「俺とその子は、兄弟みたいなものなんだからさぁ!」
「……<ヴォーパルバニー>、ですか」
「キヒ、今は伝説のヴォーパルバニーかぁ? まぁ、なんとも情けないカードになっちまったよなぁ」
どうやら、<ヴォーパルバニー>はもともとクライムカードだったようだ。
それがどういうわけか、<伝説の仮面道化 ヴォーパルバニー>になり、ハクさんに衣装を提供するカードになってしまったが
本当に、どういう経緯でそうなったんだろうな?
まぁ、どうでもいいか……
「だけど、俺は違う! 俺はモリアーティ様の忠実なるしもべ!」
「……!」
「他の計画はぐちゃぐちゃになっちまったけどなぁ、ここで君をカードにすれば全部お釣りが出る! ――ハク!」
ジャックちゃんの気配が膨れ上がる、クライムファイトのフィールドが形成されつつあるのだ。
対戦相手は――当然、ハクさん。
「姉さん、私は――」
「ここは私に任せて、ヤト」
そして、ハクさんは一対一でジャックちゃんと戦うことを選んだ。
向かい合う二人は、いよいよ以て緊張を高めた。
「ああ、本当に……どうして、どうしてこうなっちゃったんだろうねぇ! モリアーティ様の計画じゃ今頃君は俺達の手中にあったはずなのに!」
「私は……強くなりました! それが、未来を変えたのです!」
ヤトちゃんが、視線をこちらに向けた。
俺は視線を逸らした。
正直、モリアーティの計画をズタズタにした自覚がある。
でも、アレだ。
何があっても、最終的にハクさんは痴女になってたんじゃないかなぁ……ここまで堂々とはしてなかったかもしれないけどさ。
「けど、けどけどけどよぉ! それもここまでだ! ここからは犯罪帝国の時代! 俺達がこの終わった世界にとどめを刺す番だ!」
「させません、絶対に!」
「キーヒャヒャヒャ! もう遅いんだよ、この世界の終焉はもう始まっている! 心臓に楔は打ち込まれたんだからよぉ!」
その言葉に、ヤトちゃんが視線を鋭くする。
「心臓に楔が……世界の終焉は始まっている……?」
「大丈夫かい、ヤトちゃん」
「ええ……店長、なにか知ってる?」
「さて、ね。すぐに分かるさ」
頭を抱えて、少しだけ苦しそうにしながらヤトちゃんが聞いてくる。
これは……かつての記憶が脳裏をよぎっている?
まぁ、記憶喪失あるあるってやつだな。
ともあれ。
「行きます! 世界にあまねく露出のあらんことを!」
「来い! その服、プライドごとずたずたに切り裂いてやるよぉ!」
ハクさんと、ジャック・ザ・リッパーのファイトが始まる。
「イグニッション!」
「イグニッションだ!」
――事態は、ここから一気に加速していくのだ。
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