244 証拠はあるんですか証拠はぁ!
さて、現在蒸気騎士団はジャック・ザ・リッパーを捜索している。
だが、はっきり言ってこれは芳しくない。
被害が出てもそこにいるのはジャック・ザ・リッパーが洗脳した一般人ファイター。
倒しても倒してもきりがない、といった感じ。
ぶっちゃけ、俺とショルメさんはほぼ正体に当たりをつけている。
ジャックちゃんの裏人格こそがジャック・ザ・リッパーである、と。
ただしこれには証拠がない。
ジャックちゃんとジャック・ザ・リッパーの関係の証拠を掴めない限りは、たとえ犯人がわかっていても手を出せない。
以前ヌスミギキン相手にやったが、蒸気騎士団はまず証拠を集めて、その上で正面から相手を糾弾するのがお得意のやり方だ。
巧妙に正体を隠したジャック・ザ・リッパー相手では、これがなかなか難しい。
何かしら手を打つ必要がある。
というわけで、俺の店であるデュエリストの火札本店に、ある人物が招聘されていた。
招いたのはハクさんだ。
んで、呼ばれた人物は――
「……
「はい、刑事さん……何かいい知恵はありませんか?」
ネオカードポリスの草壁刑事こと、刑事さんだった。
一応彼も、実力的には蒸気世界へ行けるのだが、最近はなにやらネオカードポリス自体が忙しいらしく足を運んだことはない。
今日も、たまたま火札本店に顔を見せたところにハクさんが声をかけた形だ。
二人がファイト用のテーブルを挟んで話をしているのを、俺が横で聞いてる感じ。
「つっても俺ぁ、蒸気世界に関しては完全にシロートだぞ? エージェントとしての経験だって、レンのお嬢やお前さんだって普通にあるだろ」
「そうなんですけど……やっぱり、大人のエージェントの意見も聞きたいと思ったんです」
「そういや、蒸気世界を出入りしてる大人のエージェントはいねぇのか」
実際これはその通り。
レンさんやハクさん、それにヤトちゃんはプロのエージェントである。
だが、あくまでまだまだ社会経験のない子供。
レンさんは自分を大人だと主張するだろうけど、経験不足な部分はどうしてもある。
そもそもあっちの世界を出入りしている大人が俺と、ダイアにナギサ。
キレイにエージェント以外の人物しかいないのだ。
ナギサは、一応エージェントギルドに登録はしてるけどな。
「そうだなぁ……一応、ジャック・ザ・リッパーについてはある程度話は聞いてるぜ? 伝説の覆面ダークファイターだからな。こっちの世界でも、奴の犯行は有名だ」
「同じ人……ではないと思いますけどね」
「そりゃあな、こっちの世界の偉人と異世界の偉人の名前がかぶることはよくあることだ」
前世だと、どうして異世界モノで現代のギリシャ神話とかの名前が使われてるんだろう、とか。
そういうのが創作だと突っ込むのが野暮なくらいあった。
この世界でもそれは、当然のように存在する。
ただし、それは現実でそれがよくあることだからだ。
なんというか、順序が逆って感じするよな。
「俺の経験則から行くと、ジャック・ザ・リッパーはお前さん達の知り合いの中にいる」
「知り合いの中に……ですか?」
「ああ、どういうわけかそういう正体を隠したダークファイターが身内に紛れ込んでるって、よくあるんだよ」
「……確かに、そうかもしれません」
カードゲームあるある、裏切り者が紛れ込む。
古くは獏良くんからはじまり――いやちょっと違うか?
ともかく、遊戯王の真月枠はいろいろなカードゲームアニメでも見られる話だ。
カードゲームに限らない? それはそう。
「ただ、証拠もないのにそれを指摘できねぇって話だよな」
「……確かに、そうですね。蒸気騎士団自体が、証拠を重んじる組織ですから」
お、さすがは刑事さん。
犯人がわかっても証拠が必要ってところに、すぐ気がついた。
「だが逆に言えば、証拠さえ掴んじまえばいい。相手の正体を完全に把握する必要はねぇんだ」
「確かに証拠なら、相手の正体がわからなくてもつかめるかも知れません」
というわけで、方針は決まった。
次にどうやって証拠を集めるか、だ。
「そうだな……店長と一緒に街をぶらつくとか?」
「……ん?」
なんか俺が呼ばれた?
「店長さんに、どうにかしてジャック・ザ・リッパーの手先と戦ってもらえませんかね」
「どうだろうなぁ、店長の特性考えると難しいぜ」
「……んん?」
君たち?
「はっ! いっそ私と一緒に店長さんも露出を……!」
「ちょっと待った、どうして君たちは俺を運用する前提で話を進めるんだ」
嫌だよ!?
俺が露出するのとか、誰に需要が「私にあります!」いやエレアならあるだろうけどさ。
突如としてバックヤードに入る扉が開け放たれて、エレアが叫んでまた中へ引っ込んでいった。
話を戻そう。
「いやだってなぁ……」
「だって……ですよ?」
「だって?」
俺が聞き返すと、二人は――
「店長が関わると、なんか変になる」
口を揃えてそういった。
そこまで言うことないじゃん。
ガチャ「その二人は店長被害者筆頭ですから!」バタン。
いや店長被害者筆頭ってなんだよエレア!?
「俺は変じゃない!」
「いや……」
「あはは……」
刑事さんはともかく、ハクさんに苦笑されたくないんだが!?
「というか店長、そういう店長こそなにか意見はねえのかよ」
「俺か? 俺はあまりこういうのに口を出さないようにしてるんだが……」
「でも……そうですね。正直、今のままだと手詰まりな感じがあるんです」
そう言って、ハクさんが少しだけ視線を落とす。
「なんだか……このまま手詰まりで手をこまねいていると、よくないことが起きる気がして」
「……ふむ」
よくないこと、か。
こういう嫌な予感は、馬鹿にならない。
そういうことなら、俺も手を貸そう。
嫌な予感を無視して、後々ピンチになりましたって展開はストレスだしな。
「じゃあ、正直やりたくはないんだが、一つだけ手段がある」
「そうなんですか!?」
「ああ、……これをやったら、絶対ドン引きされるからやりたくはなかったんだが」
その言葉に、刑事さんもハクさんも。
「そんなことないですよー」
「今更店長が何やっても、そう驚きはしねぇよ」
と言ってくれた。
そういうことなら、失礼して。
俺はイグニスボードを構えた。
「……? どうするんですか?」
「こうする。――ドロー!」
デッキの一番上のカードを引く。
その瞬間、デッキは光った。
「現われろ! <犯罪帝国の諜報 ヌスミギキン>!」
途端、眼の前にサモンされる先日ヤトちゃんが倒したクライムファイター、ヌスミギキン。
この世界において、異世界の住人はカードのモンスターでもある。
それを利用して、クライムファイターをカードとして生成。
この世界にサモンするのだ。
「……はっ、こ、ここはどこだ!? 我はなぜこのような場所に!?」
見た目、なんかオークみたいだなって感じの巨漢がショップに現れる。
「よう、ヌスミギキン」
「き、貴様は……あのカードショップの! そしてここは……我はどうなっているのだ!?」
「俺がカードを生成して、呼び出したんだ」
「―――――――は?」
めちゃくちゃわけわからんって顔をされた。
「早速本題なんだが、ジャック・ザ・リッパーの正体は誰だ?」
「いや、待て待て待て!? それどころじゃないだろ!?」
「正体は、誰だ?」
「う、うわあああああああああ! や、やめろ圧をかけながら近寄るなあああああ!」
というわけで、サモンしたヌスミギキンから情報を聞き出すことに成功した。
案の定、ジャック・ザ・リッパーはジャックちゃんの裏人格だ。
これで証拠は十分だろう。
「これでよし。というわけだ、ふたりと、も……」
そう思って、振り返ると。
――ハクさんと刑事さんは、めちゃくちゃドン引きした表情で露骨に距離を取っていた。
ガチャ。
「店長の、ばかーーーーーーーっ!」
ドドドドド!
スパーン!
バタッ。
「いった! エレア、それは単純に叩きたかっただけだろ!」
俺は突如としてハリセンを決めて去っていったエレアを追いかける。
しばらくバックヤードでエレアを追いかけてから戻ってきたら、なんか諦めた眼で見られた。
解せぬ。
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