243 火札と蒸気の最強対最強 ②
豪奢な内装、静謐な空間。
その場所が支配者の住まう神聖な空間であることが伝わってくる城内をゆっくりと進む。
ライオ王子は今にも駆け出したいのだろうが、王子としての立場もあってか歩みは堂々としていた。
俺達も、それに合わせている。
「……素晴らしい宮殿だな」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
ポツリと溢れた言葉に、ライオ王子は顔だけ向けてにぃ、と笑みを浮かべた。
自信に満ち溢れた笑みにどこか優しさが混じる。
ここが自分の家だからだろうか、少しリラックスしているのだ。
「二人は、こういった宮殿を訪れた経験はあるかな?」
「えーと、俺は二回だな」
「私は四回だ」
「……驚いたな、ナギサから火札世界の人間はこういった場所と無縁なことが多いと聞いたが」
それは確かにそうだろう。
ヤトちゃんやハクさんは多分、一度もそういう経験がないだろうし。
特殊なところだと、エレアも帝国の城にしか足を運んだことがないのではないだろうか。
とはいえ、それはあくまで一般人の話。
俺やダイアは、まぁ言ってしまえば”特別”なファイターだからな。
「知り合いに、世界を代表する大富豪のアリスさんって人がいるんだけど、その人が持ってる城に招待されたことがあるんだよ。俺もダイアもな」
「他にも、異世界の宮殿に召喚されたこともある」
色々と事件に巻き込まれたり、晩餐会に招待されたり。
まぁ、色々と城や宮殿を訪れる機会もあるんだ。
「なるほど、それで二人は堂々としていたわけだ」
「……まぁ、ナギサには敵わないだろうけどな」
「彼は例外中の例外だろう。世界中ありとあらゆる場所を回ったのだろう?」
んで、ライオ王子の火札世界知識の出どころ、ナギサは風来坊だ。
回った城や宮殿の数は、間違いなく数十個はくだらない。
「さて、ついたぞ。ここは宮殿内で王族が人々の前でファイトするために作られた場所だ」
「人が……結構集まってるな」
「蒸気世界は狭い、噂が広まるのも早いのだ」
言いながら、手を上げて観客たちに自身の存在を示すライオ王子。
すぐにダイアもそれに倣って、手を振って見せた。
流石に日本チャンプと王子、慣れてるな。
俺はまったくそういうのには慣れていないので、あえてそのまま。
こういうのは自然体でいるべきだと、アロマさんも熱く語っていたしな。
三者三様、落ち着いた様子を見せながらも掲げた手には絶対の自信が宿るライオ王子。
大きな身振り手振りで存在感をアピールしながら、爽やかな笑みを浮かべるダイア。
そしてそれを横に眺めながら自然体の俺。
自分で言うのも何だが、なかなかそれぞれ強キャラっぽい気がする。
まぁ、俺は流石に玄人好みする立ち振舞だけど。
「さて――それでは、良いファイトにしよう」
「ああ」
「応!」
かくして、俺達は三つ巴で向かい合う。
ライオ王子、ダイアとそれぞれ視線を交わして。
互いにボードを構えた。
「イグニッション!」
かくして、最強三人のファイトが始まる。
□□□□□
さて、先程俺達が勝ったことで、運命力はライオ王子に味方していた。
少しでも俺とダイアが連携していれば話はまた違うだろうが、ここは完全なバトルロイヤル。
俺は二人に絶対に負けたくなかった。ダイアも同様に。
故に、ライオ王子は先んじる。
「二人に、僕の最強をお見せしよう!」
「……まずいな」
「そうみたいだね……」
掲げるカードは、まさに王の気迫。
「これが僕の最強! 行くぞ! <ジェヌインラウンズアクター・アーサー・エクスカリバー>!」
円卓の騎士を束ねる王。
最強の騎士が、俺達を蹂躙する。
「僕の……勝ちだ!」
さすがは蒸気世界の最強。
俺とダイアを前にしても、一切臆することなく。
その強さを、世界に知らしめてみせた。
だが、個人的にそれよりも印象的だったのは、勝ちを宣言した直後。
「……よし!!」
そう、小さく拳を握りながら叫んだことである。
汗を流しながら、疲弊した様子でそれでもなんとか笑みを浮かべている。
俺達も、それまで感じていた重圧を拭い去り、深く、深く息を吐いていた。
「……いいファイトだった」
「素晴らしいファイターだよ、王子。だけど――」
対する俺達は、互いにライオ王子をそう褒め称え――
「次は負けない」
全く同時に、そう言い放ち。
三人は、笑みを浮かべた。
さて、その後のことだが。
ライオ王子が見に来てくれた観客に挨拶をして、その場は解散となった。
だが、俺達はまだもう少し時間がある。
というか、あることをしたくて仕方がないのだ。
蒸気支店の応援に来てくれたメカシィと、火札本店のエレアに詫びを入れて数時間程時間を確保した。
で、何がやりたいかと言えば――
「さぁ、ここが私の自室だ。ここなら、思う存分先程の感想戦をしながら、もう一度ファイトができるぞ!」
友人の部屋に集まりたかったのである。
完全に学生のノリだ。
社会人になって、こういうことはめっきりやらなくなってしまったが。
それでも、当時の感覚を思い出してとてもワクワクする。
相手に異世界の王子なんていうなかなか無いめぐり合わせが混じっているなら、なおさらだ。
「まず思うに、俺とダイアはお互いを牽制するんじゃなくて、利用し合うべきだったな」
「下手なことをすると、相手の考えが読めてしまうからな……そこを逆に突かれたわけだ」
「ふふふ、僕は二人を上手く利用させてもらったよ」
今回の敗因は、俺とダイアが一切協力しなかったことだ。
だって、少しでも協力の姿勢を見せると相手に考えが伝わってしまうのだ。
以心伝心のしすぎも問題である。
対してライオ王子は、こちらの行動を利用する形で俺達を上手くぶつけた。
結果として、消耗を抑えて最後の猛攻に出られたわけである。
「では、ここからはどうする?」
「負けた方が抜けるルールでタイマンはどうだ?」
「いいね、それでいこう」
さっきのファイトで勝ったライオ王子が確定で着席し、俺とダイアがじゃんけんで着席する方を決めることに。
勝ったのはダイアだった。
おのれ……
「さて、これで勝ち続ければ私は二人と無限に戦えるわけだ」
「それはない、次は私が勝つからな!」
というわけで、ファイトが始まる。
その後は三人がそれぞれ入れ替わりでファイトをして盛り上がった。
途中からはデッキの調整を話し合ったりして、完全に友人同士のノリだ。
こういうのは大人になっても、楽しいものである。
そして、ライオ王子はぽつりと――
「……ありがとう、二人とも」
そう、こぼした。
「私は、こうして対等に誰かと遊び、楽しむことなど初めてのことだった。蒸気騎士団という仲間はいるが、彼らの前で私は強くあらねばならぬ」
「ライオ王子……」
やはり、ライオ王子にとって対等な相手がいないことは、少しだけ負担だったのだろう。
こうして楽しんで、楽しんで、満足して最後にようやく出てくる程度の、本当に小さな負担だったとしても。
だからこそ、俺達みたいな部外者が少し一緒に遊ぶくらいのがちょうどいいのだろう。
「もしよければ、ふたりとも。またいつの日か、こうして友人として共に卓を囲んでくれるか?」
「もちろんさ」
「ああ」
ライオ王子の言葉に、俺達は頷く。
それにふ……と笑みを浮かべて。
「……再び、卓を囲むことができれば、な」
そんな言葉を、意味深にライオ王子はこぼした。
――後日。
「……なぁ、店長」
「なんだろうか」
俺の店にて、ライオ王子がひそひそと俺の方に耳打ちしてくる。
その視線の先には――
「しゃー! ふしゃー!」
なぜかライオ王子を威嚇するエレアの姿があった。
多分、例の三つ巴バトルとその後遊んだことで、エレアセンサーに引っかかったんだろうけど。
おちついて、相手は王子だから! 不敬だから!
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