242 火札と蒸気の最強対最強 ①
ついに、その日はやってきてしまった。
暇な日はほぼ毎日俺の店にやってきているライオ王子。
店長の俺、そして――火札世界のトップ・オブ・トッププロ。
逢田トウマこと、ダイア。
すなわち、火札世界の最強ファイター二人と、蒸気世界の最強が出会ってしまったのだ。
この中で一番強いのは当然俺だが、ダイアやライオ王子だってその主張を退けようとはしないだろう。
というわけで、今日の店内は滅茶苦茶熱気に満ちている。
「ようこそ、火札の表舞台にて最強の称号を冠するファイター。ここに、蒸気最強として歓迎の意を表明しよう!」
「こちらこそ、あえて光栄だ! 名乗りは要らないかも知れないが、俺は逢田トウマ! この店だとダイアと呼ばれている!」
「ふむ、魂に刻まれた銘と見える。背負った感情を感じる、良い銘だ! ダイア!」
ガシィ、二人の最強が強く握手を交わした。
いやー、すごい光景だ。
なんというか、空気が歪んでいる。
主に天井付近がね?
蒸気で蒸し気味な蒸気世界とはいえ、ここまで蒸し蒸しした熱気に包まれることは早々ないだろう。
「さて、今回はこのような場を用意していただき、店長にも厚く御礼申し上げる!」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいよ、ダイアもこの通りだしな」
「ははは! 実は昨日は興奮しすぎて眠れなかったんだ!」
「遠足前の子供じゃないんだから!」
もういい大人なんだから、そういう健康に悪いことはやめろよな!
まぁ、ファイターは頑強だから問題はないだろうけどさ。
「それにしても……二人は仲がいいのだな」
「まぁ、十年の付き合いになるからな」
「思えば、長い付き合いだな店長」
うんうん、と二人で頷き合う。
ライオ王子は、少しだけ羨ましそうだ。
「ふむ……私にそういった無二の相棒は残念ながらいなくてね。家族や友人には恵まれたのだが」
「最強の悩みってやつだな。俺達は本当に出会いに恵まれていただけだから」
「うむ……」
最強というのは、いつだって孤独なものだ。
特に、ライオ王子や俺達のような世界トップクラスの最強は同格の相手を見つけることが難しい。
親しい友人や、良くしてくれる身内は現れるだろう。
だが、並び立てるほどの最強が隣にいてくれるモノは、本当に少ない。
俺達の世界にも、そういう人は結構いる。
アリスさんなんかが、代表格だろうか。
あの人は、それこそエージェントの世界ではおそらく最強のファイターだ。
ダークファイターに同格の敵はいても、同格の味方はどうか。
本人が第三回ファイトキングカップで言っていたことだが、最強故に、失敗を許されない立場だから失敗を恐れるようになってしまったわけだしな。
ライオ王子も、同じようなところがあるのだろう。
いや、もしかしたら――
「……私にも、かつて肩を並べる強さの仲間がいたのだけどね」
「ヤトちゃん……か」
「ははは。彼女は今、こうして火札世界のヤトとして帰ってきた。いずれ、また私に追いつくだろう」
怪盗ヤト。
かつての蒸気騎士団の中心人物。
その強さは、どうやら当時のライオ王子と並び立つほどだったのだろう。
当時のライオ王子が、まだまだ未完成な部分はあっただろうが。
「それに、彼女もな」
「……はやく、再会できるといいな」
「おっと、辛気臭い話はなしにしようか。今日はこうして、君たちと全力で戦えるのだから」
「ああ、そうだな」
他の場所ならともかく、俺の店の中でモリアーティに聞かれる心配はないだろうけど(ジャックちゃんが聞いていた場合は除く)。
あまり、踏み込んだ話をするべきではないな。
「それでどうする? 私は店長ともライオ王子とも全力でやりたいぞ!」
「それは俺もなんだが――」
「ふふ、それならいい方法がある」
俺達の言葉にライオ王子はニィ、と笑みを浮かべた。
どうやら、いい考えがあるようだ。
俺とダイアはその言葉を待ち――
「私は、二人同時でも負けはしない、まとめてかかってきたまえ」
――ほう、と視線を鋭くした。
それはなかなか、痛快な挑発だ。
というか、あまりにも完璧すぎる誘いである。
俺だってこれやりたかったな……! と思うくらいには決まっている。
カッコいい、羨ましい。
それはそれとして――
「生憎と、そういうことなら二人がかりでやらせてもらうが」
「流石に、私達を舐め過ぎだぞ?」
俺とダイアは、二人で並び立ちイグニッションフィールドに立つ。
対するライオ王子も、優雅にフィールドへやってきた。
バチバチと火花が散って、お客さんも固唾をのんでファイトの始まりを見守っていた。
「私はこの蒸気世界の王子、ライオ! 異邦人を前にして、世界の代表として負けるわけには行かない! かかってきたまえ!」
「ああ、行くぞ!」
「そうさせてもらおう!」
三人がそれぞれのボードを構え、
「イグニッション!」
声が完全に重なって、ファイトが始まった。
□□□□□
そして、
「ぐえー!」
ライオ王子は完敗した。
いやそりゃそうだよ、流石に俺達が二人がかりでやったら一人で勝てるファイターはいない。
純粋に最強が二人いるだけじゃないのだ、最強と最強が相乗効果で更に強くなってしまうのである。
最強ファイターなら、そこら中にいる。
俺とダイアはおそらく火札世界における最強ツートップだろうが、どちらが真に最強かを決めることは難しい。
勝ったり負けたりを繰り返して、その関係はきっと永遠に変わらないからだ。
だが、ことタッグファイトに関しては別。
断言しよう。
イグニッションファイトにおいて最強のタッグファイトコンビは、俺とダイアの二人だ。
少なくとも、俺達が組んだファイトで敗北したことは今の今まで一度としてない。
数十回とコンビを組んできたにもかかわらず、一度もだ。
これからも、負けることはない。
絶対に。
「……想像以上だった、挑発したかいがあったというものだ」
「やっぱりわざとやってたのか……」
「すまない、どうしても本物の”最強”を体験してみたくてな」
そして、ライオ王子は最初からわかって挑発していたようだ。
「やはり、君たちはただの最強ではない。特別な最強のようだ」
「特別な最強……か」
「ああ、運命が最強であれと道を照らす存在、それが君たちなのだろう」
「それは流石に言い過ぎさ、私だって負けることはある」
実際、ダイアは決してプロになってから常に無敗だったわけではない。
一年間無敗だったことはあっても、その次の年は普通に他のファイターもダイアを対策してきたしな。
俺だって、販促には滅法弱い。
というか、思い返すと蒸気世界に来てから俺の勝率はあまり良くない。
なんと大きなファイトに限れば一勝二敗である。
そもそもファイト機会が少ない? それはそうね。
「さて、対戦の順番を決めるのが難しい。というのであればいい方法がある。提案させてもらっても構わないかな?」
「ああ、何だ?」
「簡単さ――三つ巴なんてどうかな?」
つまり、一対一対一のバトルロイヤル。
なるほど、それならダイアともライオ王子とも全力で戦える。
「ついては、場所を変えたいと思う。構わないかな?」
「あー、今日は店番が俺だけだからな……向こうの店にエレアとメカシィがいる。どっちかに店番を頼もう」
現在、この店にいる店員は俺だけだ。
ナギサは非番、エレアとメカシィは火札本店にいる。
ちょっと席を外すだけだから、エレアかメカシィのどちらかを向こうから呼ぶだけで問題はない。
ついでに、俺達のファイトを向こうで中継すると盛り上がりそうだ。
他にも色々と細々とした話をして――
「それで、どこでファイトするんだ? ライオ王子」
「ふふ、決まっているさ。我々のような素晴らしいファイターの決戦に最もふさわしい場所――」
俺の質問に、ライオ王子は自信満々に答えた。
「我が王家が住まう、王宮以外に他はない!」
……え、それいいの!?
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