240 スパイミッションin騎士団
さて、騎士団に参加したということは、騎士団としての仕事を手伝えるということだ。
相手は悪徳貴族や悪徳警官、それから野良のクライムファイター。
どこにモリアーティが絡んでいるかわからないから、なんとも危険である。
が、しかしそもそもの問題。
俺がそういった厄介事に関わるとか、可能なので? というお話。
火札世界では、厄介事の重要度を図るために駆り出されることのある俺が?
できらぁ! とエレアは勢いよく言っていた。
ならできるのだろう。
「では、早速行くとしよう、店長殿」
「ああ」
というわけで、今回は騎士団の仕事を手伝っていた。
時刻は深夜、すでに店は閉店していて夜が開けるまで火札世界への帰還は不可能。
今回の任務はいわゆる潜入任務。
スパイミッション、というやつだ。
俺はナツメさんの合図を受けて、屋敷に侵入する。
ことの発端は、先日の騎士団参入の際にモリアーティが盗聴を仕掛けてきたという話。
この盗聴器をジョンさんがこっそり探していたわけだが、無事に発見できたらしい。
そして出元を探った結果、今から俺達が潜入する屋敷が浮上したそうな。
屋敷の主の名はヌスミギキン。
モリアーティの”耳”を支える人物らしい。
それでいいのか? 名前。
「ジョン殿がじゃみんぐを仕掛けてくれている、その間に某達が盗聴の証拠を見つけ出すのだ」
「証拠を見つけ出すだけでいいんだな」
「うむ、事前に説明した通りだな」
そのまま成敗するんじゃないか、と思わなくもないが。
まぁ、ここは色々と絡繰があるのだ。
「よっと、こんな感じか」
「なかなか様になっているな、店長殿。本当に潜入は初めてか?」
「潜入は初めてだけど、体を動かすことはそこそこ得意なつもりだよ」
人気のない屋敷の一角に、そろりと入り込む俺達。
一応警備はいるらしいのだが、基本的にやる気はないらしい。
悪の組織の下っ端ってのはどこもそんなもんだな。
そのうえで、警報の類はジャミングで使い物にならなくなっているから、直接見つかることだけ避ければいい、と。
潜入任務としては、結構難易度は低そうだ。
「こっちだ、行くぞ」
「ああ」
というわけで、進む。
さっきも言ったが、俺はトップファイターだから身体能力は高い。
それを利用して、音を殺して歩くのも問題なくできる。
とはいえ、あくまでこれは身体能力によるゴリ押し。
対するナツメさんは、非常に手慣れた様子で先に進んでいく。
ここだけ見れば、俺は必要ないんじゃないかと思うくらいには。
「む、少し待つのだ」
「どうした?」
「警備の兵だ。少し厄介だな。ここを通らなければ先に進めぬぞ」
物陰から、こっそり覗くとそこには眠そうに歩いている兵士が一人。
相手は一人なので、やろうと思えばなんとかなりそうだが……
「制圧するか?」
「いや、得策ではない。兵が戻らなければ警備しすてむにちぇっくが入る故な」
「とすると……少し屋敷のマップを見せてもらっていいか?」
「うむ? 策があるのか?」
俺は少しナツメさんからマップをもらって思案する。
うん、この構造なら行けそうだ。
「目的地に行くには、左の通路に進む必要があるんだよな?」
「うむ」
「なら、奥側にカードを配置してくる。そうしたら警備兵が気付いてカードを取りに行くだろうから、その間にナツメさんは後ろを気付かず通過してくれ」
「なんて?」
今俺達のいる場所から目的地に行くには左とまっすぐに通じている通路を左に進む必要がある。
だから俺はまっすぐ進んで、俺達のいる場所とは反対の場所にカードを設置するのだ。
「いやいやいや、それは不可能であろう。どうやってカードを設置するのだ」
「相手に認識されない速度で音を出さずに接近すれば、横をすり抜けられるんだ。やってみよう」
「は?」
というわけで、早速俺は反対側にカードを設置して戻ってきた。
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
「そんなに否定しなくても……終わったぞ、ほら向こうを見てくれ」
「ほ、本当にカードが置いてある……待ってくれ、某にすら店長殿の動きが見えなかったのだが?」
「できるものはできるんだから、しょうがないじゃないか」
さて、案の定警備の兵は俺が落としたカードに気づいてくれた。
「よし、行こう。気付かれないようにな」
「……どうしてアレで引っかかると店長殿は確信しているのだ? 怪しいだろう、アレ」
「怪しくても、ああいう連中は絶対にカードを取りに行くんだよ……下っ端の悲しい性だ」
こういうトラップは、火札世界では結構使われるトラップだ。
ギャグ系悪の組織の下っ端に使うと効果てきめん。
なんなら、籠と棒で罠を張る時もある。
というわけで俺達は兵を突破して先に進むのだった。
ナツメさんは、これでいいのかなぁと首をかしげていたが。
さて、証拠は金庫に入っているものだ。
そしてカード世界でそういった金庫には防衛システムとしてあるものが使用されている場合が多い。
「ようやく金庫についたな」
「うむ……やはり、”詰めファイト”で守られているな。店長殿、早速だが力を貸してくれ」
そう、詰めファイトだ。
最初に提示されたカードだけを使って、相手のライフを削り切る詰将棋の一種。
この世界では、主にこういう防衛システムで使用される事が多い。
それでいいのか、防衛システム。
で、俺の役割のメインはこの詰めファイトを解くことだ。
わざわざ素人の俺を連れてきたのは、詰めファイトで少しでも意見を出すものを増やすためだ。
こういうリドルは、一人でドツボにはまると永遠に解けなくなるからな。
しかも、大抵の場合何度も失敗すると警備にバレる。
「まず、先に行っておくがヌスミギキンは強敵だ。何と言っても、モリアーティの諜報を司っているのだから」
「ああ、流石に俺もここまで順調だと、ここが一番厄介だとおもっているよ」
「うむ。そんなヌスミギキンが、わざわざこんな手ぬるい警備で済ませているのは――この防衛しすてむに絶対の自信を持っているからだ」
つまり、この詰めファイトがよっぽど難易度が高いからだ。
本当ならショルメさんが出る予定だったのが、同時期にジャック・ザ・リッパーの洗脳騒ぎが発生して急遽来れなくなったため、俺が出張ってきたわけ。
言うまでもないが、狙ってやってるよな。
こちらの侵入を予測した上で、それでもなお警備をこの程度にしているということだ。
「では、始めるぞ」
「ああ」
ごくり、と喉を鳴らす。
俺はこう見えて、そこそこ詰めファイトを嗜むほうだ。
ファイトと名のつくものなら何でも最低限嗜むだけといえばそれまでなのだが。
だからこそ、超高難易度詰めファイトに、不謹慎ながら興奮を隠せないわけだ。
そして、俺の眼の前に出現した詰めファイトの画面。
蒸気世界の詰めファイトは2つのスチームボードが展開され、それぞれにカードが配置されている。
これを実際に動かして、問いていくらしい。
どれどれ? と俺は早速カードのエフェクトを確認した。
結果――
「あー…………」
思わず、脱力してしまった。
「むむ、どうしたのであるかな、店長殿」
「いや、これ……なんていうか、アレなんだ」
いや、だって、ほら。
アレなんだよ、こう――
「類題が……火札世界に存在するんだ」
カードのエフェクトを見た時点で、なんとなく察しがついてしまった。
これはアレだ、火札世界においても似たような問題が存在する難題だ。
何でも、初代ファイトキングカップでファイトキングが手慰みにノートに書き残した問題らしい。
それ以来、数十年近くこの問題を解くことのできるファイターは現れなかったのだが――
「……それを世界で初めて解いたのが、俺とダイアでな」
「ああー……」
というわけで、この問題の答えを俺はバッチリ把握しているわけである。
作ったのは……多分モリアーティだろうなぁ。
いや、あの初代ファイトキングと同じ難題を作れる当たり、さすがは悪の帝王ってところなんだが。
というわけで、無事に詰めファイトは解決。
証拠を手に入れることに成功するのだった。
いや、途中で少し変形があったり、ちょっと意地の悪いトラップもあったりしたんだけど。
一度全部自分で解いたことがあると、問題の構造が全部解っちゃうからなぁ。
こればかりはしょうがない。
もし俺が類題を作るとしたら、もう少し難しくしよう、うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます