238 いたいけな少年のアレが心配 ①
さて、とりあえず色々と話し合ったが、目下の課題はジャック・ザ・リッパーの発見だ。
ぶっちゃけジャックちゃんの別人格だと思うのだが、別人格である以上表に出てこなければどうにもできないだろう。
ショルメさんにもカードを渡すフリをして伝えたら。
『表にジャック・ザ・リッパーを引きずり出すまでは様子見で頼む』
とこれまたカードで言われた。
ようするに、証拠がないから推測だけで指摘されても躱されるし警戒される、証拠を掴むまで黙っておいてくれという話。
名探偵の、今はまだ語るべきときではないを実感した瞬間である。
他にも色々とショルメさんから明かされた事実があるのだが、どれもなかなかヘビーな事実だった。
主にレンさんとハクさん、それからヤトちゃんに関わることだが。
本人が真実にたどり着いてほしいということで、こちらもまだまだ秘密って感じだ。
それはそれとして。
俺も色々とジャック・ザ・リッパーに関しての調査をしようと思って行動している。
単純に、俺なら敵の親玉とぶつかることもないし、多少危険なことをしても安全だからだ。
というわけで、今はジャックちゃんが住んでいるという廃材置き場にやってきていた。
「別に、エレアまで来る必要なかったのに」
「年齢不詳の小柄美少女、私はとても警戒しています!」
「いやいやいや、どう考えても子供だろ。それとキャラは被ってないからな?」
そんな俺の調査だが、なぜかエレアが同行していた。
本人の言葉通り、ジャックちゃんをキャラ被りが原因で警戒しているらしい。
「なんでそんな事を言うんですか! 無口無表情美少女として、私は悲しく思います!」
「鏡っているか?」
「ムキー! 店長すらそんなふうに言うなんて!」
そして、その警戒は無駄だと全員から否定されているエレアである。
とはいえエレアは本当にキャラが被っていないので、ここは根気強く否定するしかない。
もしくはファイトで決着をつけるか、だな。
「で、ここがジャックちゃんのハウスですね!」
「今は……いないみたいだな」
さて、ジャックちゃんは現在出かけているようだ。
こちらを警戒しているのか、はたまた偶然なのかはなんとも言えない。
別に、ジャックちゃん自身は普通にショップへ遊びに来ているからな。
と、そこへ――
「あ、店長さん!」
「ログ少年か、こんにちわ」
「こんにちわー、この間はご迷惑をおかけしました」
ログ少年が声をかけてきた。
先日、洗脳されてクライムファイターにされてしまっていたが、現在はこうして元気である。
ただ洗脳されているだけの人を、普通は捕まえたりしないからな。
まぁ、この世界は警察機構が敵側なので、理不尽に捕まえられることもかつてはあったらしいが。
今はその警察機構が弱体化していてその心配はない、とのことだ。
とはいえ同時に、色々と思うところはあるわけだが。
まぁ、俺は積極的に口出しをしないと決めている。
今はログ少年とは通りに接しよう。
「そっちも元気そうでなによりだよ」
「今日はどうしたんですか?」
「ちょっとジャックちゃんに会えないか、と思ってな」
「思いまして!」
用件を伝えた俺のよこで、なにやら威嚇するポーズのエレア。
荒ぶる鷹のポーズだ、何年前のネタだよ。
この世界には存在しない? まぁ、そうね。
「あはは……えっと、ジャックちゃんはでかけてる……みたいですね?」
「まぁ、見ての通りだな。ログ少年も知らないか」
「いえ……最近は、一人でどこかに出かけていることも多いみたいで」
具体的には、ログ少年が洗脳された頃からジャックちゃんはどこかへ出かけることも多くなったらしい。
行き先は、誰も知らないとのこと。
本人には聞いてないそうだ、まぁプライベートだからな。
「そういうことなら、どうします?」
「ふむ、まぁいないならしょうがないな。また今度の機会――」
と、そこで俺は視線をログ少年に向ける。
いつもの人の良い笑み。
だけど、どこか影があるな。
よし、決めた。
「――ということで、今日はログ少年と話をしよう」
「えっ!? ボクですか?」
「ああ、なにか悩んでるみたいだからな」
「わわ、出ましたね店長の人生相談! いつものやつです!」
いつものやつ言うな。
まぁ、毎日のように誰かの悩みを解決してるからな。
正確には背中を押してるだけだが。
「え、ええっと……そうですねぇ」
「何を悩んでるんだい? 見た感じ、先日の事件のことではなさそうだけど……」
「あ、えっと……無関係ではない、感じです」
「だろうね」
ログ少年は、先日の事件のことをそこまで思い悩んでいるわけではないみたいだ。
なにせ、別に被害がでたわけではない。
ログ少年が洗脳されたのは、俺達の前に現れる本当に直前のことで。
たまたま近くにいたから丁度いい、とジャック・ザ・リッパーが洗脳した感じだからだ。
流石にそれで、深く悩めというのも無茶な話。
多少は気にしているようだけど、しばらくすれば気にならなくなるだろう。
「あ、あの……店長さん、僕とファイトしてもらえませんか!?」
「俺と?」
「は、はい! あの後……色々おもうことがあって、デッキを強化したんです」
「そういうことなら――」
と、そこで。
びし、とエレアが手を上げた。
「はい! はいはいはい! 私がやります!」
「急にどうしたんだ、エレア」
「目立ちたいからです! 勝って店長に褒めてもらいたいからです! なんかやる気だからです!」
「じゃあ、やってみるか」
理由としてはともかく、やる気があるのはいいことだ。
ログ少年も問題ないということで、早速ファイトが始まった。
「イ、イグニッション!」
「イグニッションです!」
□□□□□
「ぼ、僕は<チームボロッツ 木彫りナイト>で攻撃!」
「わ、私の<暴虐皇帝>がー! ですが、ここからです!」
ファイトは一進一退。
その中で、少し気になることがあるとすればログ少年の新モンスター。
これまでの『チームボロッツ』は少しボロボロな廃材の戦士という感じだった。
この<木彫りナイト>はその意匠を受け継ぎつつ、少しフォルムが洗練されている。
なんというか、ツルツルしてるんだろうな。
どういう意味があるのだろう。
デッキを強化した、とはいっていたが。
「では反撃です! 私のターン!」
「は、はい!」
「私が呼び出すのは……私!」
かくして、エレアはさらなるモンスターを呼び出す。
呼び出したのは――
「行きます! <帝国の尖兵 エクレルール-
完全武装のエレアだ。
なんとなく、普段より視線が鋭く感情を感じられない表情をしている。
もしかしてジャックちゃんに対抗しているのか?
「わ、わあ……エレアさんって、モンスターだったんですね」
「ふふふ、その通り! それを言ったらログくんだってそうですが、まぁとにかく行きますよ!」
<エレア完全武装>と、<木彫りナイト>が激突。
エレアが勝利し、ターンを終えた。
「……やっぱり、異世界の人たちはすごいです。僕も、店長さんやエレアさんみたいになりたいです」
「ふっふーん、その意気やヨシ! ですが勝つのは私ですよ!」
「ま、負けません! 僕のターン!」
そして、ログ少年が動く。
彼もまた、新たなエースをサモンするのだ!
「行きます! これは僕が、あのファイトで学んだ強さ!」
「……ん?」
あのファイトって……この間の洗脳ファイト!?
え、アレで何を学んだの!?
「行きます! <チームボロッツ 操縦士ガール>! サモン!」
現れたのは、一言で言えばエレア完全武装みたいな感じの少女だった。
こう、ぴっちりしたパイスーを着ている。
ちょっと廃材混じりな機械の体の、パイスーメカ少女――!
「て、店長……!」
「気づいたんです、こういう衣装の異世界の人は……強いって!」
「このコ……将来有望ですよ!?」
ちょっとまって!?
いや、色々と学んじゃいけないことを学んでしまっているのは置いておいて。
エレアはメカ少女に興奮するんじゃありません!
とにかく、アレだ。
いたいけな少年の性癖が心配だ――!
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