237 カードで会話はファイターの必須能力です

 その後、別に数千万のカードなど大して高額ではないではないか、とレンさんが主張したり。

 ナギサがじゃあ俺が生成すればいいじゃないかといいだして、それもそうだとやろうとしたらレンさんに止められたり。

 色々あったものの、なんだかんだ落ち着いて話は本題に戻る。


「まず、現在の蒸気騎士団はモリアーティ率いるクライムファイターと争っている状態にあるのだ」

「そうだったんだ……」


 騎士団の中では表の身分が一番えらい、ライオ王子の言葉にナギサが心底驚いた様子で返す。

 いやお前は元から騎士団だろうが。

 加わったばかりだから事情は知らない? まぁそうだね。

 隣でナツメさんも頷いているので、この二人は俺達と同じで話を聞く側の人間だな。


「貴族や警察はモリアーティの手の内にある。王家は私を始め騎士団側の人間も多いがどこに手のものがいるか分からん」

「大分危うい感じなのね……」


 まぁ、カードゲームアニメならよくあることだ。

 少なくとも、王家の人間が概ね騎士団側って時点で若干マシまである。


「何よりも厄介なのが……奴の手がどこまで及んでいるか、我々には推し量りきれないというところだ」

「探偵の民が推理すればよいではないか」

「ボクとモリアーティの頭のキレは全く同じと言っていい。その状態で純粋な戦力が向こうに偏っていると、どうしても後手に回ってしまうのさ」


 お手上げだよ、とショルメさんは肩を竦める。

 なるほど、他にはショルメさん達は防衛のために常に気を張っていなければいけないのに、向こうはただ攻撃するだけでいいという違いもあるだろう。

 何にしても、相手は厄介な手合だ。


「とにかく戦力が足りないから、俺達の力を借りたいってことか?」

「そんなところさ。実際、君たちの実力は良く知っている。その力が借りられるなら百人力ってところかな」


 無論、嫌なんてことはない。

 困っている人を放ってはおけないし、なによりヤトちゃんやレンさんにとって今回の一件は無関係な事件ではない。

 というか、そういうことであれば他にも色々と聞かなければならないことがあるのだが――


「さて! お互いにまだまだ聞きたいことはあるだろうし、こうして腹を割って話すのは初めてのことだ。ここは一つ、アイスブレイクということでファイトの一つでもしないかい?」

「ファイトですか?」

「そう、――ヤト。お願いしてもいいかな?」

「私?」


 そこで、ショルメさんがファイトを申し込んできた。

 困惑している様子のヤトちゃんは、ハクさんと視線を合わせてお互いに肩をすくめている。

 対する俺は、レンさんの方へ視線を向けた。

 こちらは俺と同じく、ショルメさんの狙いを理解している感じだ。


「いいのではないか、夜刀神。こちらの世界に来てから、探偵の民とは一度もファイトをしていなかっただろう」

「……そういえばそうかも。なんとなく、何度もファイトをした気になってたわ」


 なんか、久々にレンさんがヤトちゃんをコードネームで呼んでいるところを見たな。

 ライオ王子が、夜刀神とはなんだ? と首をかしげているぞ。


「丁度いい機会だからね、ささ、やろう。実はこのテーブル、ファイト用のテーブルでもあるんだ」

「それはいいわね。仲間内でテーブルを囲んでファイトすると、楽しそう」

「……ああ、楽しいよ。本当に」


 少しだけ懐かしそうに目を細めつつ。

 ショルメさんはデッキをテーブルにおいた。

 ヤトちゃんも、同じようにして――


「イグニッション」

「イグニッションよ」


 二人はファイトを始めた。

 ――このファイトにおいて、俺とレンさんが注目すべきはショルメさんが使用するカード。

 先行はショルメさんだ。


「ではボクは、<蒸気騎士団の探索者ディティクティブ・パンクナイツ ボンド>をサモン」


 やはり、ショルメさんはこのファイトで俺達にメッセージを残そうとしている。

 この世界において、ファイトにメッセージを込めるというのは一般的なことだ。

 架空ファイトにおいて、使用するカードの文脈を読み取るのと同じように。

 今回の場合も、読み取るべきメッセージがあるのだ。


 曰く、”この会話はモリアーティに聞かれている”。

 わざわざ探偵としては異端……というか、含めていいのかなんとも言えないジェームズ・ボンドをサモンしたのは、そういう理由だ。

 続けて――


「更に、<蒸気騎士団の錬金スコープ>を発動。その効果でデッキから『蒸気騎士団の錬金術師』モンスターを手札に加える。今回は<蒸気騎士団の錬金術師 スチーム・ジョン>だ」


 ここから読み取れるのは”ジョンさんはモリアーティが盗聴に使用しているアイテムを探している”という意味。

 道理で、先程からジョンさんが喋らないわけだ。

 ナツメさんやナギサと違って、事情を知っているはずなのに。

 そちらに意識を向けているということだろう。


「多彩な蒸気騎士団を使うのね……」

「ふふふ、今回は特別だからね」


 とはいえ、そういったカードのメッセージを読み取れるのは一部のトップファイターだけ。

 そしてファイターによって解釈が分かれるので、後でレンさんとはすり合わせ必須だ。

 後は単純に、そもそもメッセージ性のないカードも普通に混じっているので、誤解が発生したりもする。

 ファイトという体で進んでいくんだから、当然と言えば当然だけどね。


「これでターンエンドよ」

「ではボクのターンだ」


 ヤトちゃんの猛攻を捌き切って、ショルメさんが再びターンを迎える。

 ここから、更に色々とメッセージを送ってくることだろう。

 集中しなければ。

 そうして、最大限に集中した俺の意識が――


「ではボクは、<蒸気騎士団進出パンクナイツ・アッセンブル>を発動」



 そのカードの使用を見た瞬間、加速度的に一つの答えを導き出す!



 さながらそれは、遊星が展開ルートを思いついた時のような感覚!

 説明してしまうと負けフラグなので説明は省くが、これは……そういうことなのか!?


「続いてボクは――」


 こ、このカードは!?

 まさか、蒸気世界にそんな秘密があったなんて!?


「更にこのカードを――」


 な、なんてことだ……モリアーティの正体がそんなとんでもない存在だなんて……!

 しかも、ショルメさんはまだ止まらない!


「そしてボクは<蒸気騎士団の探索者 エルロック>で――」


 そ、そういうことだったのかー!

 見える、俺にはこの世界の真実が見える!

 見えるぞおおおおお!


「――民? 天の民?」

「はっ」


 お、俺は一体何を……

 今、色々と見えたらまずいネタバレを全部見てしまったような気がする。

 若干記憶がおぼろげになってしまっているけれど……それでも、確かにわかったことがある。

 早くこの事を、皆に伝えなければ。

 いや、まずは蒸気世界を出てからだな、どこで誰が聞いているかもわからない。

 モリアーティの”特性”を考えれば火札世界までは手を伸ばしていないはずだ。

 というかそうか……やっぱりモリアーティの正体は彼だったのか……


 なんて俺が俺じゃなかったら帰る前に死にそうなことを考えているうちに。


「……ショルメって、私とファイトするとそんなに楽しそうな顔をするのね」

「そうだね」


 ヤトちゃんが、ショルメさんと話をしている。

 その表情は真剣そのものだ。

 この状況に水を差すのも悪いし、一旦俺が見たものは脇に置いておこう。


「……私は、<怪盗ヤト>じゃないわよ?」

「解っているさ。だからこれは、ボクの勝手な感傷さ」

「なら、いいけど」


 これまで、色々と俺達に良くしてくれたショルメさん。

 その献身の理由を”勝手な感傷”で済ませてしまうこと。

 それをなら、いいと済ませるヤトちゃんの感情。

 どちらも、色々とぎこちなさがまだまだあるな。

 わざわざ迂遠な方法で”挨拶”に来てくれるショルメさんの感情が、軽いものであるはずはないんだが。

 とはいえ、それに関してはこれから解決するべきことだ。

 そして俺は、あくまでアドバイス以上の事をするべきではない問題でもある。

 ままならないものだな。


「……私は<無双の蒸気騎士団 エンシェント・アリアン>で攻撃」

「そ、そのカードはちょっとずるくないかなぁ?」

「使えるものは使う主義よ! ……私の勝ちね」

「そうだね、ボクの負けだ」


 そしてファイトは、ヤトちゃんの勝利で終わった。

 いやぁ、<エンシェント・アリアン>の効果はちょっとズルじゃない?

 なんでこっちを見るんだい、レンさん。

 俺は何もしてないよ。


 なお、後日レンさんにあのファイトで送られたメッセージについて話し合ったけど。

 俺の見た真実は鼻で笑われてしまった。

 いやでも、本当だと思うんだけどなぁ。

 エッフェル塔ロボとカリオストロ・エンジンの大決戦。

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