236 蒸気騎士団へようこそ
衝撃の真実がジャンジャジャーンして、俺達は蒸気騎士団の面々と合流した。
蒸気騎士団といえば、この世界を守る正義の味方。
そんな集団と合流したということは、いよいよ俺達もこの世界の大事件に関わるということ。
モリアーティの存在が明かされたのも大きい。
探偵ホームズの宿敵――この世界では、何故かショルメになっているけれど――にして、悪の帝王。
この時代を彩る二大ヴィランといえばモリアーティとジャック・ザ・リッパーみたいなところがある。
まさに勢揃いだな。
「それで、私達はこれからどうすればいいんでしょう」
「まずはボク達の基地に来てもらえるかな? 多分、一日をこっちで過ごすことになるから店の戸締まりと連絡は忘れずに」
真面目な状況ではあるものの、モリアーティが去ったことで状況は落ち着いている。
緊迫した状況で、ファイトの必要があるならともかく。
冷静になると、そのままでいるのは恥ずかしいのだろう。
月兎仮面への変身を解除して、ハクさんはショルメさんへ問いかけた。
どうでもいいけど、月兎仮面の衣装は不思議なパワーで瞬時に着脱が可能なんだよな。
恐ろしい。
「緊縛!?」
「落ち着いて姉さん」
違うから、緊迫だから。
人の思考を読まないで頂きたい。
ともかく、ショルメさんいわくこれから説明をするので時間を作ってほしいとのこと。
ハクさんとヤトちゃんは家族が彼女たちしかいないから、保護者に連絡したりする必要はない。
俺も、一旦店に戻ってエレアへ連絡してから、店を閉めれば問題ないだろう。
「んじゃ、悪いが手伝ってもらっていいか、ナギサ」
「はいはーい、お任せあれ。非番だけど、せっかくだしね」
「美味いもんでも、今度奢るよ」
というわけで、蒸気世界支店の店員であるナギサにも手伝ってもらって、店を閉める。
ついでにエレアへ連絡したわけだが、
『今日はキアちゃんの生配信があるので、ちょうどよかったです』
とのこと。
薄情な恋人だ。
「さて、こんなもんでいいかな」
「こっちは問題ないと思うよー」
店の入口の看板を『Closed』にして、準備は完了。
時刻も21時をちょうど回ったところだ。
これ以降、店舗の中に入っても裏口から外に出ることができなくなる。
若干大丈夫かなー、と思わなくもないが。
まぁ、この世界は割と何でもありだ、問題が起こってもファイトが解決してくれるだろう。
「で、基地っていうのはどこにあるんだ?」
「ふふふ、来てくれたまえ」
そう言って、ショルメさんは俺達を案内する。
たどり着いたのは――ジョンさんのお店だった。
こちらも閉店しており、人の気配はない。
鍵を開けて中に入り、暗い店内を進む。
そして、倉庫の中まで行くと、なにやら大きなパイプがあった。
「ここに飛び込むのさ」
「おおー」
何やら自慢げなショルメさん、ヤトちゃんが感心した様子で拍手している。
ショルメさんの年相応なところを初めて見た気がする。
蒸気騎士団の大人たちも、何やら微笑ましげに二人を見ていた。
気付いたショルメさんがこほん、と咳払いして。
「では、先に行っているよ」
パイプに飛び込んでいく、滑り台みたいな感じの奴だな、これは。
他の蒸気騎士団メンバーも飛び込んで、ヤトちゃんとハクさんも頷きあってから飛び込む。
最後が俺か、なんとなく流れを見守っていたら当然のようにそうなったけど。
ともあれ、別にためらうことでもないから俺も飛び込んだ。
パイプの滑り台は結構な長さがあり、時折蒸気が吹き出したりしている。
熱くはない。
で、最終的に俺達がたどり着いた終着点は――
「ひ、秘密のアジトだわ!」
先にたどり着いたヤトちゃんの言葉が、すべてを表していた。
ちょっと古ぼけた壁、雑多に置かれた小物。
中央には少しボロいソファと机。
部屋に置かれているすべてのものが、秘密のアジトという表現がピッタリとハマる雰囲気を作り出していた。
強いて言うなら、騎士団というより蒸気団って感じの組織のアジトだ。
とはいえ、凄まじく雰囲気がいいのは間違いない。
長い時間をかけて、騎士団の団員が丁寧にここを使ってきたことが感じられる。
で、そんな騎士団のソファに――
「――ようやく来たか、待ちわびたぞ」
レンさんが座っていた。
「あれ、どうしてレンさんがここに?」
「ふん、夕餉を終え床につこうと私室の扉を開けたら、ここにつながっていたのだ。まったく、これでは我の睡眠時間が確保できぬ!」
「ああ、それでパジャマ姿なのね」
兎のフードが印象的な、ふわもこパジャマである。
ネグリジェとかじゃないんだ……いやまぁ、レンさんはこっちのほうが似合うよな。
「おい天の民、我は子供らしい衣装の方が似合う、みたいなことを考えていないか?」
「いやいやそんなことは……あるけど」
「その喧嘩、買うぞ! そこに直れ!」
「ごめんて」
自分で言ってなんだけど、ここでファイトを始めたら収拾がつかなくなるから。
ふん、とレンさんも冗談はここまでにして、ショルメさんへ本題を促した。
「探偵の民、話をするのであれば、早くしてくれ。我は眠いのだ」
「おっとそれは失礼。であればそうだね、まずは蒸気騎士団へようこそ」
そう言って、恭しく一礼するショルメさん。
そしていつの間に用意したのか、全員分の紅茶を淹れたナギサがカップを俺達に差し出してきた。
一つ礼を言って、口に含む。
うむ、美味しい。
やはり蒸気世界の紅茶は美味いな。
全員で席について、ショルメさんの言葉を待った。
「まず、君たちをここに呼んだ理由だけど、一つは時が来たから……という答えになるかな」
「ジャック・ザ・リッパーと俺達が接触したから、か」
「ボクたちがジャック・ザ・リッパーと接触したから、でもあるけどね。あいつは慎重でね。これまで尻尾を全く掴めていなかったのさ」
何にせよ、状況が進展したから呼ぶことができるようになった感じだろう。
「そしてもう一つは、レンさんとハクさん……だったね? 二人がこちらの世界に”自力で”やってきたからさ」
「火札世界から、蒸気世界への転移は自力で起こすものなのね」
自力でやってくることは、すなわち合図でもあったのだろう。
レンさんは元からこの世界に、俺の店を通してやってきていたけど。
それはあくまで、他の人間と同じようにトンネルを通ってきたにすぎない。
自力での転移を果たしてこそ、なんか資格みたいなものを満たせる感じなんだろう、きっと。
「アレ、私は自力で転移してないけど、いいの?」
「ヤトはそもそも、<怪盗ヤト>を手に入れた時点で何ら問題はないよ」
ふむ、<怪盗ヤト>を手に入れたヤトちゃんが問題ないってことは、十中八九騎士団絡み。
考えられることは――
「結論から言おう。レンさん、ハクさん、それから店長。三人は蒸気騎士団の入団資格を満たしたんだ」
「入団資格? なんだそれは」
「蒸気世界と繋がりをもつこと、さ。ハクさんの場合は少し特殊で、妹のヤトが<怪盗ヤト>を取り戻したから、っていう理由だけどね」
はてなマークを浮かべるレンさんに、端的な答えが返ってきた。
なるほど、こっちの世界に転移してすぐに色々と事情を話さなかったのは、これが原因か。
俺達が蒸気騎士団の資格を満たすのを待ってから、色々と話したかったんだろう。
「というわけで早速だが、三人には入団の証として<蒸気騎士団>のカードを贈りたいと思う」
「お、おお? いいのか? つまりアレだよな? <怪盗ヤト>みたいなカードがもらえるのか」
「て、天の民のカード……!? や、やめておけ。とんでもないことになるぞ!?」
「レンさんは俺を何だと思ってるんだよ」
そう言って、ハクさんとヤトちゃんに同意を求めたが、視線を逸らされた。
二人は俺を何だと思ってるんだよ。
「ま、まぁとにかくだ。デッキケースをみたまえ。光を帯びているだろう?」
「……俺は何も光ってないが」
「代わりに私のデッキケースが光ってるわね」
ハクさんとレンさん、それからヤトちゃんが光っているデッキケースを手に取る。
俺は光ってないんだが?
「どれどれ? 我は……<蒸気騎士団 守護者レン>! うむ!」
「私は……<蒸気騎士団 仮面ハク>です」
「痴女じゃなかった、セーフよ!」
嬉しそうなレンさんと、なんだか寂しそうなハクさん。
ダメですからね? 痴女は色々とまずいですからね?
それはそれとして、俺のカードは何故かヤトちゃんが持っているらしい。
光っているカードを取り出してみると――
「……<アリアン>が蒸気騎士団になってるわ」
――手にしたカードは、<ドリーマーナイツ・アリアン>が変化したカードだった。
<
え、このカード俺のそっくりさんカードだったの!?
<帝国革命の開拓者>みたいな!?
なんて、俺とヤトちゃんがやいのやいのしている横で――
「はぐっ!」
ハクさんがダメージを受けていた。
何故? と視線を向けると――
「しゅうしぇんまんえんするカードが……カードが……」
<アリアン>が変化してしまったことに、ショックを受けているようだった。
まあうん、<アリアン>って滅茶苦茶高額なレアカードだもんね……
「あ、<アリアン>ってそんなレアカードだったのね……」
そしてそれを聞いて、初めて<ドリーマーナイツ・アリアン>の価格を知ったヤトちゃんも、その事実に戦慄していた。
……軽く査定した限りだと、<エンシェント・アリアン>が買い取り億超えしそうなことは黙っておこう。
手放すカードじゃないしね……
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