235 夜にあの人の花は咲いちゃった ②
イグニッションの掛け声とともに、痴女と操られてしまった結果変態になってしまったログ少年のファイトが始まる。
それと同時に、周囲にダークファイト独特の異様な気配が広がり、このファイトが命がけのファイトであることをいやでも理解させられた。
嫌だなあ、負けると服を切り裂かれるダークファイト。
この世界だとクライムファイトだったか。
「姉さん、なんだか前より強くなってるみたい」
「世界大会がいい経験になっているみたいだな」
ファイトは、終始ハクさん優勢で進んでいく。
単純に実力差があるのだ。
ぶっちゃけ、ここから悪魔の……クライムカードによる反撃が待っているだろうが。
それを踏み越えていけるくらいの実力差だな。
強くなったハクさんのお披露目ファイトって感じだ。
「ふふ、わかりますか二人とも」
「ええ」
「私は世界大会で、一つの大きな経験をしました。結果、以前よりも強くなったのです!」
解説が始まったぞ!
回想とか入るやつだ!
「世界大会で、私は常にあることをしていました」
「……あること?」
いや、結論はすぐに出そうだ。
よかった、長い回想でいい加減にしろって言われる心配はないんだ……
ともあれ、ハクさんのしていたこととは……?
「それは……」
「それは……?」
…………
広がる沈黙。
「それは!」
「姉さん早くして!」
「ごめんなさい!」
それは! で尺を取るんじゃありません。
ヤトちゃんはキレた。
気を取り直して、咳払いしてからハクさんは宣言する。
「それは……我慢、です」
ヤトちゃんの目は死んだ。
そんなご無体な……
いや解るよ、解りますよ?
「フラストレーションと、その解放が……私を強くしたのです!」
「姉さん!!」
「今、私は誰よりも解放的なのです!!!」
「姉さん!!!!」
なんだか操られたログ少年そっちのけで、盛り上がってらっしゃる。
若干申し訳ない気持ちで、ログ少年を見た。
洗脳された顔で、謎のハサミをシャキシャキさせていた。
ああうん、これは早く解放してあげないと。
いや、ハクさんの服を、ではなくね?
「ハクさん、そろそろ」
「こほん! では参ります! 私は<伝説の仮面道化 ヴォーパル・バニー>で攻撃!」
かくしてファイトは再開した。
ごたついてはいるものの、それはあくまでハクさんのテンションの話。
ファイト自体は、やはりかなり順調である。
「我慢だとか、そういうアホはさておいて。強さは本物ね、姉さん」
「そうだな。全力のネッカ少年でも勝てるかどうか……いや、月兎仮面に負ける全力のネッカ少年は、絶対に見たくないから勝ってほしい」
「そうね……私も、勝てるかしら」
今のヤトちゃんもまた、絶好調だ。
先日ついに<怪盗ヤト>を取り戻し、『蒸気騎士団』デッキは一旦の完成を見た。
間違いなく強くはなっている。
だが、今のハクさんには異様な雰囲気がある。
世界大会で負けたとは言え、それはあくまで本領を発揮しきっていない状態。
なんというか、強くなるためにギプスをする修行をして。
世界大会を終えたことでそのギプスを外し、成長を実感しているような感じだ。
ギプスイコール露出なのはさておいて。
「ですが、ボクだって負けていませんよおおお!」
「……来ますか!」
「来てください、<マッドストリッパー・ガラクタシザース>!」
今のログ少年は、『チームボロッツ』と『マッドストリッパー』というモンスターの混成デッキだ。
他の『マッドストリッパー』は『チームボロッツ』とシナジーを持たないが。
この廃材を組み合わせて作られたハサミを操る巨人は、エフェクトとして『チームボロッツ』として扱う効果がある。
それによって、シナジーの薄い混ぜものを強引に成立させているのだ。
「それにしても、『マッドストリッパー』……か」
「心当たりがあるの?」
「心当たりというか……いや一応言及は避けておこう、多分今回で確定するし」
やっぱジャックちゃんが黒幕だよなー、マッドがついてる辺り別人格説も濃厚だよなーと思いつつ。
ここで勝てば黒幕が正体を現すだろうと読んで、とりあえず黙っておく。
こういうのって、正体を現すまでに気付いても黒幕にカードにされて口封じされるか、信じてもらえない場合がほとんどだからな。
あいにく前者の経験は今のところないのだけど。
なんというか、仮に気付いても襲ってくるのが木っ端だけなんだよな。
そしてそれを退治しているうちに事件が大きく進展して伝える意味がなくなっている。
もしくは、いつの間にか事件の話を聞かなくなって何だったんだあれ……となる。
どっちにしろ、結果は同じだな。
さて、そろそろ決着が付きそうだ。
「――私は、気づきました。露出とは、服を着るということなんです!」
「な、何を言っているんですかぁ!」
「人は、恥部を隠すために服を着ます、それはそこが恥部であるということを理解している証! 誰しもが、羞恥心という恥部を常に身につけているのと同じ!」
「マジで何言ってるかわからないな」
どういうこと???
「服を着なければならないという常識が、服を脱ぐという露出を作るのです! 服がなければ、露出は成立しません!」
「それはまぁ、そうね。言っていることはともかく、道理ではあるわ」
「なので私は服を着て、脱ぎます! これはすなわち、二重に露出しているということ!」
そしてハクさんは――
「今の私は、かつての二倍つよい! <仮面道化 ルナティック・ヴォーパル・バニー>を、二体同時サモン!」
最終エースを、二体もサモンしてしまった。
なるほど二倍。
「わけがわからないわ……」
「ハクさんが強くなったことしかわからん……」
「ボクは何とファイトさせられているんですかぁ……」
三人が――何故か操られているログ少年すら――頭を抱える中。
ハクさんが<ルナティック・ヴォーパル・バニー>で攻撃。
ファイトは終了した。
□□□□□
その後、ログ少年からクライムカードが抜け落ちて、自分をジャック・ザ・リッパーと名乗った。
声がジャックちゃんを加工した感じだった。
口調が男っぽいので、予想はだいたい当たってそうだった。
ログ少年はあくまで操られただけである、近くにいる人物だったとはいえなぜログ少年なのかは気になるが。
とはいえ、問題はここから。
クライムカードが、ヤトちゃんを乗っ取ろうと襲いかかったのである。
その瞬間!
「そこまでだ!」
暗闇から響く声。
襲いかかったクライムカードを、飛んできた一枚のカードが防ぐ。
そのカードは――<蒸気騎士団 探偵ショルメ>!
「――それ以上、ヤトにおかしなことをするな」
『チィ……やはりでてきたか、蒸気騎士団!』
いや、そこにいるのはショルメさんだけではない。
「やれやれ、まさかこんなところで全員集合するとはのう」
「そういいなさるな、ご老人。これもいい機会なのでしょう」
古ぼけた量産機に乗り込んだジョンさんと、その横で大正モダンな衣装のナツメさん。
「ハッハッハ! 今宵はリチャードも高らかに吠えている! なぁ、ナギサくん!」
「あっはは……なんか、こうして全員集合に交じると場違い感つよいな……」
イラスト通りのデザインの獅子心王リチャードに乗り込んだライオ王子と、そういえば蒸気騎士団所属になったらしいナギサ。
五人の蒸気騎士団が、その場に集まっている。
ちなみに、ヤトちゃんは彼ら以外の蒸気騎士団カードを持っているが、現在はこの五人が正式メンバーだそうな。
それ以外のメンバーは過去のメンバーだったりするらしい。
「……現行の蒸気騎士団メンバーが全員集合って、なんかヤな予感がするわね」
「正解だ、ヤト。このジャック・ザ・リッパーはタダのクライムカードではない」
ショルメさんが、ジャック・ザ・リッパーを睨む。
くくく、と笑ってみせるジャック・ザ・リッパー。
「こいつの主人は、かつて蒸気世界を滅亡寸前まで追い詰め、ヤトの犠牲によって退けられた悪の帝王――」
――ヤトちゃんの犠牲、か。
少し気になるワードもあるが、今はそれどころではない。
「――モリアーティの手先だ」
モリアーティ。
誰もがよく知る、英国探偵の宿敵。
この世界においても、ショルメさん達蒸気騎士団の前に立ちはだかっていたのか。
個人的には、色々と気になることが多い。
ヤトちゃんの過去。
モリアーティの存在。
どうしてショルメさんはショルメさんなのにモリアーティはそのままなのか。
そして何より――
この、敵と味方が勢揃いした空間に、俺とハクさんがいていいのかという疑問が俺の中では渦巻いていた――
いや、ハクさんはいいんだけど、月兎仮面なのがさ……
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