EX4 デートと言えば、遊園地 ②

 とりあえず駆けつけいっぱいジェットコースター。

 というわけでそんなスリル満点アトラクションを体験した俺達。

 ぶっちゃけジェットコースターに乗ってる時に語ることはそんなにない。

 俺もエレアも、ジェットコースターで際立ったリアクションをするタイプではなかった。

 普通に楽しんで、それで終わりって感じだな。


 そんなわけで、他にもエレアはいくつか絶対に行きたいアトラクションがあると言っていた。

 そのうちひとつが――お化け屋敷だ。


『ゔぁあああああっ!』


 この世界のお化け屋敷は、幽霊系モンスターを利用するのが一般的だ。

 イグニスボードでサモンしたり、人が中にはいってたり、立て看板だったり。

 中には本物の幽霊系モンスターが運営するお化け屋敷なんてものもある。

 ぶっちゃけ前世よりもお化けの存在が身近な世界だが、遊園地でお化け屋敷が鉄板なことには変わりない。

 そんなおばけに対して――


「きゃーっ」


 エレアが凄まじい高音ボイスで悲鳴を上げて俺にひっついてきた。

 普段、どっちかというと落ち着いた声音のエレアがここまで高音ボイスで喋れるのが驚きである。

 要するに、アレだ。

 ハートマークが飛びまくっていた。


「きゃーっ! きゃーっ!」


 おばけが出るたびにきゃーきゃー言って俺にひっついてくるのである。

 これがしたくて、エレアはお化け屋敷に入りたがったのだ。


 ぶっちゃけ、エレアはお化けが苦手なタイプではない。

 むしろ全然平気なタイプだ。

 だからこそ、ある意味究極の棒読みみたいな悲鳴がお化け屋敷にこだましているわけで。

 ひっつかれる俺としては、ここまで露骨だと逆に冷静になれるくらいだ。

 時折、中に人が入ってるタイプのお化けから、何とも言えない視線を浴びせられてごめんなさいってなるくらい。


 そしてだからこそ、俺は冷静にひっついてくるエレアを観察できていた。

 結構俺とエレアは身長差があって、エレアが腕にひっつくとちょうどいい感じに頭のてっぺんが視界に入る。

 毎日自己主張の激しいアホ毛が、今日は一段と揺れに揺れている。

 エレア自身は悲鳴を上げるのに夢中で、俺が視線を向けていることには気付いていない。

 ちょっとアホ毛を触っても気付かないんじゃないか?


 そう思って、そーっと手を伸ばす。

 すると。


 ずいっとエレアの視線がこっちに向いた。


「ダメですよ、ミツルさんっ。こんなところで髪の毛触られると、嬉しくなって悲鳴が意味合い変わっちゃいますから」

「おっと悪い」


 残念ながら、そこは偵察兵。

 こっちの考えはお見通しというわけだ。

 でも悲鳴の意味合いは変わらないと思う。


「二人きりになったら、存分に触らせてあげます。ふわふわですよー?」

「じゃあ、そうするか」


 むふー、と満足げなエレア。

 ならいいか。

 いいのか?

 と思っていたら、なんか視界の端で申し訳無さそうにこっちを見ている幽霊のキャストが。

 ……ごめんなさい。



 □□□□□



 さて、そろそろ昼飯時だ。

 デートというからには、それっぽいものでも頼もうかと思って色々考えていたんだが。

 レストランとかがあるエリアにやってくると、エレアの視線が一点に注がれていた。


「やきしょば……」


 焼きそば。


「やきしょばぁ……やきしょばぁ……」


 焼きそばか。

 まぁ、デートっぽい食べ物より食べたいものを優先すべきだ。

 さっそく、匂いにつられて焼きそばの元へ吸い寄せられたエレアとともに、屋台の列に並ぶ。

 焼きそばの他にもお好み焼きとかがあったので、俺はそっちにした。


「ミツルさん、ミツルさん。ちょっとずつ交換しましょう!」

「そうするか」


 というわけで、昼食を手にフードコートの一角を俺達は陣取った。

 向かい合って座り、エレアの提案で頼んだものをちょっとずつ交換することにした。


「じゃ、いただきまーす」

「慌てて喉につまらせるなよ」

「子供じゃないんですから。もぐ……んんー、これですこれです」


 楽しげに、エレアはやきそばを食べていく。

 なんというか、如何にも屋台の焼きそばっぽい味がいいのだとか。

 なんだそりゃ。


「それで、なんでわざわざ遊園地で焼きそばを?」

「ええと……イベントの時に食べそこねちゃいまして」


 ああ、と納得する。

 イベントにも屋台はあったが、俺達は食べそこねていたからな。

 そこで気になっていた屋台の焼きそばを、ここで見かけたから食べてみた……と。

 まぁ、屋台の焼きそばってところ以外は全然違うものだと思うけどな。


「……あっ!」

「どうした?」

「……アーンってしてもらうの忘れてました!」


 ああ、最初に何気なく交換しちゃったから。

 いや別に、したいっていうならやるけど。


「負けた気がするのでやりませーん、施しは受けない主義なのです。ぱくっ」


 そう言いながら、交換したお好み焼きをエレアは食べる。

 って、おいおい。


「おいしーですね。チーズがいい感じで……ん? どうしたんですか?」

「ソースが口に付いてるぞ」

「え? どこでしょう」

「ここだ――ほら」


 そう言って、俺は何気ない様子でソースを拭う。

 柔らかなほっぺたの感触が少しだけ指に伝わった。

 何気なくやったが、少し恥ずかしいな。

 後、なんだこの柔らかさ、さすが成長遅めの異世界人。


「んにぁ――――」

「……ん、どうしたんだ?」

「にゃあぁっ!? なぁにするんですか!?」


 思わずと言った様子でエレアがのけぞる。

 顔は真っ赤になっていた。

 俺が少し気恥ずかしいんだから、エレアはもっと恥ずかしいよな。


「悪い、配慮が足りなかった」

「いえいいんですけど……とりあえず指についたソースは何とかしましょう」

「なんとかって言ってもな……どうするか」

「こ、こうなったら……えーい!」


 ぱくっ。

 あっ。


「こうひてやりまふっ!」

「……一番恥ずかしい選択をしたな」

「……え? ……あっ」


 俺の指を口に咥えたまま喋るエレア。

 その顔が、みるみる真っ赤になっていって――


「ひぁう」


 動かなくなってしまうのだった。

 ……とりあえず、俺の指から口離さない?



 □□□□□



「食後のデザートはクレープ! 一択です!!」


 といって、エレアがクレープ屋に駆け出していった。

 俺は興味ないので、ベンチで休んでいると。


「あ、あの! もしかしてデュエリストの店長さんですか!?」


 ふいに、声をかけられた。

 少し小柄な――おそらく大学生くらいの女性だった。

 髪型が、今日のエレアと同じである。

 目を丸くして、女性を見上げる。


「ええっと、そうだけど」

「ファンなんです!」

「うお」


 ずいっ。

 顔が近くなった。

 いやしかし、ファンと来たか。

 有名ファイターなら、珍しいことではない。

 プロファイターや、よくテレビに出てくるエージェントならよくあるだろう。

 それにしたって、俺が声をかけられるのはこれが初めてのことだが。


「あ、握手してください!」

「あ、ああ。……光栄だな」

「こちらこそです! こんなところで会えるなんて!」


 そのまま握手をして少し言葉を交わす。

 どうやらこの遊園地のある街で暮らしていて、遊園地にはよく遊びに来るらしい。

 なんてことを話していると――悪寒。

 背筋が冷えるような感覚を覚えた。

 これは――


 ――エレアが物陰からこっちをすごい目で見ている!


 ち、違うんだエレア。

 これは単純にファンとの会話で、決して逆ナンとかそういうやつではない!

 ああ、なんかゴゴゴとか効果音が聞こえてくる!

 威圧感とは裏腹に、エレア自身は泣きそうにしている!

 罪悪感が、罪悪感が!


「えっと……その、私」

「あ、ああ」


 と、そうこうしているうちに、ファンの女性が――



「モンスターランドカーニバルのエキシビション、すっごくよかったです!」



 ――と、言う。

 ……ん? モンスターランドカーニバルのエキシビションってつまり。


「私、特にエレアちゃんと店長の絡みが一番好きで……あの」


 あ、なんかエレアがすごい顔をしている。

 さっきまで嫉妬で泣きそうになっていたのに、今は恥ずかしさで泣きそうになっている。


「ご結婚おめでとうございます!」

「あ、いやまだ結婚は――」


 確かに付き合い始めたけど。

 今まさにデート中だけど、結婚はまだ。



「んにゃあああああああああああああああっ!」



 とか思っていると、エレアがすごい勢いで走ってきて、俺の手を掴んで逃げ出した。

 女性は、ぽかーんとしながらも何か満足気に俺達を見送っていた。

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