EX3 デートと言えば、遊園地 ①
デート、デート。
定休日にエレアと二人でデートに出かけるのは俺達のルーチンだが、流石に付き合って初回のデートで普段通りのルートというのは味気ない。
かといって、定休日は一日だから泊りがけというわけにも行かない。
メカシィに諸々を頼んでもいいのだけど、とりあえず日帰りで行ってこれるルートがあるかどうかを検討してからということになった。
そして比較的簡単に、日帰りで行って帰るコースは見つかった。
「つきましたねー、……遊園地!」
「トゥインクルスター・ランドか。割と近場にあるとは言え、前に来たのは大学の卒業旅行以来か……?」
遊園地。
デートコースとしては鉄板だ。
加えて言えば、俺達が訪れた遊園地は比較的近いところにあった。
具体的に言うと、天火市は隣県に接しているのだが。
天火市に接している隣県の都市に、この遊園地はあった。
片道車で一時間半、なかなか近場の遊園地である。
んで、その遊園地の名がトゥインクルスター・ランド。
<星道の魔女>をテーマにした、大人から子供まで楽しめる遊園地だ。
他にも、アトラクションには様々な有名モンスターがモチーフとして使われている。
カイバーランドか何かかな?
「開園前だっていうのに、ずいぶん賑わってますよ」
「最近は、ここの経営者がキアに変わったからな。色々おもしろいことをやって話題を集めてるんだよ」
キア、カリスマ美人店主と言われるカードショップ“マスターズ”の店主。
カリスマ経営者でもあり、カリスマ芸能人でもあり。
まぁとにかく、シズカさんと並んでこの国で名のしれた女性ファイターってところか。
なんでそんな人がこの遊園地の経営に乗り出しているかと言えば、この遊園地のある都市にキアの“マスターズ”があるからだ。
「それに、開園前といってもあと少しで開園だ。むしろ、この時間が一番混むんじゃないか?」
「そうですねぇ……とりあえず一日パスポートでいいんですよね?」
「ああ、シズカさんから貰ったクーポン券が使えるからな」
話をしながら、入場の手続きを済ませる。
それ自体は別に複雑なものではないし、俺はこの遊園地に数年に一度の頻度で来ている。
学生旅行の鉄板だからな、ここは。
とにかく、手間取ることはない。
「いやぁ、私は遊園地って初めてだからドキドキしますよ」
「過度な期待は禁物だぞ」
「アトラクションだって楽しみですけど……」
俺の言葉に、大丈夫だと笑みを浮かべてからエレアは少しためらう。
顔がほんのり赤い、ああ、恥ずかしいことを言おうとしているな。
「……ミツルさんと一緒に、っていうのが一番ドキドキします」
「…………そうだな」
解っていても、見上げながら微笑んでくる彼女にドギマギしてしまって、気の利いたことは返せなかった。
エレアも、言ってから恥ずかしさが増したのか、お互いに視線が浮ついている。
なんとか俺は気を取り直して、それらしいことを返した。
「一緒に回るんだ、はぐれて迷子になったら困る。……ほら」
「あ……」
手を差し伸べた。
エレアが一瞬だけ目を見開いて――
「はい……っ!」
その手を取る。
二人でぎゅう、とお互いの手を取り合って。
遊園地が、開園した。
□□□□□
どこを回るかはある程度アドリブを入れつつ、最初に行くのはジェットコースターと決めていた。
トゥインクルスター・ランドには二種類のジェットコースターがあり、どちらも非常に人気は高い。
二つとも楽しむなら、片方は開園当初の人の少ない時間帯を狙うしかない。
まぁ、そこで混むようなら、二つ目は別に諦めてもいいとも考えているんだが。
「いやぁ、結構並びますねぇ」
「そこそこ前の方に並べたから、これでも結構マシな方だろう」
「それでもですよ。はぁー、すっごく並んでますね」
「あんまりジロジロみるなよ?」
それからしばらくは、話をしながら自分たちの番を待つ。
といっても、日常的な話なんてすぐに尽きてしまう。
そうなると、まぁスマホを見ながら時間を潰すしかないわけだが。
せっかく隣に恋人がいるのに、スマホで時間を潰すなんて……と思うものの、これだって十分話の種になる。
「しっかし……今の時代、スマホでいくらでも時間を潰せますけど、それより前はどうしてたんです?」
「まぁ、話をして時間を潰すしかないよな。学生の頃は、イグニスボードを使って投影機能を使わずにファイトしたりしてたんだが、ほら」
そう言って、俺は前の学生の集団がファイトをして時間を潰しているのを視線で示す。
多少騒がしいところがあるものの、ここは遊園地だし周りも騒がしい。
気にする人はいない。
「私達もやりますか?」
「まだいいだろ、これからいくらでも時間はある」
というか、前世でも遊園地には行ったが、その時はスマホもない時代でファイトで時間つぶしもできないから大変だった。
持ってきた本とか、何時間も並んでたら読み終わっちゃうし。
それに比べたら、今はいくらでも時間が潰せて楽だな、というのは実際のところ。
「というか、充電は大丈夫か?」
「バッチリですよ、充電器も持ってきてありま……」
そう言って、エレアがバックをごそごそとして、ピシリと停止する。
「……充電ケーブルを忘れました」
「ああうん、俺のがあるから、貸すよ」
「ミツルしゃぁーん……!」
涙目で、こっちを神様のように崇めてくるエレア。
人前、ここ人前だから。
それはそれとして、涙目のエレアはかわいい。
「……ん、あ。ミツルさん、これ観てください」
「切り替えが早いな、どうした?」
「面白いファイト動画があったんですよ、一緒に見ませんか?」
「そうだな……イヤホン貸してもらっていいか?」
「どうぞ!」
自分の耳につけていたイヤホンを片方だけ取り外して、俺に手渡す。
それをつけて、二人でスマホの画面を見る。
こういうのも、カップルらしいやり取り……というだろうか。
しばらくそうしていると、ようやく俺達の番が近づいてくる。
ジェットコースターに、エレアは興奮を隠しきれていない。
「どんな感じなんですかね―! びゅーって行ってずごごーん、ですかね!」
「まぁ、そんな感じ。そういえばエレアの世界って、結構メカとかあったっぽいけど、エレアはそういうのには乗ったことはないのか?」
「んえ? えっと、ないですねぇ」
こう、四足歩行で歩くロボットとか。
そういうの、結構エレアの世界にはあったらしい。
そういうのに乗っていれば、ジェットコースターの感覚もなんとなくつかめるかと思ったのだが。
「偵察兵ですから、そういうのは別の職種の役割です。ああでも、完全武装状態ならそれと同じくらいの機動力で飛び回れるらしいですけど」
「ですけど?」
「そもそも帝国って、外敵とかいないですから。機動力を披露する相手がいませんでしたね」
ある意味で、帝国はアレだけひどい環境でも戦争とだけは無縁だ。
世界を帝国が支配しているんだから。
せっかくの技術力も、戦争のない世界では無用の長物。
まぁそもそも、戦力があったって最終的に戦争はファイトで行うのがこの世界の常識だ。
大きいロボも、エレアの機動力も、ファイトのためのハリボテにすぎない。
「……もしかしたら、ファイトが何よりも優先される世界では、こういう遊具の方が機械としての正しいあり方かも知れないな」
「なんです……それ」
「なんでもない、ちょっとした感傷だよ」
前世がこの世界より優れているとは決して思わないけれど。
前世にしかないものってのは、良くも悪くも存在する。
そういうものを想起したりして、過去を懐かしむのだ。
ま、誰に伝わるものでもないけどな。
「それよりほら、俺達の順番だぞ」
「あ、そうですね! いきましょうミツルさん!」
そう言って、今度はエレアが俺の手を取って。
二人でジェットコースターに乗り込む。
過去よりも今、今よりも未来だ。
少なくとも俺とエレアには、これからもっと楽しい未来が待っているんだから。
なお、エレアはジェットコースターの激しい軌道に大満足。
もう一種類のジェットコースターも絶対に乗ろう、と鼻息を荒くしていた。
うーん、かわいい。
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