EX1 エレア告白おめでとう打ち上げ

「と、いうわけで! エレアの告白成功と、モンスターランドカーニバルの成功を祝して! 乾杯!」

「ちょっとまってください!!!!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 盛大な打ち上げは、エレアの盛大なツッコミから始まった。

 人々が口々に乾杯を口にする中、ヒートアップしたエレアが叫ぶ。

 相手をするのは今回乾杯の音頭を取っているシズカさんだ。

 なんでシズカさんが乾杯の音頭を……?


「だだだだ、誰が告白成功したですって!?」

「え? いやだって、成功したじゃない」

「はー!? いったいどこでですか!? 誰がそう決めたんですか!?」

「……最後のエキシビションのことよ?」

「え」



 そして、エレアは数秒間停止した。



 ああ、ついに気付いてしまったか……。

 あのエキシビションが、前フリから何から告白にしか見えなかったという事実に。

 そしてエレアの取った行動は――


「そそそそ、そうでしたねぇ――――! おっと、少し席を外しますよ失礼しまぁあああす!」


 ――その場から逃げ出すことだった。

 これはアレだな、誰もいない場所で小一時間転がるやつだな。

 俺が行くともっとこじれるから、恋人として慰めたいところだけどここは我慢。


「……ねぇ、店長? もしかしてエレアって」

「おっとシズカさん、それ以上は言及しないでやってくれ」


 俺の方によってきたシズカさんが耳打ちしてくる。

 いやその、そこはそれ以上深堀りしないでくれると助かります。


「っていうか、そうなるとアンタ達あの後こっそり二人で愛の告白――」

「おおっと、それじゃあ俺も挨拶回りにいかせてもらおうか――」

「あ、ちょっと!? お幸せに!」


 かくして俺も、突っつかれると痛い部分から逃げるためにその場を離れるのだった。

 ありがとね!



 □□□□□



 とりあえず、知り合いに会いに行くのはエレアが戻ってからでいいや、とおえらいさんとの挨拶を先に済ませる。

 ワルゾウ氏が何故か、感極まって大号泣して俺達のことを祝福してくれてたけど。

 なんか琴線に触れる部分でもあったんだろうか。

 いや、多分涙もろいだけだな。


 とにかく、しばらくするとエレアが戻ってきた。

 顔は未だにちょっと真っ赤だったけれど、まぁ問題はないだろう。

 最初に俺達が挨拶に向かったのは――


「よう、熱いねぇお二人さん」

「からかわないでくれよ、刑事さん」


 刑事さんだ。

 今回のイベントの実質的な発起人。

 彼がいなければイベントの開催はなかったと言ってもいい。

 加えて――


「刑事さん、ありがとうございました。私が初めてこっちの世界に来た時から、ずっとお世話になりました」

「なんか、別れの挨拶みてぇだな。ま、んなわけねぇんだから、これからも店長と頑張れよ」

「はいっ!」


 ――エレアが、俺以外で初めて言葉を交わしたのは刑事さんだったりする。

 それからも色々と便宜を図ってくれていて、俺達にとっては頭の上がらない恩人だ。

 そこらへんも含めて、しばらく話をしてから別れた。

 細かいところは今度個人的な呑みで話せばいいしな。


 んで、次は――


「あらぁん、いらっしゃいお二人さぁん!」

「クレハさん。こんばんわ」

「こんばんわ、メカシィさんも楽しんでますか?」

「店長、エレア様、こんばんわ。ピガガピー」


 麻上クレハさんだ。

 一緒にメカシィもいる。


「いやぁ、熱い告白だったわねぇん」

「あ、あひっ、そうですねぇ」


 なんて言われたり。


「これからは、お二人の時間を確保するためメカシィも頑張ります。ピガガピー」

「いや、それは大丈夫だから」


 メカシィに気を使われたりした。


「それにしても……うちもほしいわねぇん」

「ほしい……ですか?」

「そうよぉ、こ、ど、も」

「こ!?!?!?!?」


 クレハさんの言葉に、エレアがすごい反応をする。

 まぁでも、クレハさんはコウイチさんの奥さんなわけだから、自然な話の流れである。

 とはいえエレアには刺激が強かろう。


「し、失礼しましたー!」


 そのまま、エレアは走り去ってしまった。

 俺も、挨拶をしてその場を後にする。


 その勢いで次にやってきたのは――


「あ、店長とエレアさん、いらっしゃいー」

「はひー、はひー、ハクさんこんばんわ」


 闇札機関メンバーのところだ。

 出迎えてくれたのはハクさんだけど、ハクさんって今回ハクさんとしてイベントに参加してたっけ?


「私は裏方のスタッフとして参加してましたねー、うふふ。頑張っちゃいました」

「そ、そういえばそうでしたね。……月兎仮面の印象が強すぎます」


 そうだ、前日の設営を手伝ってくれたんだった。


「それにしても……おめでとうございます、ふたりとも」

「あ、えへへ……ハクさんに普通に祝福されるとなんだか恥ずかしいですね……」

「それと……あのエキシビションは、大きな刺激になりました。今後の参考にさせていただきますね?」

「やめてください!!」


 一瞬でエレアの手のひらがひっくり返った。

 痴女であることを含めても、ハクさんはいい人なんだけど。

 流石にあのエキシビションを参考にすると、えらいことになるから不味いと思う。


 それから、他の闇札機関の人たちにも祝福された。

 さすが学生ノリというかなんというか、色恋には敏感なようで。

 根堀り葉掘り聞き出そうとする人が多い。

 恥ずかしくなったエレアが逃げ出したことで、俺達は次の場所へと移った。


「さー、いっぱい食べますわよー!」

「あ、アロマ……あんまり食べ過ぎちゃうとお腹が……」

「は、はふはふっ」


 続いてやってきたのは、マジカルファイター組だ。

 三人で食事をたらふく食べている。

 というか、アロマさんがすごい勢いで食べている。

 昔病弱だった反動で、今は腹ペコキャラだったりするのだろうか。


「あ、師匠店長様、エレア様、ごきげんうるわしゅうですわ」

「ごきげんうるわしゅうー! 両手にフライドチキンを持ってるとお嬢様感はないですね……」

「あ、あはは……こんばんわ」

「こ、こんばんわ……」


 アウローラさんが苦笑している。

 キリアさんは……焼きそばを山盛りにしているな。

 こっちも腹ペコキャラか。

 ダイアの遺伝と考えれば自然だな……。


「楽しんでいってるか?」

「は、はい。見ての通り……です」

「それはよかった」


 アロマさんが楽しく食事をして、アウローラさんが甲斐甲斐しくお世話をしている。

 そしてアロマさんがアウローラさんにアーンをして、アウローラさんが幸せそう。

 あ、エレアが距離を取っている。

 間に挟まってはいけないと強く感じている顔だ。


「……あ、そういえば、お付き合いしたんですよね。お、おめでとうございます」

「ああ、キリアさんはここで俺達が付き合うって知ってるのか」

「は、はい。ついさっきまで口に出せませんでしたが……」


 キリアさんは未来人でダイアの娘だからな。

 今回の顛末、実は全部知っていたようだ。


「ところで、あの……」

「どうしたんだ?」

「けっこんし……あ、なんでもないです」

「けっこんし!?」


 大分飛んだな!?

 え、何!? そのけっこんし……のイベントでなにかあるの!?

 めちゃくちゃ気になるんだけど!?


「だ、だいじょうぶです……いのちに別状はありませんから……あ、あうう……ごめんなさい」

「命に別状はない!?」


 危険じゃないけどなんかあるってことだな!?

 ま、まぁいいや、危険じゃないなら。

 とにかく、気になることはあるけれどこれ以上聞くわけにも行かない。

 俺達はその場を後にした。

 そそくさ。

 ……あ、ダイアについて聞き忘れてた。

 会場にいたんだけど、気づいてたんだろうか。

 触れない方がいい気がする。


 そして、最後に。

 いや、本当ならレンさんにも挨拶したいんだが、あの人どっか行ってるからな。

 さっきからどこにも姿がない。


「――ヤトちゃん!」


 ともかく、最後にヤトちゃんへ声を掛ける。


「あら、ふたりとも。色々あったけど、おめでとう」

「あ、ありがとうございます。……皆から言われますよ、それ」

「そりゃそうでしょ……もはや義務みたいなもんだから、素直に受け取りなさい」

「は、はいい……」


 まぁ、あんな盛大に告白した(と思われている)以上は、ごもっともな話で。

 気恥ずかしいことこの上ないが、受け入れるしかない。


「それはそれとして……その様子だと、本当に告白したみたいね?」

「!?!?!?」

「いや、エレアがあんな大舞台で告白とかできるわけないの、よくわかってるってば」


 さすがエレアの親友、ヤトちゃん。

 どうやらエレアのことならお見通しのようだ。

 そして、あの後俺達が裏で告白したことも理解している。


「ま、まぁそうですよぉ。……えへへ」

「なんか、さっきから見てたけどずっと緊張しっぱなしで、やっと恋する乙女なエレアが見れたわね」

「き、緊張しないわけないじゃないですか!」

「会う人みんなから、祝福されてるからな」


 まぁ、無理もない。

 ヤトちゃんも少し呆れ気味に同意した。


「――それで、付き合って最初のデートはいついくの?」

「そこですか!?」


 そして火の玉ストレートを投げ込んできた。

 デート!? いきなりそこ!?

 声には出さないものの、リアクションは完全にエレアと被っていた。


「えーと、メカシィさんにあまり迷惑かけたくないですし……次の定休日ですかね」

「次の定休日っていうと――」


 俺達は、二人で店のカレンダーを思い出して――気付く。



「明後日ですよ!?」



 明後日だった。

 明日イベントの後片付けを手伝って、終わったら次の日は休憩を兼ねて定休日ということにしていたのだ。


 ……明後日!?

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