105 コスプレブースも大賑わい
今回のイベントには、コスプレブースというものが存在する。
一言で言えば、参加者が持ち寄ったコスプレ衣装を着てファイトするスペースだ。
せっかくスタッフがモンスターに仮装するというのに、参加者も仮装しないのはもったいない。
というか、自分も仮装したいという問い合わせは結構多かった。
そこで設けられたのがコスプレブース。
ここで仮装してファイトしたり、写真撮影をしたりする。
んで、俺達はそんなコスプレブースにやってきていた。
「わぁー、いろんなモンスターさんがいますねぇ」
「ダイアやアリスさんのコスプレもいるな」
「有名ファイターのコスプレも、コスプレの華ですよ!」
この世界ではモンスターに仮装する人のほかに、有名ファイターに仮装する人もいる。
ダイアやアリスさんはその筆頭。
特にダイアは髪型をなんとかすれば割と誰でも仮装できるので、人気だ。
まぁ、身長は足りないことが多いんだけど。
「私もちょっとコスプレしちゃいますね、っしょい!」
で、そこでエレアが一回転。
するとその姿が、<
髪型などは変化させていない、エクスチェンジスーツによる衣装チェンジだ。
会場をみると、<星道の魔女>に仮装している人はめちゃくちゃ多い。
エレアのように髪型を弄っていない人もいる。
この世界におけるコスプレの最定番だからだな。
「ここに入るからにはこうしないとですよね、店長もどうです?」
「俺はエクスチェンジスーツを着てきてないよ」
というか持ってないし。
クレハさんには譲ろうかと言われたけど、断っている。
ビジュアル的な華やかさはないからな、俺は。
とかやっていると、元気な少女の声が聞こえてきた。
「コスプレブースはこちらでーす」
「今なら、コスプレ衣装の貸出も行っています。コスプレブース内でなら自由に試着していただけます」
「ま、まーす」
三人の少女の声。
二人は聞いたことがある、
「あ、アロマさん! こんにちわ!」
「エレア様! ご機嫌麗しゅうですわ!」
お嬢様系ファイターのアロマさんだ。
隣には、友人のアウちゃんことアウローラさんもいる。
物静かなアウローラさんは、軽く会釈で挨拶をする程度だ。
そして、なぜか三人いたはずなのに二人しかいない。
「ええと、アロマさんの後ろに隠れてる方はどちらさまでしょう」
「ひゃうう!? バレてる!?」
「まぁ、キリアちゃん、どうして隠れるんですの?」
そして、エレアの偵察能力がアロマさんの後ろに隠れた三人目を看破した。
アロマさんが促すと、三人目の少女――キリアさんがおずおずと出てきた。
如何にも引っ込み思案な雰囲気のメガネ少女だ。
ただ、髪色は結構特徴的で、複雑なメッシュになっている。
何か既視感があるな。
「は、はじめまして。キリアですぅ……エレアさん、店長さん、よろしくお願いしますぅ」
「よろしくお願いしまーす。もしかしてアロマさん、この子が――」
「はいですわ。未来からやってきたマジカルファイターさんですの」
キリア。
前にアロマさんが言っていた未来のマジカルファイターのようだ。
アウローラさんを含めた三人は、現在マジカルファイターに変身している。
一見大丈夫かと思うのだが、ここはコスプレブース。
これもコスプレの一種として通すつもりのようだ。
「あひぃ……わ、私は目立たなくてもいいのに……」
「キリアさんは引っ込み思案ですね。安心してください、私とアロマさんがいますよ」
といいながら、キリアさんをなだめるアウローラさん。
アロマさんは笑顔で頷いていた。
……で、三人は現在コスプレブースの呼子をしている。
前にアロマさんが、自分もイベントをお手伝いできると申し出てくれたのだが、色々あってここにスタッフとして配置されたのである。
理由は……アロマさんがデッキ相性の関係でロックバーンデッキ以外をうまく扱えないからだな。
いや、茨姫騎士に扮してもいいのだけど。
「三人は、アレからどんな調子だ?」
「はいですの。デビラスキング、ネオデビラス。共にアレから何度もファイトしていますが、未だに決着はついていませんわ」
「デビラスキングもネオデビラスの刺客もどちらも強く……中々うまく行っていません」
勝ったり負けたりはしているのだが、決定的に追い詰めることができていないらしい。
幹部は倒しても逃げるからな、決着をつけるのは大変だ。
「ただ、ネオデビラスの刺客の正体は判明しましたわ! 講師としてやってきた先々代マジカルファイター様でしたの!」
「案の定だったな……」
そんな気はしていた。
していたのだが、指摘しても証拠はないので指摘はしなかった。
こういうのは指摘してもうまく躱されるか、バレバレなのになぜかバレないのがこの世界の常識なのだ。
「ただ……なぜあの方は、正体がバレても講師を続けているのでしょう」
「ああうん、それは社会人だからだよ……」
ダイアの時もそうだったから解る。
社会人はね、簡単に自分の今の立場をすてることができないのだ。
元は優秀なエージェントだったらなおさら。
まぁ、最終的にはネオカードポリスに捕まってドナドナされていくのだけど。
ちなみに、ネオカードポリスも正体がバレた時点で捕まえようとするのだが、向こうのほうが一枚上手なのだ。
ダークファイターは、ダークファイターとしての能力で転移能力を持っていることがある。
自由自在に転移で逃げられる相手を捕まえるのは、この世界でも至難の業だ。
「まぁ、講師さんに関してはアロマさんたちが決着をつければいい。問題はデビラスキングの方だな」
「デビラスキング様は……よくわかりませんわ」
何でも、こっちのことを試そうとしたり、勝っても何もせず帰ったりするらしい。
それでいて、最近はネオデビラス相手に共闘する機会も増えてきたそうだ。
うんうん、いい感じにデレてきているな。
「そういえば聞いてくださいまし! アウちゃんが、プロファイターではなくエージェントを志すことになったのですわ!」
「ちょ、アロマさん……その話は、ちょっと恥ずかしいです」
「ええ? とってもいいことだと思いますわよ?」
――どうやら、アウローラさんが進路を決めたらしい。
元々はアロマさんがプロファイターを目指したから、自分もプロファイターを目指した……というのがアウローラさんのコレまでの経緯。
しかし、本人の気質的にはエージェントの方が向いていたのだろう。
恥ずかしがっているというのは……
「えっと、アウちゃんは……その事を話すとアロちゃんに嫌われるんじゃないかと思ってたみたいで……」
「ちょ、キリアさん! それは言わないでくださいと!」
「なるほど、青春だな」
アウローラさんは友情と自分のやりたいことを優先するか迷ったのだろう。
最終的に、アロマさんを見習って自分のやりたいことを優先したわけだが……それをアロマさんに告げる勇気がなかった、と。
しかしアロマさんは、「自分のやりたいことをやる」ことに関しては非常に前向きなタイプだ。
決死の覚悟で打ち明けたら、めちゃくちゃ歓迎されたんだろうな。
情景が目に浮かぶようだ。
青春である。
それから、俺はアロマさんと話をして色々と最近の動向を聞いた。
こういう話は、聞いているだけでも楽しいもので。
青春を後押しするのは、大人の特権だと思うのだ。
これからも、いろんなことを悩んで迷って、そして信じて進んでほしい。
「――ところで」
と、そこで。
先程から黙っていたエレアが口を開いた。
何やら考え込んだ様子で、キリアさんを見つめている。
「どうして、店長が店長だと理解ったんですか?」
鋭く、そんな質問をキリアさんに投げつけた。
全員の視線が、キリアさんに向く。
「ぎくっ」
ぎくって。
キリアさんはあからさまに狼狽していた。
「それに、キリアさんは引っ込み思案な性格のようですが、私の名前を呼ぶことに抵抗がありませんでした」
「ぎくぎくっ」
「――もしかして、未来の私と面識があるんじゃないですか?」
「ぎくぎくぎくーーーっ」
名探偵エレア、ここにあり。
キリアさんは未来人だ。
だが、いつの未来からやってきたのか、俺は知らない。
案外、結構近い未来からやってきているようだ。
「キリアさん……名字を教えてもらってもいいですか?」
――――うん?
ふと、その言葉で俺も引っかかりを覚える。
そういえば、キリアさんの髪色には既視感があった。
それを思い返すと、エレアの名字を聞くという行為の意味を俺はなんとなく察することができる。
まさか――
「え、えっと……逢田キリア、です。……お察しの通り、逢田トウマの娘です」
む、
「む、」
むむむ、
「娘――――!?」
俺の絶叫が、会場に木霊するのだった。
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