94 エレア、始めてのお披露目

 その後、なんやかんやの末イベントに参加するキャストが決定した。

 それはもう凄まじい激戦に次ぐ激戦。

 デスゲームという体でやっていたけれど、ノリは遊戯王のバトルシティだったな。

 まぁ、それを全部話しているとキリがないのですっぱり省略するのだけど。


「うむ、このメンバーなら我もどこに出しても恥ずかしくないぞ! 精鋭だ!」


 レンさんがそう太鼓判を押したのだ、メンバーに関しては心配はいらないだろう。

 ともあれ、これでイベントでモンスターに仮装するキャストという、ある意味一番大事なスタッフを確保できた。


「行政や研究所との調整もほぼ完了、後は開催を待つだけです!」

「色々あったけど、開催が楽しみだな」


 そして、これにより俺達が開催前にする準備はほぼ終了。

 後は各種宣伝に奔走したり、開催前の設営を行ったりするだけだ。

 ここまでずっと走り続けてきたが、ようやく一息つけそうだな。


「そうだ、天の民に瞳の民。設営のスタッフというのは募集しているのか?」

「ん? ああ、色んなところに声かけてるけど……機関の方でも人を出してくれるなら助かるよ」

「バイト代は弾みますよー?」


 闇札機関は学生の集まりだからな、フレッシュさという意味では設営スタッフ向きの人材が揃っている。

 加えて、強いファイターでもあるので身体能力も高いからな。


「希望者はこちらで募っておくとしよう! では、イベントを楽しみにしているぞ!」

「ああ、今日はありがとうレンさん」

「よろしくおねがいしまーす!」

「うむ!」


 ともあれ、こうして俺達はレンさんと別れる。

 用事も終わったし、そろそろ帰ろうか……というところで。


「あ、エレアに店長。少しいい?」

「ヤトちゃん! どうしたんですか?」


 ヤトちゃんに声をかけられた。


「エレアに少し頼みがあるのよ」


 頼み?

 俺はエレアと二人で揃って首を傾げるものの、別にこのあと用事があるわけではない。

 問題ないと了承すると、ヤトちゃんはある場所に俺達を案内すると言い出した。

 そして、用件が何かと問うと――


「エクレルールをデッキに入れたエレアとファイトしたい」


 つまるところ、本気のエレアとファイトしたいというものだった。

 そういえば、ヤトちゃんにエレアの正体がバレた後、エレアは本気でヤトちゃんとファイトしていなかったのか。


「イベントの準備が忙しかったですからね」

「それはまぁ……そうだな」


 ぐうの音も出ないな。

 ともあれ、ヤトちゃんは通路の行き止まりで立ち止まった。

 こんなところでファイトするのか?


「ちょっとまってて」


 そう言ってヤトちゃんが壁に手を当てると――ゴゴゴゴゴ。


「なんだ!?」

「壁が、壁が開いてます!」


 行き止まりの壁が、音を立てて開いていくのだ。

 奥には、石がむき出しになった洞窟めいた通路が広がっている。


「こ、これは……?」

「他の機関のメンバーに見せたくないファイトとかは、ここでやるのよ」

「また無駄な機能を……」

「無駄とはなんですかー! こういうのをロマンというんですよ店長!」


 俺はシュールっていうんだとおもうなぁ。

 まぁ、こういう真面目にやっているのかギャグでやっているのかわからないギミックはホビーアニメの華でもある。

 気にしないことにしよう。


 というわけで中に入ると、ファイトをするための広い空間が。

 早速ヤトちゃんとエレアが向かい合って、イグニスボードを構えた。


「ここにはフィールドはないんだな」

「こういう場所なら、イグニスボードのほうが雰囲気出るからって、レンさんが」

「そうか……」


 まぁ、レンさんならそう言うよな。


「んじゃ、行くわよ!」

「はい!」


 二人は揃って、「イグニッション!」と宣言しファイトが始まる。

 早速先行はエレアだ、デッキにエクレルールが入っているなら、まず間違いなく初手に存在しているはず。

 そしてエクレルールは展開の要、サモンするなら初手一択。

 なのだが――


「…………」

「……エレア?」

「…………」

「おーい、どうしたんだ?」

「はっ!」


 ヤトちゃんが呼びかけても応えず、俺が呼びかけてようやく反応を見せた。

 その様子はなんというか、こう。


「……い、いざヤトちゃんに本当の私を披露するとなると、少し恥ずかしいです」

「今更だな!?」


 もう結構な頻度で披露してないか!?

 俺以外にも、数人エクレルール状態のエレアとファイトしたことがあるぞ。


「そこはほら、偵察兵モードで平静を保つんだよ」

「……じ、実は以前店長とファイトした時以来、偵察兵モードに入れなくなっちゃってぇ」

「おおう」


 それは……まぁ、いいことと言えばいいことなんだが。

 この場面だと確かに少し困るかもしれない。

 ちなみに偵察兵モードっていうのは、エクレルールをデッキに入れた状態でファイトした時にエレアが突入するモードのことだ。

 俺と出会う前の偵察兵エクレルールみたいな振る舞いをする、アレ。

 以前、<大古式聖天使 デュエリスト・エレア>をお披露目したファイト以来、あのモードは見ていなかったが。

 突入できなくなっていたのか……。


「……なんだかよくわからないけど、とりあえず頑張ってエレア」

「うう……頑張りまぁす! で、では! <帝国の エクレルール>をサモン!」


 あ、かんだ。

 気にしないことにしよう。

 フィールドに、偵察兵としてのエレアがサモンされる。

 と、同時に――


「……エレアの姿がない」


 エレア本人がどっかいった。

 モンスターとしてフィールドにサモンされたわけではない。

 フィールドのエクレルールは、中身の入ってない投影されたエクレルールだ。

 ちなみによく見ると、俺が以前引き当てた二枚目のエレアだな。

 顔立ちが穏やかである。


「わ、私のことはお気になさらず……このまま続けていきますよぉ」

「どこから声がしてるんだよ!」


 どうやら恥ずかしすぎて、エレアは姿を隠しながらファイトすることにしたらしい。 

 偵察兵たるエレアが本気で隠れたら、俺達は彼女を見失ってしまう。

 こうなったら、ヤトちゃんは目に見えないエレアとファイトするしかないだろう。


「んじゃ、私のターンね。<蒸気騎士団 探偵ショルメ>をサモンして……」


 エレアが前座エースこと<帝国の暴虐皇帝>をサモンして、ヤトちゃんのターン。

 ヤトちゃんは<ショルメ>を初動に展開を始める。

 ……なんか、ショルメが一瞬こっちを見た気がする、気のせいか?


 ともあれ。

 ファイトはつつがなく進んでいった。

 一進一退の攻防。

 ついにはヤトちゃんが<帝国革命の開拓工兵>――エレアの最もポピュラーなエースを突破した。

 しかし勝負はまだ終わらない。

 エレアは次なるエースを呼び出した。

 つまり――


「<帝国革命の開拓者>!」


 ――なんかどっかで見た覚えのあるフード姿の男だ。

 ヤトちゃんの視線が、俺と<開拓者>を行ったり来たりする。

 理解ってるから、俺もよく理解ってるから。

 くそ、俺まで恥ずかしくなってきたぞ。

 おのれエレアめ、どこにいるんだ……

 というか、こんな開けた場所のどこに隠れる場所があるっていうんだよ。

 

 そして最終局面。

 ヤトちゃんは以前ハクさんが俺から購入し、現在はヤトちゃんのエースになっているモンスターを呼び出す。


「現れなさい、<ドリーマーナイツ・アリアン>!」


 <ドリーマーナイツ・アリアン>、鎧姿のモンスターだ。

 全身甲冑のため中身は見えない。

 どうでもいいけど、<開拓者>と身長が同じくらいな気がするのは俺の気のせいか?


「これで終わりよ、<アリアン>で攻撃!」


 ――そして、勝ったのはヤトちゃんだった。

 エレアが初めて<エクレルール>を入れてヤトちゃんとファイトするなら、勝つのはエレアかと思ったが。

 不利を背負った状態で自分からエレアに挑戦したこと。

 何よりエレアの<開拓者>は強力な制圧系カード、突破されるためのエースだ。

 そういった要因で、ヤトちゃんに運命力が味方したな。


「くぁー、負けました!」

「多分、エレアが恥ずかしさに負けず姿を見せてたら、運命も味方してたと思うわよ」

「ぐさーっ!」


 あ、エレアが致命傷を負った。

 一番の敗因はそこだったか。


 ともあれ、ヤトちゃんはエレアの全力と戦えて満足げである。


「いい経験になったわ。本気のエレアに、全力じゃないとはいえ『仮面道化』を使った姉さん。強敵相手に最近勝ててるから、調子がいいわね」

「ふふん……私も鼻が高いですよ」

「じゃあ、さっさとでてきなさいよ」

「もう少しこのまま……」


 いやほんと、エレアはどこにいるんだよ。


 ――まてよ?

 多分、隠れたうえで気配さえ消してしまえば俺達はエレアを見つけられない。

 そのうえで、この場に隠れる場所なんてない。

 だが、一つだけ。

 エレアが隠れられる場所がある。

 ヒントは――<探偵ショルメ>が俺を見ていたということ。

 アレは、俺を見ていたんじゃないんじゃないか?

 そう、つまり――



「……エレアお前、ずっと俺の後ろに隠れてたのか」



 振り返ると、そこには。

 顔を真赤にしたエレアがいた。

 体育座りである。


「だ、だって……こ、ここが一番居心地がよかったんですよ……」

「そ、そうか……」


 とりあえず俺は、そんなエレアの痴態を見なかったことにする。

 なお、このことがきっかけでエレアはあることを決意するのだが、それはまた別のお話――

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