91 バトルモノにありがちな役職

 どうやら、十二天将というのは組織内の称号らしい。

 なぜ十二天将が役職として採用されているかと言えば、レンさんの“一族”がそれに関わっているから。

 この国に古くから存在する守護の一族が、陰陽道を母体にするのは不自然なことじゃないよな。

 まぁ、今となっては陰陽道も廃れて、守護者たる“一族”の存在だけが残ったそうだが。

 こうして、その一端は受け継がれている。


 バトルものでは、幹部職が独自の役職で呼ばれるのはよくあることだが。

 闇札機関ではそれが「十二天将」と呼称されているわけだ。

 十二天将は組織内で行われるランク戦によって決定し、文字通り十二人いる。


 狼牙さんは、そのうちの一人。

 騰虵とうだを担っているそうだ。


「ちなみに、コードネームは本名から取られるから、役職と相関性がなくても仕方がないことよ」

「騰虵の狼牙って、ちょっと言いにくいですもんね」


 身も蓋もないことを……。

 ちなみに、先程挨拶したリオンさんも十二天将の一人らしい。

 役職は白虎、ちょっと日焼けしたスポーツ少女が白虎なあたり、本当に相関性ないな。

 虎っぽさはあったか?


「適当なことを言ってるなあ、あっちは」

「はは、それじゃあ続けてサモンさせてもらおうか、店長!」


 脇ではそんな呑気な会話が繰り広げられているが、ファイトは白熱している。

 相手してわかるが、やはりロウさんは強い。

 この年にして、完成した強さ。

 将来性も感じられるし、相手していて今後が楽しみだ。

 とはいえ──


「流石に、まだまだ負けてられないな。<メガブラスター・ウリエル>で攻撃!」

「くっ……ああああ!」


 流石に、積んできた経験の数が違う。

 最終的には、俺が勝利した。

 基本的に、こういう単発の勝負で俺が負けることはそうそうない。


「……やはり強いな、これが噂に聞くファイトキングカップ第三位の実力」

「ありがとう、ロウさん。楽しかったよ」

「こちらこそ、俺も貴方と戦えてよかった」


 お互いに握手を交わす。

 この街には、ロウさんをはじめとしてまだまだ俺が戦ったことのない強者はそこそこいる。

 そういう相手と戦える機会は嬉しいものだ。

 次は研究所の所長……コウイチさんと戦いたいものだな。


「それにしてもロウさん。……君、少し伸び悩んでるか?」

「え? あ、ああ。まさか一発で見抜くとは。というか、仲間たちにもバレてなかったんだが」

「そうね、初耳よ?」

「初耳です」


 そう言いながら、ヤトちゃんとエレアが近づいてくる。

 エレアはそりゃそうだろ、と適当に突っ込んでから俺は続けた。


「ロウさんのファイトは完成されている。だが、少し完成されすぎているとも言える。伸びしろはまだまだあるはずなのに、落ち着いてしまっているというか」

「……お恥ずかしながら。俺は闇札機関では最強を自負しているんだが、そのせいで目標を見失っているところがあってな。盟主は本気を出せないし」


 本気を出したレンさんには勝てないだろうが、そもそもレンさんが本気を出せないせいで、ロウさんはちょうどいい目標がいないらしい。

 こういう時に、レンさんが安定して最強なら問題は起こらないんだがな。


「なら、俺を目標にしてみるか?」

「サラッと言いますねこの店長……いや妥当なところではありますけど」

「それももちろん考えている。とはいえ、今は組織も安定している。身の振り方を考えるという意味でも、じっくり腰を落ち着けて考えようかと思っているところだ」


 なるほど、と頷く。

 ロウさんは見た感じ、そろそろ高校を卒業する頃だろう。

 基本的に闇札機関は、俺たちが暮らす天火市の学生で構成された組織である。

 仮に大学へ進学するなら、大学がないこの街を離れざるを得ない。

 そうしたら、必然的にエージェントも卒業だ。

 まぁ、別のエージェント組織に移籍したりするという手もあるが。


「そういえば、組織の十二天将ってどんな方がいらっしゃるんですか?」

「エレアってば、随分とそこにこだわるわね……」


 まぁ、エレアはとりあえずオタクコンテンツっぽいものには食いつくタイプだからな。

 可愛いもの好きで、基本的にはそういうコンテンツを推してはいるけれど。

 有名どころは一通り触れるタイプである。


「それなら、組織のランク戦のランキングを見たほうが早いな。上から十二人が十二天将だ」


 そう言って、ロウさんはスマホを見せてくれた。

 MAPが入っているアプリで、ランキングも確認できるらしい。

 一位は当然、ロウさん。

 二位は……秋空で、ヨシアキ。

 ……ん? この写真の顔どこかで見覚えが……。


「このヨシアキさんって、名字はもしかして周防だったりしないか?」

「? ああ、そうだが」

「ってことは、もしかしなくても周防さんの息子さんか!」

「ああ、秋空の親父さんと面識があるんだな、店長は」


 ロウさんが納得して頷く。

 周防さん……というのは、公的エージェント組織である特殊点火事件対策室、通称特火室のエースファイターだ。

 日本の公的組織に所属しているエージェントの中では最強と目される人で、俺はかつて一度会ったことがある。

 その時に、息子が秘匿組織でエージェントをしている……というところまでは聞いたことがあるのだが。

 まさか俺の地元でエージェントをしているとは。


「ただ、秋空に会ってもできれば親父さんのことは話題にしないでくれると助かる」

「あー……折り合いが悪いってことか?」

「そんなところだ」


 優秀な親を持つ子供っていうのは、得てして色々と重圧があるものだ。

 この世界では、優秀なファイターの子供は同じく優秀なファイターであることを望まれるものだからな。


「おー、皆さん中々個性的な……ん?」


 俺たちがそんな話をしているうちに、エレアが十二天将のメンバーを確認していく。

 すると、あることに気づいたのかエレアが視線を動かした。

 その視線の先には──


「……十二位、夜刀神?」


 ヤトちゃんの姿があった。


「あ、え? うん。私も十二天将よ? うん」

「ど、どうして黙ってたんですかー!」

「なんかこう……恥ずかしくて」

「いいじゃないですか、かっこいいですよ十二天将!」


 それはヤトちゃんにしては、少し珍しい反応だと思った。

 確かに真面目なところがあって、中二って感じのキャラではないけれど。

 それでも、パンクファッションとかかっこいい系もそれなりに好きなヤトちゃんだ。

 別に十二天将を恥ずかしがったりはしないと思うのだが。


「……だって、まだ十二位だし」

「そ、そこですか──」


 納得した。

 俺もエレアもめちゃくちゃ納得した。

 上昇志向のあるヤトちゃんとしては、ギリギリ十二天将の末席に名を連ねただけ……というのは誇るには足りない感じなのだろう。


「まぁでも、とりあえずそうね。今の私は天后・夜刀神よ」

「わー、女神様です。素敵」

「……これ、一度十二天将から陥落して復帰すると、別の称号になるのよね」


 簡単に言うと、現在のヤトちゃんは十二位で天后だ。

 ここで、現在十三位の人が十二位になってヤトちゃんが十三位になると、十三位の人が天后になる。

 で、この十三位の人が更にランクを上げると、十二位の人の役職は別の役職になる。

 たとえば朱雀とか。

 このとき、ヤトちゃんがまた十二位になって十二天将に返り咲くと、その時のヤトちゃんの称号は朱雀だ。

 や、ややこしい!


 つまり、たまたま十二天将になった時に空いてたのが天后だっただけ、ってことか。

 まぁ、ある程度の格付けはあるけど具体的に優劣がつくって感じでもないもんな、十二天将。


「ところで、一つ気になる点があるんだが」

「なんだろうか」


 そして、俺はもう一つ気になった点をあげる。

 なぜならこのランキング──


「ハクさんは?」


 ハクさんの名前がないのだ。

 ハクさん、白月。

 彼女だってこの組織のエージェントだし、実力は以前も今のヤトちゃんとどっこいか少し上くらい。

 間違いなく十二天将の一人だと思うんだが。

 そんな俺の問いかけに対し、ロウさんは──


「ああ、彼女は…………アレだからな」


 なんとも言い難い表情で、そう言った。

 まぁ、うん。

 アレならしょうがないな──


 ちなみに、具体的な話をするとハクさんは先代の「天后」だったらしい。

 それがハクさんがアレ……もとい月兎仮面となった後、ハクさんはランク戦に参加しなくなったそうだ。

 んで、ランキングを落としてヤトちゃんと入れ替わりになったらしい。

 そして月兎仮面は、時折闇札機関の手助けをするものの、扱い上は組織に関係ない存在だそうで。

 それなのに、実力で言えばロウさんより強い。

 結果的に、ランキングを落として入れ替わりになったのもあって、今のハクさんは番外扱いだそうだ。

 いわゆる、隠された十三人目の十二天将みたいな……劇場版展開かよ。


 ヤトちゃんが十二天将のことを恥ずかしがるのは、そもそも十二天将になれたのがハクさん離脱によるおこぼれみたいなものだから……ってことでもあるんだろうな。


「痴女の天后……はっ! すっぱて」

「はいそこまで」

「もがが」


 そして俺は、ろくでもないことを思いついたエレアの口を物理的に塞ぐのだった。

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