90 完全にノリが部活動

 俺達は、なんというか近未来感あふれる通路を進んでいた。

 例えるならロボットモノの戦艦の艦内だな。

 ここ最近見た中で一番近いのは……ダークイグニッション星人の宇宙船だ。

 アレといっしょにしたら、レンさんが文句を言うと思うので言わないが。


「店長は前にも来たことがあるのよね?」

「ああ、といっても本当に一回だけだから細部まで把握してるわけじゃないが」

「そりゃそうよ、私だって未だに迷うし」


 そう言って、ヤトちゃんがスマホを見せてくれる。

 何でも、闇札機関本部のMAPがアプリとしてあるらしい。

 どうしてそんなものが必要な施設を作っちゃったんですか……?


「というわけで、目的地はこの第三会議室……なんだけど、会議までは少し時間があるから案内しながら進むわね」

「おねがいしまーす! 結構楽しみだったんですよねぇ、闇札機関の内情」


 そういうエレアは、すでにテンションが結構高い。

 如何にもSFって感じの通路だからな、それだけでも結構盛り上がるんだろう。


「この本部には、分類すると4つの施設があるの。一つは会議室、作戦を確認したり今回みたいにお客さんと話をするときに使うわ」

「なぜ会議室とブリーフィングルームがそれぞれ別にあるんでしょう……」

「その時のノリで使う部屋を変えるからかしら……」


 強いて言うなら真面目な会議をする時は会議室。

 そうでない時はブリーフィングルームを使うらしい。

 そうでない時ってなんだよ。


「んで、もう一つが食堂ね。うちのエージェントなら一定の値段までは無料で食べ放題なの」

「具体的には?」

「一食1500円」

「高いんだか低いんだかわかんねぇな……」


 学生の腹には少ない気もするが、うまく選べばいい感じに腹も膨れる気がする。

 通りがかりに食堂を見ると数人のエージェントが食事を取っていた。

 中にはゲームをしたり、テーブルを使ってファイトをしてる学生もいる。

 これアレだな? 大学の食堂だな?


「次が作業室。申請すれば何時間でも借りれる個室ね。大中小三種類があって、用途によって使い分けるわ」

「どういう作業をするんですか?」

「デッキの調整、ゲーム、適当に集まってダベるための空間、学校の勉強や課題をやるため、ほか諸々ね」


 なんというか……完全にノリが大学か部活動なんだよな。

 そりゃほぼ学生だけで構成されたエージェント組織で、そこまで厳しい組織じゃないならこうなるだろうけど。

 それにしたって……緩い!


「いやぁ、青春を感じますよ、店長」

「俺はその発言に、オブラートを感じるな」


 とはいえ、こういう秘密基地があったら楽しそうなのは確かだ。

 俺はもっぱら、中学も高校も学校のファイトクラブにダイアと居座ってたからこういう場所を利用する機会はなかったが。

 どうでもいいけど、俺の母校はイグニッションファイトの県内一の強豪校だったんだが、誰とでも仲良くなれる主人公タイプなダイアのお陰で居心地は最高に良かったんだよな。

 アレはアレで、中々思い出深い青春だ。


「んで、ここがうちで一番よく使われてる施設――訓練室ね」


 最後に訪れた場所は、訓練室。

 とにかく広い空間に、無数のイグニッションフィールドが設置されている。

 とんでもない数だ、数十台くらいあるんじゃないか?


「うわわ、ちょっと金額考えたらめまいがしてきましたよ」

「レンさんからしたら、はした金なんだろうけどな」


 ファンタジーお金持ちはすごい。

 というか、これがあるだけで学生たちが闇札機関に所属する大きなメリットになるな。

 コレに加えて給金まで出るんだから、中々美味しい職場である。


「ここで毎日、皆が切磋琢磨してるわけ」

「中々、楽しそうだな……」


 俺の母校はイグニッションファイトの強豪校で、運営母体はユースティア家だ。

 それでも、クラブに設置されたイグニッションフィールドは二台。

 まあそれは単純に設置場所が足りないという理由も有ったんだが。

 それにしたって、これは圧巻である。


「……あ、もしかしてなんですけど」

「どうしたの? エレア」

「組織内のランク戦とか、あったりします?」

「あるわよ」


 なにそれ楽しそう。

 秘匿組織のランク戦とか、そんなの絶対ワクワクするやつじゃん!

 最上位勢は固有の役職とか与えられたりするんだろうか。

 エレアも同じことを考えているのか、目を輝かせていた。


 と、そんな時である。


「――夜刀神、そこで何をしているんだ?」


 ふと、声がした。

 振り返るとそこには、エージェント制服姿の少年が立っている。

 年の頃は十代後半、高校生だろうか。


「あ、狼牙さん、こんにちわ。今は店長の案内をしてるところです」

「店長……ああ、あの」


 見ただけでわかる、中々のファイターだ。

 ネッカ少年と戦ったら……ちょっと不利程度か?

 少なくともヤトちゃんやエレアよりは強いだろう。


「どうも、“デュエリスト”店長。俺はコードネーム狼牙ロウガ、狼牙かロウと呼んでくれ」


 闇札機関のコードネームは本名を元に付けられるから、多分ロウっていうのが本名なんだろうな。


「よろしく、ロウさん。前に何度か店に来たこと有ったよな?」

「ああ、たまに利用させてもらってる。貴方の店は品ぞろえが良いからな」


 常連……ではないが、時折店にやってくる青年だ。

 ショップ大会に参加したことはなかったから、名前を知ったのはこれが初めてだが。

 どうやら彼は、闇札機関でも最上位のファイターらしい。

 それだとネッカ少年が強すぎないか、とも思うかも知れないが。

 仮にも彼は、一度世界を救ったことのあるファイターだ。

 むしろそれくらいは強くないと困る。


「それにしても……これはすごい光景だな。皆、熱心にファイトをしている」

「店長がそう言ってくれると、俺も嬉しい。闇札機関は、ノリは学生気分の中二組織なんだが……ファイターとしての実力は本物なんだ」

「それ、狼牙さんが言っちゃダメじゃない?」


 訓練室のファイトと、食堂の穏やかな空気を見て思ったが、ここは居心地のいい場所だ。

 学生同士が切磋琢磨し、時には事件を解決し、時には日常を送る。

 なんとなくこういう場所をレンさんが作りたかったんだろうな……というのが伝わってきた。


「そうだ、店長。会議まではまだ時間があるか?」

「ん? あー、そうだな、結構ある。わざとレンさんが早く来るように言ったからな。よっぽど組織を俺に見せたかったらしい」

「盟主らしい。そういうことなら……」


 ロウさんの雰囲気が少し変わる。

 時間に余裕があるかと聞いてきた時点で、その内容は概ね察せられた。


「俺と、ファイトしてくれないか?」


 案の定、ロウさんはファイトを申し込んできた。

 こういうときに、ファイトする流れになるのはこの世界の常識。

 もちろん否はない。

 理解ったと頷いて、俺はロウさんと共に訓練室のフィールドへと向かう。


「前々から見てみたかったけど、ついに狼牙さんと店長が戦うのね」

「やっぱり強いんですか? 彼」

「レンさんを除くと――ウチで一番強い」


 そんなヤトちゃんとエレアの会話が少し聞こえてきた。

 同時に、周囲のファイターたちも視線をこちらに向ける。

 今もまだファイトを続けているものを除いて、多くがこちらに寄ってきた。


「ロウがファイトするってよ」

「相手は誰だ……店長!? あのデュエリストの!?」

「ほんと!? アタシちょっと、本部にいる人に教えてくる!」


 なんて、賑やかなことだ。

 続々と集まってくる学生たちに視線を向けつつ、俺はフィールドにデッキを設置した。


「それじゃあ、改めて名乗らせて貰おう。俺はロウ。コードネームは狼牙」


 そして、ロウさんもまた。



「闇札機関が十二天将の一人! かたどるは騰虵とうだ! いざ尋常に、参る!」



 そう、宣言して――十二天将?


「幹部職! 秘匿組織にありがちな幹部職ですよ!」


 興奮するエレアをよそに。


「イグニッション!」


 俺達のファイトが始まった。

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